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鬼灯の冷徹 補佐官のサポーター
地獄の研修会

「…緩い。緩すぎる。最近の獄卒は緩すぎるよ。」

 亡者をポクポクとまるで肩叩きをしているようにしか見えない獄卒にたいしてそう呟いていた。

「お前、ちゃんとやっているんだろうな?」
「やってますよ? ほら、痛がっているじゃないですか。」

 と、先輩が注意しているときだけ勢い良く叩いてそら惚けて。

「ああいう顔を『狸』顔って言うんだよね。」

 ボクはとなりその獄卒を見ている獄卒に対してそう語りかけた。


 とまあ、そんな事があった翌日。

「さて、皆さん。本日の研修を担当する鬼灯です。」
「その補佐の云鬼です。よろしくね。」

 閻魔庁の裁きの間に新卒を集め、ボクと鬼灯様は頭を下げた。

「皆さんは仕事にもなれ始めたと思いますが、この時期は気の緩みが目立つものです。」
「つい先日も田宮伊右衛門という亡者を取り逃がす失態を働いた担当の新卒もお尻を100回叩いた。」

 ボクはそう言いながら、その担当者を見ると、青ざめた表情でお尻をさすってた。

「これは獄卒としての意識が欠如していることに他なりません。」
「今回の研修は地獄がどんなところか学び直し、獄卒としての意識を見つめ直して欲しいと言うのが目的だよ。」
「さて、まずは地獄がなんたるかを説明しましょう。」

 鬼灯様の言葉にボクがスイッチをいじくると照明が消えスクリーンに映しだされた。

「地獄は8大地獄と8寒地獄の2つに別れます。」
「8大地獄はとても熱い地獄で逆に8寒地獄はとても寒い地獄だよ。」
「そして、それぞれ16にわかれ合計17の部署で1つの地獄が形成されます。」

「さて、茄子君。何故何種類もの地獄があるかわかるかな?」
「えっと、亡者を虐める所!」

 ここは学校?

「確かに行為はそうだけど、目的が違うよ?はい。唐瓜君?」
「亡者に苦痛を与え、反省を促す所ですか?」

 唐瓜君の言葉にボクは満足そうに頷いた。

「その通り。そういう目的で亡者達を拷問するんだ。
さて、本日のメインイベントの会場まで行こう。」

 そう言いながら、メインイベントの会場まで移動した。

「さて、皆さんはこの本を知ってますか?」

 鬼灯様はそう言いながら絵本をを取り出した。そのタイトルはかちかち山。そのタイトルを見た獄卒達は肩を竦めたが、1人だけは顔を青ざめていた。

「皆。侮らない方が良いよ? この本には、獄卒とはなんたるか、地獄はなんなのか、それをよく知らしめる良い本だ。」

 そう前置きしてからかちかち山の本を音読し始めた。

「兎どんは欲深い狸どんを金儲けを口実に、一緒に柴刈りに出掛けました。
『かちかち』という音が聞こえ、背後にいる兎どんに問いかけてみました。
『兎どん。この音はなんだい?』
『かちかち鳥さ。
この山にすむ鳥だよ。』
その答えにさしたる疑問を抱かなかった狸どんですが、
『ぼうぼう』
という音とともに熱さが狸どんの背中を襲います。実はかちかちという音はかちかち鳥などではなく、兎どんが火打ち石で狸どんの柴に火をつける音でした。
後日、兎どんは大火傷した狸どんの所に来て薬だと偽り、辛子味噌をごってりと塗りつけ火傷を悪化させます。
後日狸どんは怒って抗議しますが惚けてばかりで取り合いません。そんな兎どんは狸どんに釣りに行こうと誘います。兎どんと狸どんは2隻の船で出掛けました。しかし、狸どんの乗っていた大きな船はすぐに沈み始めました。狸どんの船は泥船です。兎どんは狸どんに『さあ、この櫂に捕まって!』そう言いながら、狸どんの頭を何度も何度も何度も何度も何度も何度も殴りつけました。やがて、狸どんは力尽き、沈んで死んでしまいました。」

 そう締め括ると、皆が青ざめるなか、獄卒の1人が呟いていた。

「凄まじいですね。」
「御伽噺とはたいていそう言うものだよ。そもそも、狸どんはお爺さんの畑を荒らし、狸汁にされそうなところに、お婆さんを騙して解放してもらって、お婆さんを殺害して婆汁をお爺さんに食わせたんだよ? そんなのが話し合いでなんとかすむと思う?」
「狸どんを沈める為の泥船を作った兎どんはどんな気持ちだったか?
その兎どんに来てもらってます。」
「芥子(からし)と言います。以後お見知りおきを。」

 真っ白い兎の芥子ちゃんはぺこりと頭を下げた。

「芥子ちゃんは獄卒として活躍中なんだよ。じゃあ、芥子ちゃん。お願いね。」
「では、辛子味噌の作り方を。
ハバネロやジョロギアをすり鉢ですり、味噌とあわせ封をして熟成させます。」
「詳しいんだな。」
「薬と兎は縁深しだよ。中国では兎が月で薬をついてたといってた。日本ではお餅をついてたと言うけど、コレは餅つきと望月の洒落だよ。桃源郷にはやたら兎がいるけど、修行中の薬剤師だよ。」
「熟成させたのがコチラ。どなたに塗り込みましょうか?」
「そうですね。」

 呟き辺りを見ると亡者達は怯えていた。

「ここは、如飛虫堕処(にょひちゅうだしょ)。嘘をついて大儲けした人が堕ちる地獄です。脱税、横領、詐欺。現世ではそういうのを『狸』親父と言いますよね?」

 次の瞬間、芥子ちゃんは亡者の頭に血の華を咲かせていた。

「がぁぁぁぁっ!!!!」
「芥子ちゃんは『狸』という言葉に反応して暴走するんだよ。」
「最近、こういうぶっ飛んだ獄卒って少ないんですよね。」



「…思考の欠如ですかね? 皆さん、芥子さんの事しか書いてません。」

 研修レポートを課したら、皆芥子ちゃんの事しか書いてないらしい。

「この人、むっちゃうまい。」

 茄子君が描いた兎のパラパラ漫画は凄くキレイに書いてあるけど、途中で終わっていた。

「え? これでおしまい?」
「仕事の詰めもまだまだ甘いみたい。」

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あきゅろす。
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