[携帯モード] [URL送信]

第一章 異端の力
其の14

「相手だって、本気で言ったとは思っていない。君は、傷つけるつもりで言ったわけではなさそうだし」

「勿論、そうです」

 だが、言葉で言っていることが正しいとは限らない。もしかしたら、心の底から嫌になって言ってしまった。いくら普通に接しくれるとはいえ、ソラとイリアは別世界を生きている。

「なら、大丈夫。なら、そのことを謝りに行く?」

「いえ、そのことは。ソラには、謝りましたから」

 謝った――しかしそれは、一方的なものであった。イリアは謝ったと認識しているが、果たしてソラはそう思っているのか。だが、それを確かめる術はない。それだけソラに対し、無関心なのだ。

「なるほど。喧嘩の相手は、彼だったのか」

「は、はい……」

 すると、ユアンは急に笑い出した。そして「仲が良いね」と言い、暫く笑い続けている。余程面白かったのか、ゲラゲラと珍しい笑い方をしている。無論、これは相手に対して失礼な笑い方だ。しかし、イリアは「ユアンだから」ということで、何も言うことはしなかった。

「仲がいいですかね?」

「昔から“喧嘩するほど仲が良い”と、言うからね。まったく、羨ましいよ。僕はいまだに、彼女ができない」

 その言葉に、イリアは頭を振る。ユアンは人気があり、その気になれば、簡単に作ることができる。それは作ろうと本人が動かないだけであって、人気がないわけではない。「研究が忙しく作る暇がない」それが主な原因となっているのだが、ユアンは何も言わなかった。

 尊敬する人物が、困っている。そのように察したイリアは、早く彼女を作ってほしいと思いはじめる。しかしユアンに彼女ができてしまえば、悲しい思いをするのはイリア本人だ。

 複雑な心境の板挟みになってしまうが、この場合は仕方がない。憧れの人が幸せになれば、イリアは嬉しい。しかし、諦めたわけではない。言葉は悪いが、隙があれば横から掻っ攫う。

 虎視眈々と狙うイリアは、恋愛に関して高い情熱を持っている。だからこそ、ユアンに良いイメージを植え付けようと必死に努力をしていく。しかし同時に、それは態とらしい態度も生み出す。

「私、頑張ります。お仕事が、少しでも楽にできるように。そうすれば、ラドック博士も彼女を作る時間が持てます」

「ありがとう。でも、好みの女性が現れるかな」

 何気なく発せられた台詞に、イリアの胸がチクっと痛む。「好みの女性――」その言葉が示すように、ユアンはイリアに恋愛感情は抱いていない。ただ可愛い女の子として、見ているのだろう。

「きっと、現れます」

 心の中で思っている内容とは、違う意味合いを持つ言葉を発してしまう。今は、二人だけ。自身の想いをぶつけるには最高のシチュエーションであったが、イリアはそれを行おうとはしなかった。嫌な印象を与えたくない――ギリギリの位置で、理性が働いてしまった。

「僕の理想は、高いからね」

「そんなに、高いんですか?」

「重要ポイントは、料理が上手い女性だね。どうも料理だけは苦手で、作れないこともないが簡単な料理になってしまう。それに忙しい時などは、外食が多い。だから、偏食になってしまって」

 次々と語られる、ユアンの理想の女性像。一字一句聞き漏らさないようにと、真剣な表情で聞き入ってしまう。生憎、料理は得意分野ではない。だがこれを聞いたからには料理の勉強をし、好感度を上げなければいけないが、イリアの料理の腕前は下手に等しいものがあった。


[前へ][次へ]

14/24ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!