第一章 異端の力
其の13
「考えすぎだ」
「そ、そうでしょうか?」
「真面目は素晴らしいことだけど、硬い考えでは研究は行えない。ランフォード君は、其処を直すべきだ」
「そんなに、私は……」
「いや、真剣に捉えなくていい。そのようにすればいいということで、今すぐに治すことは無理だ」
イリアの性格を的確に判断し、欠点を指摘していく。何事も真面目に取り組む反面、イリアは優柔が利かない。その欠点はカイトスにとっては致命的であり、物事を柔軟に捉えるようにアドバイスを送っていく。それは、イリアの将来を思ってこその言葉。だが、とても難しい。
しかしいくらユアンからのアドバイスであっても、元からの性格を変えるのは難儀だ。懸命に努力をしようと考えるも、思考は嫌な方向に動いてしまう。その為、口に出す言葉は悲観的なもの。
聞かなかったということで、落ち込むイリア。これほど脆い女性だとは思ってもみなかったユアンは、思わず肩を竦めてしまう。しかし、ユアンはイリアを見捨てることはなかった。
イリアの心配を取り除こうと、ゆっくりとした口調で言葉を発していく。さすが、異性に人気が高いユアン。女性の扱いは、手馴れたもの。それに「自分のことを心配してくれる」という思いが、イリアの硬い表情を徐々に柔らかくしていった。そして、ぎこちないながらも口許が緩む。
「そう、笑っている方がいい」
「は、はい……」
さり気無い気遣い。ユアンは意識して行ったわけではないが、イリアにしてみれば嬉しいものであった。この時間が永遠に続けば――そう思ってしまうほど心地よい雰囲気に、夢心地となる。
元気を取り戻したイリアにユアン微笑を浮かべると、何か聞きたいことがあるかどうか訊ねる。するとイリアは、今まで気になっていたことを言葉として表す。それは、人類全ての質問でもあった。
「……何故、力を持って生まれてくる人がいるのでしょう? 私達は、普通の人間だというのに」
「それは、難しい質問だね」
そもそも、ラタトクスは突然変異の新人種。数世紀前からその存在は確認されていたようだが、本格的な研究や管理が行われるようになったのは、数百年ちょっと。よって“何故”という疑問は、いまだに解明されていない。いやその前に、人類は解明する気などない。
「人類の新たなる進化の形。そのように夢のある話なら、問題などない。だが、秘めている力は脅威となる」
「昔は、怖いと思っていました」
「それは、誰もが抱く感情。おかしいことはないよ。この研究をはじめる前は、僕も怖いと思っていた」
「信じられません」
「いや、これが普通だ」
「でも、その所為で……」
過去そのことで、喧嘩に発展してしまったことがある。いくら幼馴染とはいえ“怖い”という感情がどこかに残っていたことは確か。だからこそ感情的に冷たい言葉を言い、溝を作ってしまった。
それは嫌な思い出だったのだろう、先程までの明るい表情が一変する。そしてポツリポツリと自分の行いを語っていく姿からは「辛い」という思いが見え隠れし、ユアンの心を痛める。
「私、相手を怒らせてしまいました」
「それは、違う」
「違いません。私の心に……」
「何と言ったのかわからないが、気にすることはない」
「で、でも……」
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