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第一章 異端の力
其の15

「先程言っていた喧嘩のことだけど、美味しい手料理でも食べさせればすぐに仲直りができると思う」

「そういうものですか?」

「そういうものだよ。覚えておくといい」

 しかし、ソラの方が料理の腕前は高い。果たして、上手くいくのだろうか。全ては、料理の腕に掛かっている。このようなことになるのなら料理の勉強をしておくべきだったと、後悔してしまう。

 しかし、試してみる価値はあった。だがソラに料理を食べさせたとしても、反応はわかっている。「美味しくない」これは、確定であった。現に、ソラが作った方が数十倍美味しい。

 あれを越えるには、相当の努力が必要だ。だが、イリアは興味がない対象についての努力はしない。これが研究関連のことなら、明日から頑張るだろう。しかし、料理は嫌い。残念ながら、期待はできない。だが、今回は違う。ユアンの為に、努力は惜しんではいけなかった。

「努力は……してみます」

「何事も頑張る君だから、大丈夫だよ」

「はい。ありがとうございます」

 その言葉に表情が明るくなり、元気いっぽいに返事を返す。そんなイリアにユアンは微笑み返すが、内心は違う。更に濃い闇が、覆いつくそうとしていた。だがイリアは、何も知らない。

 楽しい会話を続けていると、いつの間にか目的の場所に到着していた。そのことに驚いたイリアは、自信の膝の上に置いてあったノートパソコンとユアンの顔を交互に見る。私的な内容の会話で、大切なことを聞くことができなかった。だが、ユアンは特に責めようとはしない。ただ「自分も悪かった」と言うだけで、面白い会話だったと笑うだけであった。

「続きは、食事をしながら話そう」

「はい。よろしくお願いします」

「パソコンを立ち上げたのに、すまないが電源を落としてほしい」

 様々な頼みごとをすることに申し訳ないという感情を持っているのか、苦笑いを浮かべながらイリアに頼む。動作のひとつひとつに、相手を思い遣る心遣いを表現していくユアン。だからこそ、異性に限らず同性からも尊敬の対象となり、男に好かれる男はかっこいい。

 その動作は、決して嫌味には見えない。ごく普通に行い、相手に好印象を与えてしまう。これは意識して行えるものではなく、生まれながらにして持っているものだろう。これを真似できる人物は、この世界に何人いるというのか。生来の天才は、様々なスキルを見に付けていた。

「さあ、行こう」

「はい!」

 嬉しそうなイリアの声音に頷き返すと、ユアンはスピードを速めた。そして、駐車場に向かう。




 車を駐車場に止めると、ユアンは先に車から降りてしまう。慌ててそれに続くイリアは、車から降りると同時に連れて来られた店に視線を向ける。其処は海を一望することができる、落ち着いた雰囲気の店であった。そして「海鮮料理の有名店」と、ユアンが説明していく。

 イリアは、魚介系は苦手であった。しかし、ユアンに好き嫌いがあるとは言えるわけがない。人の好意を無にすることは、失礼に当たってしまう。仕方なく無言のまま、後をついて行くことにした。

 昼ということで、店内は客で溢れていた。ウエイターからは、満席だから少し待っていてほしいと言われてしまう。そして席が空くまでの間に料理を選んでいてほしいと、メニューが手渡された。

「好きな物を注文していい」

「は、はい」

 そのように言われたところでイリアは魚介系の料理が苦手なので、すぐに選ぶことができないでいた。そもそも、食べられる料理が殆んどなかった。暫くメニューと格闘してみるが、とうとう根を上げてしまう。そして最終手段として、ユアンに選んでもらうことにした。


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あきゅろす。
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