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第一章 異端の力
其の12

「これ全部、レポートですか?」

「たいした内容ではない。それに書いてある内容は、カイトスなら誰でも知っていることだ」

「そんなことは、ありません」

 先程まで緊張で身体が強張っていたイリアであったが、今は普通の落ち着きを取り戻している。それにより、ユアンがどのように人気があるのかを懸命に語っていく。それはある意味で、必死だ。

「それは、知らなかったな」

「ご存知、なかったのですか?」

「そのようなモノは、表に出ることは少ない。それにアカデミーに存在するとは、思ってもみなかった」

「それだけ、人気があるのです」

「嬉しいね」

 流石のユアンもファンクラブの存在まで、知らなかったようだ。その為、苦笑いを浮かべながら頭を掻いている。ユアンは「自分は、そこまでの存在ではない」と謙遜しているが、現に尊敬している人物は多い。ユアンは、それだけの実績を持っているカイトスであった。

 イリアもその中の一人であり、尊敬していなければユアンを見て恥ずかしいとは思わない。しかしその尊敬の裏側に恋心が含まれているということは、イリアは気づいてはいない。

「え、えっと……どれでしょうか?」

 恥ずかしさを隠すように、話の内容を元に戻す。このまま話を続けていれば、イリア本人がファンクラブの会員だとバレてしまうからだ。この件に関しては、普通の人間と何ら代わりがない。

 しかしイリアは、ユアンを意識しすぎている。故にファンクラブに入っていることを知られたら、どのように対応していいのかわからなくなってしまう。その為、この件に関しては口をつむぐ。

「これを開いてくれるかな」

 画面上を指差し、ポンっと叩く。「遺伝子構造と潜在的能力について」と書かれていたそれは、能力研究のレポート。ふと同時に、イリアは自身が行おうとしているジャンルに気付かされた。

 ――能力研究とは。

 抑えきれない興奮の下、促されるままイリアはそれをクリックする。すると、ズラリと専門用語で書かれた文章が並ぶ。それは能力研究をしているカイトスでないイリアにとっては、難しい内容だった。読み上げるだけなら、何ら問題はない。しかし、感想は述べることはできない。

「……力を使えるラタトクスは、遺伝子レベルで我々と違う。そのような内容が書かれている。簡単に説明するとね」

 内容を理解できないイリアに、優しく説明していく。急な発言に驚いたイリアはユアンの顔を一瞥すると、再びパソコンの画面に目を落とす。そして、自身がこれに参加していいのか迷ってしまう。

 そのことをユアンに訊ねると、詳しく話さなかったことを詫びた。それに対しイリアは首を左右に振ると、自分が尋ねなかったのが悪いと言う。ユアンを悪者にしてはいけないという想い。それが空回りをして、落ち着いてきたと思っていた感情を再び高ぶらせてしまう。

「ランフォード君は、悪くはない」

「いえ……本当は、あの時に聞かなければいけなかったのです。能力研究のことだとは、知りませんでしたから。てっきり、別の研究だと……す、すみません。早とちりをしていました」

 あの状況で「能力研究」と判断するのは、まず無理だろう。それにイリアが行っている研究は、全くの別ジャンル。微量の説明から適切な判断を下すのは、思った以上に困難なもの。それに、人間は神ではない。間違いは当たり前であったが、イリアはそれを許さない。


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