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第一章 異端の力
其の11

「ところで、昼食はまだかな?」

「いまから、食べようと思っています」

「それなら、一緒にどうかな? 今度発表する内容も、知っておいた方がいい。嫌なら、構わない」

「そんな……御一緒させていただきます。えーっと、その……ラドック博士と食事ができるなんて、嬉しいです」

「素敵な店を案内するよ」

 その言葉に続き、ユアンは車に乗るように勧めた。身内以外の男の車に乗り、食事に行く。それは、はじめての体験であった。その為、今まで味わったことのない緊張により身体が固まってしまう。

 乗るのを躊躇い、どうすればいいか迷う。それに、このようなところを誰かに見られたら――

 アカデミーでのファンクラブ会員数は、半端ではなく多い。その中の誰かに知られたら、安全にアカデミーに通えなくなってしまう。さすがに命の危機とまではいかないが、嫉妬に駆られた女性は恐ろしい。

「どうした?」

「な、何でもありません」

 周囲を見回しクラスメイトがいないことを確認すると、イリアは慌てて車に乗り込む。そしてシートベルトを締めると、緊張がピークに達したのか動かなくなってしまう。その素早い動きにユアンは目を丸くするも、イリアの行動が面白かったのかクスクスと笑みを漏らし、大丈夫か訊ねた。

「へ、平気です」

「緊張をしているようだね」

「す、少し……」

「別に、取って食おうというわけじゃない。そんなに緊張をされると、こちらが悪いように思われる」

「……御免なさい」

「謝ることはないよ。さて、出発しようか」

 ユアンは車に内蔵されたナビを弄くると行き先を打ち込み、車を発進させる。店に到着するまでの、ひと時のドライブ。イリアは何と話しかけてよいか思考を働かせも、舞い上がり半分停止した頭ではなかなか思いつかない。寧ろ考えれば考えるほど不可思議な想像をしてしまい、赤面してしまう。

 するとパニック陥っていたイリアに、ユアンが話し掛けてくる。その声にピクっと身体を震わせ反応を見せたイリアは、何事だと左右を見回す。その反応にユアンはクスクスと笑うと、カバンの中からノートパソコンを取り出し、その電源を入れるように指示を出していく。

 それにどのような意味があるのかと思いつつ、イリアはユアンの指示だということで素直に従う。

 イリアは後ろの席に置いてあったカバンからノートパソコンを取り出すと、電源スイッチを押す。だが立ち上がったと同時に画面に表示されたのは、パスワードを入力する画面であった。

「あ、あの……」

「ああ、そうだった。画面を此方に、向けてくれると有難い。盗まれたら大変なことになってしまうから、パスワードの設定をしていた。と言っても、それほど重要なデータは入っていない」

「ご謙遜です。博士は私達では考えられないような、立派な研究を……」

「そんなことはない。ところで、パソコンを――」

「は、はい」

 イリアは、慌ててノートパソコンをユアンの方向に向ける。するとユアンは器用に片手でパスワードを打ち込むと、再び画面をイリアに向けた。その瞬間、画面に表示されたアイコンの数に驚く。それは天才と言われるユアンの知識の高さを表し、様々なジャンルに精通していることを教えてくれた。それらを見た時、ユアンが別の世界の人物だということに改めて気付かされた。

「……凄いです」

「どうした?」


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