EternalKnight
<受け取る言葉、預かる言葉>
<SCENE082>
「理由が無いのであれば、もう諦めろ」
理由は無い。けれど俺は諦めたくない。
あぁ違う。……俺が諦めたくない、と思ってる。ただそれだけで理由としちゃ十分なんだ――
「お前は良くやった、我がただ強すぎたのだ。さぁ……我に絶望の顔を見せてくれ――」
《混沌》の声が聞こえなくなると同時にソレは動き出す。
迫る。迫ってくる。
一歩ずつ、こちらを恐怖で呑み込もうとするかの様に――
燃える三眼のみを爛々と輝かせる《混沌》と同質の存在が、一歩、一歩近づいてくる――
周りを数えると黒い影は十一人……実に三十三の眸が俺を追い詰める為に近づいてくる。
最後まで、諦めない……
それが、支えられ続けてここまで来た俺に、唯一できる事。
叶、お前を守りたかったのに、お前の力で戦うしかない俺を許してくれ――
(……翼)
無謀でも、無茶でも、引くわけにはいかない戦いが存在する。
そして……それは間違いなく、今……目の前にある。
「俺は諦めないし、絶望なんてしない」
「……まだ言うか、結果などもはや見えているだろうに」
「そんなもん知るかよ、まだ起きてもいない事を勝手に決め付けるな」
「もういい……お前は死ね。せめて死ぬ直前の絶望に満ちた顔だけでも楽しませてもらう」
《混沌》が言い終わると同時に、十の黒い三眼が一斉に俺に襲い掛かっってきた。
俺は、右手に収まる魔を断つ剣を強く握りしめ、前に踏み出す。
迫り来る黒い影を全て無視しながら俺は先程まで喋っていた《混沌》に切りかかった。
本体さえ潰せば、この分身達も消える筈――
そして、握り締めた剣を振り上げた。効く効かないはこの際関係ない。
最期まで抵抗したいから……ただ、そうするだけ――
そして、振り上げた剣を振り下ろすと同時に、鈍く短い金属音が聞こえた……
それが魔を断つ剣が折れたと気が付いた時には、別の鈍い音が、俺の中で響いた。
その音が、迫っていた黒い影に左腕の折られた音だと認識した時には、胸の中心から、赤い液体にまみれた黒い腕が突き出していた。
「――――あ」
その腕が、俺の胸を後ろから貫いた黒い影のモノだと気が付いた時には、その腕は既に引き抜かれ、俺は地面に転がっていた。
胸に穿たれた孔だけが痛覚として認識できた。
自分から流れ出た血溜まりに沈む。
流れ出る血が、次から次へと金の粒子となって消えてく。
視界に納められる映像は一つだけ、他を確認しようにも、動かないのだから仕方ない。
ただ、その唯一の視界の中にあった右腕を見て、何故動けないか把握できた。
右腕は、曲がるはずの無い場所から曲がっていた。だけど痛みは感じない。
きっとそれは、胸の孔の痛みがあまりにも強烈過ぎるからなのだろう。
つまり、動かないという事は動けない状態にされている、という事だろう。
折れているのか、潰れているのか見えないから分からないけど、そんなとこだろう。
もう、動けない。体が動いてくれない。諦めたくないのに、動かない。
「つまらない……どうしてお前は死にそうなのに、絶望しない」
「―――――――――――ッ」
自分でも分からない、と声を出そうとしたが、言葉が発する事が出来ない。
痛い、とんでもなく痛い。何も出来ない。
でも、何故か、こんなにも痛いのに、こんなにも苦しいのに、こんなにもまともに思考できている。
だがそれも、もう終わりかもしれない。
……唯一写る視界の中にある、右手の指が、霧のように霧散し始めている。
あぁ……どんな陳腐な奇跡でもいい。俺達に力を――
「ホントに使えない奴だな……目障りだ、さっさと消えろ」
「ダメェェェ!!」
瞬間、叶の叫び声が聞こえた。
いつの間にか、《天昇》の力が体から消えている。
そして、俺はまだ《混沌》にやられていない……
つまり、叶が人型の状態で、俺と《混沌》の間に割って入ったのだろう。
――嫌だ、叶が殺されるなんて嫌だ。
でも、俺には何も出来ない。
……だから、誰か。俺達を助けて――
……誰か、俺達に力をくれ――
そう願った瞬間、何かが砕ける音がした。

<Interlude-叶->
「ホントに使えない奴だな……目障りだ、さっさと消えろ」
そう言いながら《混沌》は手元に剣を顕現させ、それを振りあげる。
このままだと、翼がやられちゃう――
「ダメェェェ!!」
瞬時に人型に戻り《混沌》から翼を守る様に、両手を広げて立ちふさがった。
一瞬《混沌》の動きが止まる。だが、その口元は明らかに吊りあがっている。
それを見て、あぁ、私は殺されるんだ、と悟って瞳をぎゅっと閉じた。
瞬間、何かが砕ける音がした。
だけど、それはこれから消える私には関係ない。
なのに、訪れると思っていた終わりは、その一撃はいまだ訪れない。
変わりに、《混沌》の声が聞こえた。
「――まさか、結界の基点を外側から破壊して入ってくるとは……だが、こいつ等を潰せば、何も出来まい!」
あぁ……今度こそ、私は終わりか――
そう想った瞬間。
「――なッ!?」
閉じている目蓋すら透過する光が、私の瞳を灼いた。

<SCENE083>
光に、強烈な光に包まれる。
意識が、その光の中に沈んでいく。
――どう……なったんだ?
不意に、体が何処も痛くないのに気が付いて、自分の体を見る。
傷一つない……服装も普段と変わらない。どう……なってるんだ?
「――始めまして、三枝翼君」
呼びかけられ後ろに振り向く……そこには叶と長く美しい金髪の女性がいた。
「叶、えっと……この人は? どうして俺の名前を?」
「さぁ、私もさっき会ったばっかりで……」
「そうですね、私があなたを知っているのはマスターの記憶から情報を得たからです」
「……マスターって?」
「はい、あなたも良くご存知の西野聖五が私のマスターです」
「聖五さんだって!?……それはどういう事だよ」
まさか、聖五さんも聖具と契約してたのか?
いや、前回の戦いに参加してたんだから、聖具については知ってる筈だし――
「もう既にお気付きかもしれませんが、私は聖具です。階級はBクラス、名を《聖賢》といいます」
「わかった……それで、一体聖五さんの聖具が俺に何のようなんだ?」
「はい、私はマスターに伝言とあなたの力になるように言われてきました」
「伝言って?」
「はい、えっと『力をやる、さっさと《堕天》をぶっ飛ばして戻って来い』だ、そうです」
なんか聖五さんの声を完璧に真似てるんだが……そんな事する必要あるんだろうか?
「そっか……俺もそうしたいところなんだけどさ、俺達じゃ無理みたいなんだ」
「そうですか……ですが、その為に……力を貸すために私はここに来たんです」
「ありがたいけど無駄だと思う、今更Bクラスの力を合わせてところでどうにかなる相手じゃない……」
「それは承知しています、だから私の力全てを《天昇》さんにあげようと思いまして」
「ちょっと待った。そんな事したらあなたは――」
「私の事はいいんです。私は本来なら既に存在しない筈ですから……」
「それはどう言う――」
「とにかく、私のことはいいんです。どっちにしても、あなた達が《堕天》を倒してくれない事にどうにもなりませんから」
「それは……確かに」
そうだ、俺達の力だけじゃどうにもならない以上……彼女の申し出を断る事など出来ない。
「分かってくれたならいいです。それでは、受け取ってください《天昇》さん」
そう言った瞬間、こちらの反応を待たずに《聖賢》の体が金の粒子に変わり始める。
「あぁ、そうだ。翼さん。最後に頼まれてくれますか?」
「お願い?」
「はい、マスターにお世話になりました、又いつか魂がめぐり合えるときを楽しみにしています、と伝えください」
「分かりました、必ず伝えます」
その言葉が聞こえたのか、聞こえなかったのか《聖賢》は最後まで笑顔で金の粒子になって行った。

<Interlude-叶->
金の光が溶け込んでくる。
瞬間、莫大な知識と情報が流れ込んでくる。
戦闘技術、戦略、言語――次から次へと情報が駆け巡る。
「――っ」
猛烈な頭痛、脳が焼き切れそうな程、情報が駆け巡る。
自分がどんな体勢でいるのか分からない。
「お、おい! どうしたんだ! 叶っ!?」
痛い、痛い、痛い――
翼の声が聞こえた、けれど情報の流れは止まらない。
元からそんな量の情報は私に入る訳がない。
いらない知識、情報を片っ端から新しく入ってくる知識を上書きする。
そして――突然、ぴたりと情報の流れが止まった。
「返事しろ、なぁおい。叶!」
――翼の声が聞こえる。
そこで、自分の状態に気がついた。
どうやら倒れていたみたいね……翼に心配掛けちゃ駄目だし、早く立ち上がらなきゃ――
「心配掛けてごめんね、翼。大丈夫」
そう言いながら私は立ち上がった。
「そっか……それで、一体なんだったんだ? 急に倒れたりして」
「えっと、なんていうのかな。《聖賢》さんの知識みたいなのが頭の中に流れ込んできたの……その量が多すぎて――」
「そうか……じゃあ《聖賢》の力ってすごいものなのか?」
「違うわ、多分このまま戦っても《混沌》には勝てないと思う……でも意味はあったわ。それもすごい収穫が――」
「どういう事だ?」
「それは、後で説明するわ。もうこの空間も消滅しそうだし」
「ちょっと、待てって、叶。この空間が消滅したら《混沌》と対峙する事になる、その前に説明――」
「もう時間がないみたいなの、でも大丈夫。何とかなるから」
「わかった……俺は叶を信じる」
「うん、ありがとね、翼……それじゃ、行こっか」
瞬間、光が弾けて、視界が元に……果てある荒野に戻った。

<Interlude-聖五->――昼
《聖賢》の力を全て打ち込んだ瞬間、全身に満ちていた力が全て消えた。
その感覚が妙に虚しかったが……同時に完璧に俺達の作戦が成功した事を意味する。
「まさか……全ての力を翼に譲渡するとはな。確かに、切り札といえば、切り札だ――」
《堕天》の目がこちらを見据えている。その視線の前に一歩も動けなくなる。
――駄目だ。《聖賢》がなくてもオーラの力で何とか逃げ遂せると踏んでいた俺が浅はかだった。
聖具があったからこそ、まともに正面からやりあえた。
全てが次元違いの相手からなんて逃げれるわけがない。
否、その殺意に中てられて、動く事すら出来ない。
「だが、その程度で状況は変わらない。そして……その程度の事だがお前は我の怒りに触れた」
瞬間、辛うじて見える程度の速度を持った一撃を腹部に当てられ、吹き飛ぶ。
そのまま襤褸雑巾のように地面に叩きつけられた。
殴られる瞬間と落ちる瞬間に本能的にピンポイントでオーラを収束させたお蔭か、息が一瞬できなくなる程度ですんだ。
――駄目だ、俺はここで殺される……何をしても、俺が生き残れるわけが無い。
そう思いながら、上半身を持ち上げる。そして、それを見た。
上体を持ち上げ、移り変わった視界に入ったのは、なにやら歪んだ空間――
……どんな能力か知らないが《堕天》の放つ攻撃に耐えられるわけが無い。
ごめんな……琴未。俺は、お前に何もしてやれなかった――
だが、空間の歪みから生じ顕現したのは、何の攻撃でもなかった。
――門。それはどこかで見たような門だった。
それは紅蓮との別れの際、それは確かに、紅蓮が潜っていったあの門に酷似していた。
「馬鹿な! 何故こんなにも早く守護者が――」
《堕天》の叫びと同時に、門がこちら向きに開く。
そこから現れたのは――
「よう……久しぶりだな、親友」
――俺の、最高の親友だった。

<SCENE084>
目の前には果てが崩れた荒野が広がり、視界の中心には一人佇む《混沌》が見える。
「ようやく出てきたか……さて、早速で悪いがお前達にはそろそろ消えてもらう。予想より遙に早く守護者どもが来たせいで遊んではいられなくなった」
「――それは良かった。守護者ってのがどんな奴か知らないがお前の敵って事は俺達の味方だ」
「御託はいい。これ以上貴様等に割く時間など無い」
そう言いながら《混沌》は手元に黒い刃を顕現させる。
なぁ、叶……《混沌》は本気みたいだけど、ホントに大丈夫なのか?
(大丈夫《聖賢》さんが教えてくれたの……この器は、この体は《混沌》のモノだけれど、同時にまだ翼のモノだから)
どう言う事だよ――
(気持ちを強く持って、翼。私達と《混沌》に力を与えている源は、同じ器の中にある力だから)
それは……つまり、俺達も――
(えぇ、《混沌》がSSSクラスである以上……私がSSSクラスになれない道理なんて……無いわ)
……そうか。それじゃあ、俺はもっと強く在らなくちゃ――
そうだ、俺は……兄さんに《聖賢》に叶に力を貰ったんだ。
だから……やれる。絶対に《混沌》なんかに負けはしない!
「俺は、お前なんかに負けはしない!」
「たかがSクラス程度が……戯れるな!」
「――あぁ、だから……お前と同じ領域に俺も立ってやる」
「――――何?」
呆ける様に《混沌》は停止する。
――ただこれから起こりうる光景を見つめている。
あぁ……だったら、見せてやるさ――

<Interlude-混沌->
「――――何?」
何が起きた? 何故《天昇》は霧散した?
分からない……今から何が起ころうとしている?
『――あぁ、だから……お前と同じ領域に俺も立ってやる』
まさかホントにそんなことが起こるのか?
――ありえない。ありえない筈だ。
「馬鹿な……」
そんな馬鹿なことがあってたまるか!
それでは、目の前の光景は一体何なのか――
《天昇》が霧散して飛び散った光が、翼の元に集う。
周囲にある光が……この空間の全ての光とも思える光が、翼の元に集う。
果てある荒野を削り取り、それ等全てが光に変わり、翼の元に集う。
集いに集った光は、両腕を光が包み、それが創られる。
同時にその光は小さめのシャープなプレートが五枚、創り上げて行く。
――それらの完成と同時に光の収束が、収まる。
佇む翼の両腕には、純白で、所々蒼のラインが入った手甲が――
その背中には、淡く蒼白い光に包まれた、ペンタグラムの頂点となる位置取りにある、五枚のプレート。
そこから感じる力は、まるで……我と同じ領域クラスSSS――
「何故だ……何故貴様が、我と同じ領域の力を持つ!」 
ありえない、ありえる筈が無い。
この器の力を六割ほど集めて、初めて内面世界のみにおいてだがこの領域に到達する事が可能なのだ。
我がその六割を使っていると言うのに、どうして……奴がSSSとして、そこにいるのだ――

――to be continued.

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