EternalKnight
<賭けと切り札>
<Interlude-聖五->――昼
――構えを取りながら、高速で思考を展開する。
(聞きたい事……ですか?)
あぁ、俺の力と声……メッセージみたいなモノを、翼に届かせる事は出来るか?
(……結論から言うと恐らく可能です、ですが――)
どうした?
(――マスターが危険に晒されます)
具体的には?
(メッセージとマスターの力……それだけで届ける事出来ません)
じゃあなんで『可能』なんだ?
(それだけでは届かないので、私がそのメッセージと力、勿論私の力も含めて全てを運ぶからです)
つまり、お前が伝えに言ってる間は無防備になるのか、俺は?
(いえ、私の力も含めて全て翼君に譲渡する事になりますから、マスターは完全に、永続的に無防備になります)
……ちょっと、待て。言い出した俺が言うのもなんだが、それじゃあお前は――
(翼君の聖具の力の一部になるでしょう、そして、私の意識は確実にそれで消滅するでしょう)
――駄目だ、今のは無しだ。別に何か方法を見つける。
(マスター……メッセージはともかく、力の譲渡は今の状況で我々に出来る唯一の策だと私は思いますが?)
駄目なモノは駄目だ。お前を犠牲にして助かろうと思ってない。
(ですが、このままでは私もマスターも翼君も……琴未様も、《堕天》に消滅させられるかも知れないんですよ?)
!? 琴未の事、どうして――
(マスターの現状は、復活させていただいて、すぐに調べましたから。それで、どうしますか?)
俺は……お前を含めて、みんなを守りたい――
(マスター、現状でそれは不可能です。ですが、場合によっては犠牲は私だけで済みます)
……仕方、ないのか?
(えぇ、それに私が居たままでは魔獣に狙われて、琴未様と幸せに暮らせませんよ?)
……すまん。せっかく復活させてやれたのに、こんな最後にさせちまって……
(いいんです、私はマスターの力になるだけですから)
わかった。……それじゃあ、行こうか。
(はい、やりましょうマスター)
こちらに向かい黒い剣を構えて《堕天》が俺に詰め寄ってくる。
――今は、コイツをどうにかするしかない。
(全力でサポートします、がんばってくださいマスター)
言われなくてもしっかりやるよ、こんなところで、散るつもりなんかないしな!
拳を握り締め、《聖賢》から与えられる拳舞を一つを選択する。
その情報を瞬時に先程まで使っていた拳舞に上書きするように脳内に焼き付ける。
洗礼されているが故に、圧倒的な速度の相手と戦えば、いつしか行動を読まれてしまう。
――だから、別の動きに切り替える。
脳内に焼かれた戦術をすぐさま実践する為に、俺は前へと踏み出し拳を撃ち出した。
無駄のない拳舞と高速の剣撃が激突し、互いに譲らず、金属の衝突音を奏でる。
加速する高速の思考が、一体どれだけの間、自分が拳舞を続けているのか分からなくさせる。
突然《堕天》が後方に跳躍し、距離が開く。
こちらとしては時間が欲しかったところだ、深追いはしない。
――《聖賢》一体どれくらい俺は《堕天》と撃ち合ってた?
(五分程です)
五分か……
増援を待つ……まぁ、時間稼ぎをするなら、短すぎるな。
だけど、翼を助けるにはまだ十分に時間があるってことだ……
まぁどのタイミングで来るかなんてわからないけどな。
「どう足掻いても無駄さ……お前も、翼も本当に諦めが悪いな」
「って、事は……翼はまだ抵抗してるんだな?」
「そうだな……しつこい事に、まだ抵抗している。諦めの悪いモノだ」
「それじゃあ、俺もまだまだ抵抗しないとな」
「まだ、抗うか……だが、貴様はもはや限界であろう?」
確かに、その通りだ……次に打ち合えば、いつ力が途絶えるか分からない……
待て……《聖賢》もう力が無くなりそうなんだが……これでホントに翼の助けになるのか?
(大丈夫です、翼君に届けるのは、私を構築しているエーテルですから、マスターの感じている私の内部のエーテル残量とは別のモノです)
そうか……なら、翼もまだがんばってるみたいだし……最後の勝負と行こうか?
「さぁな、取って置きの切り札があるかもしれないぜ?」
「ふん、そのようなモノがあるとは思えなんな」
(マスター……勘付かれるような言動は――)
問題ないさ。これは、ちょっとした賭けなんだから。
(賭け……ですか?)
そう、だから大丈夫だ……成功させる。
いや……お前を犠牲にするんだ、絶対に失敗させたりはしない――

<SCENE081>
白と黒の刃が互いに吸い寄せられるように近づく。
次の瞬間には、二つの刃の距離は当然のように零になる。
そして、黒い刃はこれまた当然のように白い刃を何の障害もないかの如く両断された。
「クソッ……全部一撃かよ、三本続けてじゃ決定的か……」
魔を断つ剣を持ってしても、打ち合うことすら不可能らしい。
それこそ、紙でも斬るかの用あっさりと両断してくれる。
もう、エーテルの残量も残りわずか……いや、始めから無謀は承知の上の事、今更焦っても仕方ない。
中程で両断されている剣を投げ捨てながら次の剣を取る為呟く。
「――DemonBane」
瞬間、手元に五芒星が輝き、一瞬で白い刃の柄が右腕に納まるように顕現する。
「……それで四本目か。抵抗するのはいいが同じ力ばかりだとさすがに我も飽きるのだが?」
確かに……同じ方法で抵抗しても無駄なだけだが……実際何をしても無駄なのは分かっている。
「お前のことなんて知るか。こっちにも色々と考えがあるんだよ」
「……付き合って居れん。仕方ない、それではこちらから少し……戯れてみようか?」
そう言いながら《混沌》が手に持っていた漆黒の剣を荒野に突き刺した。
「――TheFacelessGod」
そう聞こえた瞬間、黒い剣を突き刺した場所からヒビが入り始め、内なる世界が汚染されていく。
果てある荒野に、果てある空に、中心に存在した柱に、黒いヒビが入り、汚していく。
崩れる、内なる世界の風景が崩れ去っていく。
そして、果てある荒野は崩れ落ち、異界に塗り替えられる。
それは、共存できぬ二つが同時に存在しうる矛盾に満ちた有り得てはならぬ世界。
空……否、空間は極限まで輝き、同時に極限まで昏い。
大地……否、足元は確かに存在するが、至る所に走るヒビが今にも崩れそうな程に脆く思わせる。
《混沌》が力の名を上げてから僅か数秒で、それらは完了した。
「さぁ、これを見てもまだ抗う気になれるかな?」
歪んだ世界の中心に《混沌》がたたずみ、こちらに問いかけてくる。
「……そんなもの今更だ、何を見せられても抗い続けるさ」
「誰が、この異界を見ろと言った? 我が言ったのはこれから起こる出来事の事だ」
――何?
「さぁ、得と見ろ! 這い寄る混沌たる我が力! 千の無貌たる我が力を!」
そしてそれは、足元に……地面に走る、黒い線から這い出して来る。
不定形な塊が黒い線から、線でしかない筈の場所から、這い出してくる。
そして、その歪な黒い塊達は次第に人型と成っていく。
その無数の人影もまた、禍々しい鎧で覆われ燃える様な三眼を輝かせている。
その姿は《混沌》と全くといっていいほど同じだった。
なんだよ……こいつ等……
(!? そんな……)
どうした、叶?
(……アレ、全部に《混沌》と全く同じ力を感じる)
「何だと!? っくそ……もう何でもアリかよ」
「そうだ。これが、この力がSSSだ。さぁ、絶望に埋もれるがいい」
一対一でアレだけの戦力差だったんだ。
始めから無理だと承知でやってたが……ここまで違うのか――
(こんなの勝てるわけ無い。始めから無茶だったけど……もう、諦めるしか……無いわ)
でも、それでも……『諦めちゃ駄目だ』と思えた。
「……何故、何故だ! 何故貴様はこれだけの差を見せ付けられて絶望しない!」
「理由なんて……自分でも分からねぇさ」
――ただ、今までみんなに支えられて、後押しされて、絶望しかけた俺は立ち上がってきた。
だから、一番近くで支えてくれた、叶が諦めかけた今だからこそ……俺が支えてやらなきゃいけないんだ。
いや、違う。俺に支える事なんて出来ない。
だから、せめて……俺が諦めないようにしないと――

<Interlude-堕天->――昼
「まだ、抗うか……だが、貴様はもはや限界であろう?」
目算で後、戦えて五分程だろうか? いや、さらに短いかもしれない。
「さぁな、取って置きの切り札があるかもしれないぜ?」
「ふん、そのようなモがノあるとは思えなんな」
そんなものがあるのなら、何故今までそれを使わずに追い詰められた?
それはつまり、切り札など無いく、ただの虚勢という事を意味する。
「そいつは……自分の目で確かめろ!」
瞬間、男の右腕に力が集まるのを感じた。
「それが……貴様の言う切り札か?」
「……だと言ったら?」
力の一点集中による超打撃……か。
確かに、中りさえすれば、我を倒す事も可能かもしれんな。
「そんな一発勝負に攻撃が……我に中ると思っているのか?」
「さぁどうだろうな? だけど、やってみる価値はあるだろ?」
まぁ良い。ならば次の一撃で幕だ。
「無駄な足掻きをするのは自由だ、だが、貴様一人ではどうにも出来ん」
「……さぁ? それはどうだろうな?」
「これ以上の会話は無駄だ……始めようではないか?」
「そうだな。俺の最後の……最大の一撃をその身に食らえ!!」
「大声を張り上げたところで……何が変わるというのだ?」
「うるさい! かわされたら終わりなんだよ! 気合くらい入るってもんだろ!」
一瞬の静寂を見せて、男は前に……こちらに向かって進んでくる。
速い――
右腕に回さなかった残り全てを足にでも使っているようだ。
だが、それでは、我を倒す事など出来まい。
打ち込まれる右拳に触れれば大きなダメージを負う。
中り所によっては致命傷にすらなりかねない。
ならば……手に握られた黒い剣をぶつけてそこに力を消費させるのみ。
こんなもの、砕けてもすぐに変えは用意できる――
思考が加速する。
右拳が迫る。同時に視界の隅に、紅い光が迫っているのを捕らえた。
そして、一瞬そちらに目線が向かう。その先には――
まだ戦える状態で残っていた、退魔師と呼ばれる者たちが二人。
直感的に、迫る紅い何かを左手で止める。
まさか……あの大声は、あの退魔師二人に我の隙を作るように仕向けさせる為に?
!? まずい、男の右拳は?
瞬時に、視線を戻す。拳が迫る、それは防げるか、防げないか……ぎりぎりの間合い。
――まずい!
あわてて右手の黒い剣でその右拳を止めようと構え――
次いで、何かが砕けるような金属音。
つまり、黒い刃は、男の右拳を止めたのだ。
間に合った。……なんとか防ぐ事が出来た。
安堵が訪れる……だが、視界に何かが映った。
それは、男の左拳。なんら力を感じない、左の拳。
何の力も感じない、恐怖も感じない。
だがそれを防ぐ事は、体勢、反応速度から考えてどう会っても不可能だ。
どんなに急いで対応しようと、それは絶対に中る。
だが、中ったところでどうという事は無い筈だ。何の力も感じないのだから。
では何故、そんな意味の無い攻撃が中るというだけなのに、目の前の男は笑っていのか――

<Interlude-聖五->――昼
「無駄な足掻きをするのは自由だ、だが、貴様一人ではどうにも出来ん」
待て、何か……何か忘れていないか?
そう、俺にはまだ味方が居る――
「……さぁ? それはどうだろうな?」
だったら、少しでも成功の可能性をあげないと。
「これ以上の会話は無駄だ……始めようではないか?」
「そうだな。俺の最後の……最大の一撃をその身に食らえ!!」
出来るだけ、現状を分かりやすく……彼等に説明する。
「大声を張り上げたところで……何が変わるというのだ?」
「うるさい! かわされたら終わりなんだよ! 気合くらい入るってもんだろ!」
《聖賢》これで、お別れだな。
(そうですね……マスターとはこれでお別れです。ところで翼君にはなんて伝えればいいでしょう?)
そうだな……じゃあさ『力をやる、さっさと《堕天》をぶっ飛ばして戻って来い』って伝えてくれ。
(……それでいいんですか?)
問題ないさ。んでさ、今までありがとな、お前が居てくれたから、俺は今も生きてる。
(違います、前にも言ったでしょう? そもそも私が居なければマスターは巻き込まれなかったんですから)
そんなこと無い。お前が居なきゃ、俺は四年前も、今も自分の力の無さに後悔していたはずだから――
今の俺が俺として生きてるのは、お前のおかげだ。
(でも、マスターも私を助けてくれましたから)
……なぁ《聖賢》もう、前みたいな思いはしたくないから、今のうちに別れの挨拶を済ましておこうか?
(そうですね、今度は私が復活するなんてことは絶対にありませんし……別れの挨拶ぐらいしておきましょう)
今まで、短い間だったけど、ありがとう《聖賢》そして……さよなら。
(はい、今までありがとうございました、マスター……さようなら)
別れ言葉は継げた。ならば後は……ただ全てをかけるのみ。
俺は右手に集めている力以外を足に集中させて、思いっきり地面を蹴った。
地面を爆ぜるように弾き。一気に《堕天》との距離を詰める。
近づく、近づく、近づく――
目標は既に目の前、そして極限まで力を込めた右の拳を打ち出す。
瞬間、《堕天》が何かに反応し、左拳をあらぬ方向に向けた。
……残るのは右腕に握られた剣のみ。
そして、撃ち出した右腕と《堕天》の右手に握られた剣が激突する。
黒い剣が砕け散る、同時に、腕に集めていた力も消えた。
だが、だがしかし――
俺の目的は元より、《聖賢》を構成する力を翼に送り込む事のみ。
つまり、聖具《聖賢》の一部で《堕天》本体……つまり、翼の体に触れるだけでいい。
そして、今《堕天》を守る力は残っていない。
無防備になった腹部へ左腕を伸ばす。
思わず、口元が歪む。成功した。これで希望はまだ費えない。
俺の、俺達の全てをかけた最後の一撃は、成功したのだ――

――to be continued.

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