EternalKnight
<旧き聖神>
<SCENE085>
光の収束が終わる。
――すごい……今までとはまるで違う。全身に力が漲ってる……コレがクラスSSS……
(階位があがったから、また名前が変わったみたい)
そっか……まぁ、聖具としての名前がなんであろうと、お前は叶だから問題ないさ。
(そうよね、でもまぁ、一応聞いておいて、私の新しい名前ね、《旧神》っていうの)
キュウシン?
(うん、旧い神様って書いて《旧神》よ、それから、前からあった力が一段と強くなってるわよ)
瞬時に、脳内に知識が流れ込んでくる。
――旧神の紋章。
――裁きの光。
――魔を断つ旧き神剣。
そっか……わかった、ありがとう、叶。
(うん、でもこれで聖具の実力は対等よ……だから後は翼しだい)
あぁ、分かってる。これだけの力とお前の支えがあれば……負けない――
――いや、違うな……負ける気がしない。
「何故だ……何故貴様が、我と同じ領域の力を持つ!」
「何故か、なんてどうでも良いだろ? 今、俺がここにいるって言う現実を見ろよ」
「認めん……貴様が何をしたか知らんが……叩きのめしてくれる」
「やれるならやってみな……もうお前が絶対的優位の立場にいる時間は終わったんだ」
「黙れ、そして思い知れ……這い寄る混沌たる我が力! 闇の跳梁者たる我が力を!――TheHaunterInTheDark」
――瞬間。
《混沌》の輪郭が歪み、黒く深く昏い闇があふれ出す。
瞬く間に、周囲は深淵のように深い漆黒の闇に包まれた。
「なんだ、これ……」
その漆黒の闇が、一切の視界を奪う。……暗いな、これじゃあ何も見えない。
でも、おかしい。たかだか闇で視界を奪う程度の事で、あそこまで長い詠唱が必要なのか?
ありえない。それなら先程の《混沌》人形を量産する能力の方がよっぽど――
そう、思考している最中に動かしていた視界の中に、燃える三眼を発見する。
馬鹿な……あれじゃあまるで見つけてくれと言わんばかりじゃないか。
何が……何が狙いだ?
瞬間、燃える三眼がこちらに向かって動き出す。
ッ速い! だけど――
剣指を結び、腕を前に翳し、紡ぐ。その力――『旧神の紋章』を。
「――ElderSign」
光り輝く五芒の魔方陣が目の前に現れ――る事はなかった。
「っ!?」
旧神の紋章で防ぐつもりで居たせいで、寸前まで接近を許し、こちらに迫っていた燃える三眼をかわす様に、その場で体勢を捻る。
――が、通り過ぎる瞬間、鋭利な刃物の様な何かに左の肩口を浅く切り裂かれた。
だが、浅いとは言えただで傷を負うわけにはいかない。
「Judgment――」
無数の光の球体が現れ――ない?
ただ……目の前に小さな光が浮かびはした。
だがそれも、闇に飲まれるように一瞬で消えていった。
くそ、どうなってる!?
『裁きの光』も使えないのか?
そのまま、燃える三眼を見失う。
「っくそ……どうなってる!」
(多分、この闇の力だと思う……光を遮断するような力……現にさっきのElderSignもJudgmentRayの初段もしっかりと発動はしてたモノ)
そうか……それなら、わざわざこんな闇を作り出した理由も頷ける。
だけど……どうする?
光を使わずに……能力を使わずに戦うなんてまともに考えて無理がある……
でも、やるしかない。色々な人達の力を借りて、色々な人達の支えを受けて、ここまで来たんだ。
――だから、絶対に諦めたりしない!
能力を使わないで……倒す。
そうだ、相手の動きこそ分からないけど、位置は把握できる。
だから……わざわざ能力が使えない程度の事で、諦めていいはずが無い!
再び、燃える三眼が視界に入る。距離は……遠い。
今だ、この暗闇の中、一つだけ目立つ三眼の意味は分からない。
(でも、アレだけ目立つんだから罠って可能性は――)
……それが、どうした。
罠でも構わない。ただ……何もしないなんて事は絶対にしたくない。
(……そう、よね。例えアレが罠だったとしても、どちらにしろ私達には後なんて無いものね)
そう言う事だ、だから……いくぜ? 叶。
(分かってるわ……でも、私はただ、翼に力を与えるだけよ)
問題ねぇよ……それでも十分だ。
さぁ、いつでも来い《混沌》俺はいつでもいけるぞ……
両の拳を握り締めて、燃える三眼を見据える。
そして――
燃える三眼はこちらに向かって動き出した。
迫る速度は高速、否人間などでは反応すら出来ない超高速。
……だが、同じ階位にある以上、ついていけない速度でもない。
迫る、一直線に燃える三眼が迫ってくる。
脚部と右腕に力を……オーラを込めて体勢を低くする。
迫る、一直線にこちらに向かってくる。
そして、俺と《混沌》の距離が縮まってくる。
瞬間、足に溜めたオーラを一気に開放して地を押し蹴り、前へと跳んだ。
跳んでいる――跳躍の勢いを殺さないように体を捻る。
跳んでいる――《混沌》との距離が縮まる。
一直線に迫っていた《混沌》に逃げる術は無い。
そのまま、跳躍と体の捻り正し、打ち出された拳の加えた加速力が右腕に乗って打ち出された。
だが、響くのは甲高い金属音。そして、飛び散る火花。
振り下ろした拳は巨大な翼を広げた《混沌》の爪に阻まれた。
瞬間、燃える三眼はすぐさま逃げるように俺から距離を取る。
そして、視界から燃える三眼が消えた。
おかしい。何かがおかしい。
どうして、火花が見えた?
どうして、《混沌》に巨大な翼があると分かった?
どうして、その《混沌》が爪で俺の右拳を防いだと分かった?
ここは、混沌の三眼以外の全てが闇に包まれるんじゃなかったのか?
否『裁きの光』を使った時。すぐに消えはしたが弱々しい光なら見えた。
すぐ目の前の火花が見えてもおかしくは無いだろう。
では……《混沌》の姿を認識する事が出来たのは……何故だ?
あまつさえ、こちらから逃げるように距離をとった……
つまり、光に弱い……のか?
考えられない事も無い、だって、奴の形は変わっていたから。
この闇に辺りが覆われるまでは巨大な翼も、鋭い爪も奴にはなかった。
だけど、仮にそうだとしても、この空間でどうやって光を見せる?
近距離でないと、どんな光もすぐに闇に飲まれてしまうので届く事は無い。
――どうする? どうしたらいい?
決まってる、光が弱点であるかも知れないなら、それを食らわせるのみ。
近くないと光が届かないなら、近くまで来るのも待つのみ。
否、こちらから近づくのみ――
(本気なの……翼? 向こうはこっちが見えてるけど、こっちはあの眼以外に目印なんて無いのよ?)
当然だ……後手に回ってちゃ勝てるものも勝てない。
いくらこんな闇の中でも……音がするはずだ。
(無茶よ、音だけで探すなんて……)
やってみなきゃわからないさ……コレまでだってそうだった。
コレまでだって、全部やってそれで乗り越えてきたんだ!
無茶かどうかなんて……俺がやってから決める!
だけど……俺はお前がいなきゃ無力だ。
力を……絶対に勝ってみせるから、力を……俺に貸してくれないか?
(――今更、何言ってるのよ。当たり前でしょ? 私はいつまでも翼と一緒に居るんだから――)
……あぁ、そうだったな。俺もお前とずっと一緒に居たい。
そうだ、こんなところで……負けてたまるか――!
瞳を閉じて、意識の全て《混沌》をさっちする為事に集中させる。
――――
何故、向こうから近づいて来ない?
近づいてきているなら、何かしら音は聞こえるはず。
……光を、さっき見た火花を恐れてるのか?
それもおかしい、それなら、何故未だに動かない?
光が弱点なのはこの闇を張っているからの筈。
ならば、何でこの闇を消さない?
それとも……俺の考えがそもそも間違っているのか?
光が弱点じゃないのか?
――知るか、そんなこと。今更悩んだって無駄だ。
駄目なら、弱点じゃないなら、その時はその時だ。また後で考えればいい!
――――?
何か、力を感じる。
眼を見開き、力を感じる方を見据える……そこには何も見えない。
だけど……確かに分かる。そこに、視線の先に《混沌》が居るのだとわかった――
だから、俺は駆け出した、一直線に……その中で新たに与えられた知識を元に第四の結印を結び、その上で小さく呟く。
「第4の結印はElderSign」
瞬間、俺と違ってこの黒の中でも俺を視認出来る《混沌》はこちらの動きに当然のように気が付く。
――音が聞こえた。羽ばたくような音。
だけど……何処に逃げても、俺にはその気配の位置が分かる――
行ける! コレなら……行ける!
追いかける俺が、自分の位置を把握できていると思ったのか突然《混沌》が反転して、こちらに突き進んできた。
――ならば!
こちらも、減速せずに突っ込むのみ――
「脅威と敵意を――」
互いに接近しあう俺と《混沌》の間が縮まっていく。
瞬間、突如《混沌》が停止する。
(迎え撃たれるわよ、翼!)
まずい、減速出来ない――
全速力で追いかけていた、向かっていった俺には急停止など出来るわけも無い――
だが、しかし。それがどうした。俺はただ……左腕を前に伸ばし、紡ぐのみ。
「――祓うもの也!!」
瞬間、伸ばした腕の先で構築された光が、一瞬ではあるが俺の視界に届いた。
それはつまり――闇を切り裂く光となったという事。
「――――ッ!!?」
瞬間、叫びにならない叫びが響き渡たった。

<Interlude-グレン->――昼
門を開いた先には少し大人びているけど見間違えるはずが無い親友が……聖五が倒れていた。
何故聖五が居るのか……驚きはしたけれど、俺は自然に言葉を紡げた。
「よう……久しぶりだな、親友」
「まったく、いいタイミングと場所で出て来過ぎだぜ……狙ってたのかよ、まったく」
「たまたまだよ、たまたま……で、状況を説明してもらえるとありがたいんだけどな」
「わかった……それで、その子は?」
そう言いながら聖五が俺の後ろを指差す。
大方、俺がこうしている間にSクラスと睨み合っているクオンさんの事だろう。
「その子って言っても俺等より軽く800歳は年上だぞ?」
「……」
聖五の表情が驚きに変わっている……けど、800歳なんて永遠の騎士の中では若い方だ。
キョウヤさんは4000歳以上って言ってた気がするし。
「えっと……真紅ちゃんも久しぶり」
早くも驚きから回復した聖五はシンクを見つけて挨拶を――
「ちょっと、グレン?」
「あぁ、はい。なんですか? クオンさん」
「なんですか、じゃないでしょ? コレはアンタの初仕事で、私はオマケなんだからアンタがSクラスの対処しなさいよ」
俺に背を向けたまま、機嫌悪そうにそう言った。
――あぁ、俺の初仕事だったよな、コレ。
聖五と話してたら懐かし過ぎて忘れてた。
「それじゃあ、俺が相手をしようか――」
そう言って、クオンさんの前にでて、気が付く。
目の前の、クラスSの聖具の担い手が誰なのか。
「――お前、翼……か?」
こちらもやはり、俺が知っているより大人っぽくなっては居るけれど……間違いない。翼だ。
冗談だろ? 何で翼なんだよ――
いや、待て。じゃあ、どうして聖五と戦ってるんだ?
「……知り合いなの? グレン」
「――はい、一応……そうなんですけど」
「そう……で、アンタを見ても反応しないところを見ると……同化されてるようね」
「――ッ」
確かに、俺を見ても何も反応を示さないという事は……もはや翼は取り込まれているとしか考えられない。
そもそも、翼と聖五が戦っていると言う状況がそれを示している。
「初めてとは言え……今回ばかりは変わってあげた方がいいかしら? 知り合いを斬りたくなんて無いでしょ?」
「いえ、仕事は……仕事ですから――」
「――そう」
「ちょっと待て、紅蓮! 翼はまだ《堕天》に抵抗してるんだ、もう少し待ってやってくれないか?」
「何?」「何ですって?」
《堕天》ってのはあのクラスSの名前……だよな?
「そんなことはありえないわよ、どうみても完全に同化されちゃってるじゃない」
確かに、アレは翼の顔こそしているけど明らかな別物。
視線はこちらと睨み合ったまま動こうとしない。
「そもそも、どうやって確認したのよ、そんな事」
「……それは、《堕天》がそう言ってただけだけど――」
「なら、残念だけどまだ抗ってるなんて事は在り得ないわ。グレン、片付けなさい」
でも……ひょっとしたら聖五の言っている事は真実かもしれない。
「でも、クオンさん。決め付けるのは――」
「あぁ……もう、グレンのやりたい様にやりなさい」
そう言って、諦めたように一歩下がる音が聞こえた。
「ただし、何が起こっても私は手助けしないわよ? それと……帰ったら覚えときなさい」
「すいません……ありがとうございます」
背後に居るクオンさんへ振り向かずに、ただ礼を継げた。
目的は時間稼ぎ。稼ぐ時間は……何分でもいい。
俺が満足するまでだ――
「――行くぞ!」
声に呼応するかの様に、一瞬で右の手元に銀の光が、左の手元に紅の光がそれぞれ収束し、剣となる。
「クオンさん……聖五を連れて離れててくれますか?」
「わかったわ……巻き込んじゃまずいもの……ねっ!」
そうクオンさんが言い終わる頃には、背後の気配は二つとも消えていた。
「それじゃあ始めようか? クラスS……翼がお前に打ち勝つまで……俺が面倒見ててやるよ!」
いくぞ……相棒、シンク!
(任せろ)(任せて、お兄ちゃん)
瞬間、地を弾く様に蹴り、前へと踏み出した。

<SCENE086>
闇が、消える。
――濃密な黒が薄れていく。
その先に、目の前に……左半身が奇妙な黒い異形。
その左の半身は、巨大な隻翼を広げ、鋭い爪を持ち、黒い霧状の何かを漂わせていた。
「……あり得ん。我が貴様に負けるなどあり得るモノか!」
喚き散らす様に、歪な黒が叫ぶ。
「――お前の負けだ……俺の体、返してもらうぞ」
「馬鹿な事を言うな、コレは我が肉体ぞ……貴様などにくれてやるものか!」
「お前に選択権は無い……ElderDemonBane」
紡ぐ、同時に、輝く五芒星が展開して、確かな質量を持った剣を作り上げる。
「諦めろ……お前単体が俺より強くても……俺には支えてくれる人たちが居た」
そのおかげで、今もここに居る。
旧き神剣を振り上げる。
「じゃあな……消え去れ《混沌》」
「舐めるな! 貴様等にこの器を取り戻すと言う未来など無い。ここが貴様等の終焉だ」
「ふざけろ! ここで終わるのは、お前だ!」
言って、刃を振り下ろす。
「仕方ない、見せてやろう這い寄る混沌たる我が力! 這いうねる混沌たる我が力を!――Ahtu」
瞬間、異変が起こった。

――to be continued.

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