EternalKnight
<絶望顕現>
<Interlude-聖五->――昼
「ほらよ、姉貴」
俺は持ってきた弁当箱を姉貴に手渡した。
……って言うか、なんでわざわざ職員室にまで俺が入らなければいけないんだろうか?
「ありがとね、聖五。あんたがいてくれて助かったわ」
「つーかなんで弁当忘れるんだよ、自分で作ったんだろ?」
「ごめんごめん、ちょっと遅刻しそうだったから……」
だったら遅刻しそうになった原因でもある弁当を忘れるってのはどうなんだよ?
「ふぅ……って言うか俺が弁当届けるのこれで何回目だ?」
「そうねぇ……十回目ぐらいかしら?」
そうだな、姉貴が弁当作る様になったのがつい二ヶ月前で、その時から数えて早くも十回目だな。
「十回って多すぎねぇか?」
単純計算で月に五回も弁当忘れるってどうよ?
「気にしちゃだめだって」
「……へいへい」
まぁ、俺は姉貴には逆らえんし、今日は琴未と会う約束もないから暇だったし、別にいいか……
「それじゃあ、俺はもう帰るから」
そう言って俺は職員室から出ていった。
扉を閉める直前、姉貴の声が背後から聞こえてきたが、無視して扉を閉めた。
そのまま、今日の昼食をどこで食べるかを考えながら、正面玄関に向かって廊下を進んでいった。
途中、一度もここの生徒にすれ違うことなく、俺は校舎の外に出た。
……まぁ、今は大半の生徒が食堂に向かうか、自分の教室で飯を食っているだろうから当然なんだが。

<Interlude-虎一->――昼
この学園に出現するとは……
いや、誰もいないところで出現するよりも、私だけでも……戦える力がある場所に出現れたほうが被害も少ないだろう。
あれだけ強大な氣を垂れ流しているんだ。
恐らく、もう観測されて、こちらに武達が向かってきているはずだ。
「武達が来るまで……何とかもたせてみせる――」
右手に持った力に視線を移す。
今の私の宝具。そして龍次の使っていた宝具……草薙の剣。
一撃必殺型のこの宝具で、はたしてどこまでやれるかわからない。
だが、やるしかないのだ――
――瞬間、既に慣れた独特の眠気が襲う。結界の発動だろう。
「結界も起動した様だし……いくか」
覚悟を決める。
幻想種、今まで戦ってきたどんな相手よりも強いだろう。
それと対峙するため、私は部屋を後にした。
それが私の使命なのだから――

<Interlude-聖五->――昼
「……なんだよっ、アレは」
校舎から出て、真っ先にそれが目に入った。
校庭の中央に浮かぶ、黒い人一人でも入りそうな球体。
それが何なのかはわからなかった。
ただひとつ。『アレに関わってはいけない』ということだけが本能でわかった。
瞬間――妙な眠気が俺に襲い掛かってきた。
――まて、眠るなんて冗談じゃないぞ。
あんなのがこんな距離にあるってのに、眠ったらいつ死ぬかかわからねぇ……
だけど。……眠らなかったところで、俺に何ができる?
俺にはもう、戦う力が……《聖賢》が無いんだ――
眠気に耐えながら、視線を球体に固定する。
すると突如、黒に赤のライン……ヒビが走っていく。
「いったい何なんだよ……」
そして、球体のヒビが広がっていく――
「下がれ、青年!」
突如、背後から声が聞こえた。
「っ!?」
疾風の如く、俺の脇を何かが通りすぎた。

<Interlude-虎一->――昼
「下がれ、青年!」
何故、そこにいた青年に催眠結界の効果が及んでいないのか?
一瞬疑問に浮かんだが、すぐに打ち消した。
そう、考えるのは後だ。
青年の脇を全速力で駆け抜ける――
左手には鞘。右手には草薙の剣の柄が握られている。
瞬間、黒い球体は砕け、その内より、何かが現れた。
現れたモノは……
――人型?
幻想種はその性質上、バケモノになることが多い筈――
否、考えるな。今はただ一撃を!
さらに速度を上げる。刃を鞘より抜き放ち、そのまま居合いの要領で相手に斬激を放つ。
金属同士が激しくぶつかったような甲高い音が響く。
「なっ……私の渾身の居合いを……あっさりと……」
『これが、幻想種か……』防がれた太刀を急いで引き戻す。
「はじめまして、今の僕の相手は君一人かい?」
「っく……」
「質問に答えないのはよくないなぁ? 大して強くもなさそうだし、殺しちゃうよ?」
黒い服を全身に纏った幻想種が先端が斧のようになった黒い剣を振るった。
あわてて草薙の剣で斬撃を防ぐ。
――が、黒い斬撃の威力を殺しきれず、そのまま吹き飛ばされた。
衝撃――
地面に打ち付けられる……なんて不様だ。
やはり……手も足も出ないのか?
「それで、君の味方はくるのかい? 君一人じゃ、詰まらな過ぎる」
「っ……」
幻想種が空中で白い翼のようなものを広げ、こちらを見据えている。
その右手には先程の黒い剣、左手にはいたって普通の形状の銀色の剣が握られていた。
その白い翼が、彼の翼と同じように見えたのは、私の気のせいだろうか?――
「質問には答えないつもりかい?」
「……」
「まぁいいさ。それにしてもせっかくここを出現場所に選んだのに、アイツがいないのはどういうことだ?」
その場から立ち上がり、幻想種を見据え、刃を構える。
戦闘力の差は絶望的。だがそれでも、戦わねばならない。
「へぇ、まだやるの? まぁいいさ。アイツとの戦いの前に体を慣らしておくのもいいだろうし」
慣らし……か。手を抜いていたぶる気か?
だが、武達が来るまでの時間稼ぎになるなら好都合だ。
「空中戦じゃこちらの方が有利だし、地上で戦ってあげよう」
そういって幻想種が翼を消して、地面にゆっくりと降り立つ。
そのあまりに無防備な姿は、こちらを舐めているとしか思えなかった。
「――いくぞ!」
左の手にある鞘を投げ捨て、そのまま両の手で草薙の剣を握り締め私は地面を疾走する。
身体、思考、そのどちらをも加速させていく――
「ハァッ!」
左手を離して右手のみで刃を振りぬく。十分な速度を持った一撃。
だがそれは、いとも簡単に右手の黒い剣に弾かれ[キィン]と甲高い音を立て防がれた。
だが、防がれる事はもとより承知。
我が黒崎家に伝わる剣技は流れ落ちる流水の如く、怒涛にして変幻。
そのまま弾かれた刃の軌跡を流れるように変えて、すぐさま下より斬り上げる次の一撃へ――
それを幻想種は、銀の剣で防ぐ。
互いの剣が衝突して[キィィン]っと再び鳴り響く。
こちらはすぐさま、無駄の無い流水の如き動きで三撃目へと移行していく――
周囲に金属音を何度も響かせながら、剣戟は激化して行く。
限界で奔り続ける思考と、限界を超え、昔の自身に勝るとも劣らぬ速度へと到達する身体。
そのどちらもが苛烈なまでに昂っていく。
何十撃目か、不意に、幻想種の速度が落ちた。
何が起こったか知らない……が、その速度では二本の剣でも防御に間に合わない筈。
――取ったっ!
何十撃目かの刃を、幻想種の首を狙って放つ。
瞬間、何が起きたか理解できなかった。
こちらの一撃が当たる寸前、その軌跡は再び加速した、銀の剣によって防がれた。
早い!?
視線を黒い剣に向けるが、こちらには向かってきてはいない。
だがしかし、それと同じ瞬間に、私は背中を何かに貫かれていた。

<Interlude-聖五->――昼
ただ、見ているだけだった。
時間にして一分もあるかないかの攻防。
ただそれだけで、勝敗は決してしまった。
背後の何も無い空間から現れた一本の剣によって。
貫かれた男に、見覚えなど無かった。
だが、もう一人……もう一人には見覚えがあった。
どういう事だよ……
どうして、アイツが生きてるんだよ?
アイツは……紅蓮に殺られた筈だろ?
「なんだって、あんたがここにいるんだよ、会長――」

<Interlude-蒼二->――昼
「弱い……」
これなら、元々僕の力だったものだけで十分だったじゃ無いか。
元々《終末》の力さえあれば、あんな奴に僕が負けることなんて無かったんだ。
……その僕の《終末》を破壊した、彼の実力は認めざるを得ないのは癪だが……
どちらにしても、彼の力とあのクズの力、そして《終末》の力が使えるようになった僕は無敵だ。
もう、誰にも負けはしない。
「さぁ、早く来い。翼……僕は、オマエを殺す為に戻ってきたぞ!」
「っ……はぁ……っはぁ……」
「なんだ、まだ生きてたのかい? 君も、しぶといねぇ?」
腹に大穴を開けてるのに……まだ生き足掻くのか? 醜いな……
「っ……私は、退……魔師だ。人外を……貴様を倒す……までは……死ぬ……わけには」
何を必死になってるんだか……ん?
「よく見たら、あんた僕の腕を吹っ飛ばした奴に似てるねぇ?」
「……何?」
「しかも、武器も同じ奴じゃないか」
あの時、この剣に腕を遣されなければ、この僕が翼になんか殺られるはず無かったのに。
「なん……だと?」
「あぁ、僕が殺しちゃったから、その武器をつかってるのか」
「オマエ……か」
瞬間、男の目が殺意に満ちたものに切り替わった。
「何が?」
「オマエ……が、弟を……龍次をっ!」
「あぁ、あのときの奴って君の弟だったの?」
どうりで攻め方が似てるはずだ……
「兄弟そろって、たいしたこと無いねぇ。クズはクズらしく、でしゃばらばければいいのに」
ん?……なんだ? この感覚は……?
背筋が凍るような、この嫌な気配は――
「――ざける……な」
まさか、コイツ……か? 馬鹿な。
いくら殺意を放って立って、僕がこの男を恐れる要素なんて――
まさか、あの時の僕の腕を吹き飛ばした一撃?
いや、あの威力の技をこの距離で打てば、こいつも……
「龍次の……仇……だ」
まずい……いくら今の僕でもこの距離の直撃を食らえば――

<Interlude-虎一->――昼
「あぁ、僕が殺しちゃったから、その武器をつかってるのか」
――コイツが、殺した? 龍次を?
痛みなど、もはや感じない。
感じるのはただ、怒りのみ。
「オマエ……か」
じゃあ、コイツが龍次を殺した鬼神クラスなのか?
倒された人外が他のクラスになって現れたなんて聞いたことが無い。
だけど、コイツは現に龍次の事を知っている。
自分が殺したと言っている。
許さない……許せるはずが無い。
弟を殺した奴を、許せるはずが無い!
「何が?」
わかってないのか? コイツ?
「オマエ……が、弟を……龍次をっ!」
「あぁ、あのときの奴ってあんたの弟だったの?」
例え道連れになってでも、コイツは、俺が殺す!
「兄弟そろって、たいしたこと無いねぇ。クズはクズらしく、でしゃばらばければいいのに」
隷氣流を発動させ、全身の氣を一気に草薙の剣に流し込む。。
「――ざける……な」
私の残り全ての氣を注ぎ込んで、《八岐大蛇》をコイツに食らわせてやる。
残っている全ての氣を、草薙の剣に注ぎ込む。
「龍次の……仇……だ」
準備はできた、後はただ、ぶつけるのみ!
――神話に曰くその剣は八岐大蛇の尾の中より現れたとされる――
そして私は、刃を振った。

<Interlude-武->――昼
「Guardian」
結界の解除詠唱を唱え、結界の内側へと入る。
俺に次いで、銀髪のジョージさん蒼髪のルーグさん、そして、一週間前にこちらに着いた金髪のジークさんがいる。
全員、海外から招集された一流のエクソシストで、俺なんかよりもはるかに強い。
その後に時乃の退魔師である茜とその姉の雫(しずく)さん。
そして、炎堂(えんどう)の正規の退魔師である蓮(れん)さんがついて来ている。
[グォォォォォオオオオオッ!!]
「なっ!?」
これは、八岐大蛇の咆哮じゃないか……
まさか、最初からあそこにいた父さんが一人で戦ってるんじゃ……
「ナンダ、イマノオトハ?」
片言でルーグさんが聞いてくる。
「アレは……黒崎の退魔師の宝具の力です」
「あんな技を撃っているということは……」
蓮さんが小声で呟く。
「最後の抵抗……かな?」
ジョージさんが、小さくその蓮さんの一言の答えを推測した。
冗談じゃない。急がないと……
龍次さんも、父さんもいなくなったら、誰が俺に黒崎の剣技を教えてくれるんだよ……
絶対に、無理はしないでくれよ……父さん。

<SCENE063>――昼
叶と合流して、黒崎の家から飛び出した。
「待って、翼」
走り出そうとしたその時、叶に呼び止められる。
「どうした、叶?」
「私の力を発動させて飛んでいったほうが走るよりずっと早いわ」
それは……叶に負荷がかかるんじゃ……
「大丈夫、飛行の能力は大してオーラを使わないわ。それに翼にも手伝ってもらうしね」
どうやら、考えていたことが顔に出ていたようだ。
「そっか、なら頼む」
「うん!」
そして、叶が俺の手を握り、俺はその手を握り返す。
「いくよ? 翼」
「応ともよ、こっちはいつでもOKだ」
瞬間、叶の体が薄く発光して、周囲を包んでいく。
包まれた光で、俺の視界は満たされていく――
光が、晴れる。背中には確かに叶の鼓動を、《飛翔》の力を感じる。
(いつでも行けるよ、翼)
なら……いくぞ!
自分が飛ぶイメージを強く持ちながら、俺は大地を蹴った。

――to be continued.

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