EternalKnight
<一線を超えた者>
3/2(水)
<SCENE061>――夜
押し出すようにオーラを叶に流し込む。
それに伴い、全身から力が抜けていく。
今日はもう寝るので、温存せずに余さず全部くれてやった。
「どうだ……もう、大丈夫そうか?」
少し、与えすぎたか?
ぐらつきそうな体を何とか根性で支える。
「うん、多分今なら《飛翔》の状態になれると思う」
「そっか……間に合ったんだな」
――幻想種が出現すると予測された日まで、後三日。
幻想種が出現するまでに、叶は再び戦えるようになったのだ。
俺一人の力じゃない、時乃さんや武さんも叶が回復するように手伝ってくれた。
お礼……また別に言っておかなきゃな。
「さてと、ソンじゃ、俺はもう寝るから」
そういいながら静かに立ち上がる。
「お休みなさい、翼」
「あぁ、お休み」
そう言って、俺は部屋を出て、自分に貸し与えられている部屋に戻った。

3/7(月)
<Interlude-グレン->
「んぁ……」
目が覚め、上半身を起す。
体がだるい、が気にしないことにする。
体を慣らすように体を回しながら、周囲を見渡す――
ここは俺の部屋。
つまり守護者に属した俺が拠点内に与えられた部屋である。
特に何の変哲もない。《いつもどおり》の部屋だ。
そもそも、永遠者である俺は睡眠はおろか食事を取らなくても生きていける。
つまりエーテル関連物があればそんな物は必要ないのだが――
そこは三大欲求ってのがあるから取る必要がなくても取りたくなる物なのだ。
さて……俺は一体何を考えてるんだろうか。
……誰でもない自分にでも弁解してるのか?
相棒との回線は今はこちらから一方的に切ってある。
少し、今話をするのはつらいからな……
まぁ一週間ほどなら回線を繋がなくても構成崩壊を起こしたりもしないだろう。
そのままベッドから音をたてずゆっくりと降りて、服を着る。
「風にでも当たりに行くか……」
小声でつぶやき、相棒を外したまま部屋を出る。
珍しく、誰ともすれ違わずに屋上に出た。
――だが、そこにはすでに先客が居た。
それが誰かは背丈と服装を見てすぐに分かった。
まぁ……背丈が130あるかないかの人なんてここには一人しか居ないが。
「クオンさん」
「あら、グレンどしたのぉ?」
巫女服を着た少女が黒い髪をなびかせながら振り返る。
「いえ、風に当たろうかと思って……」
「そう、私もそんな感じよ」
クオンさんの隣まで移動する。
「隣、いいですか?」
「断る理由はないけど? 仲間じゃないの、同じ世界出身のね」
そのまま俺は無言でクオンさんの隣まで移動し地面に座り込んだ。
「何か……あったの?」
「いえ、別に何も――」
そういえば春樹とクオンさんをあわすとどうなるんだろうか……
まぁ、大方結果は見えてるが。
……そういえばみんな元気にしてるかな?
訓練は終ったけど、一回仕事しないと休暇ってもらえないんだよなぁ……
「そういえばね、グレン」
真剣そうな顔でクオンさんがこちらを見る。
「なんですか?」
「いくら子供ができないからって……近親相姦は駄目よ?」
――ぇ?
「なっ……何を根拠に、そそそっそんな事言ってるんですかぁ!?」
「もうね? 隣の部屋だと毎晩毎晩うるさいのよぉ……」
「毎晩じゃありませんッ!!」
「あら、じゃあ毎晩じゃないけどやってるのね?」
「そんなわけないでしょぉ!? 昨日がっ――」
「う〜ん? 昨日がどうしたってぇ?」
口の端を吊り上げて俺を見つめてくる……
まんまと誘導尋問に……いや、多分自分で自爆しただけだけど。
「っ……ウワァァァァァァアアアア」
その邪悪な笑みに耐えられず、俺はすぐさま立ち上がり逃げる様に建物の中に駆け込んだ。
――走る。
―――走る。
――――走る。
そして……気がつくと部屋の前まで帰って来ていた。
あぁ……どうしよう、俺の人生お先真っ暗……
あっ、人じゃないから人生じゃないのか?
どうでもいいか――
部屋の中に戻ろうとドアをあけるとそこには……
真紅がベッドの上に座っていた。
――が、まだ眠気が抜けていないらしい。
っていうか座りながら寝てるし……
いや、それ以前に……何も着てないんですけど?
「あら、シンクちゃんは今起きたのね?」
「って!? 何でここにいるんですか、クオンさん!」
「何でって、アンタについて来たに決まってるじゃない」
あぁ……今度こそ終った。
こんな状況を見られたらもう言い逃れできない――
今にみんなに広まって俺はもう終わりだ……いろんな意味で。
――いっそハグレにでもなるか?
「なによ、この世の終わりみたいな顔して……」
「終った……俺はここで死ぬまで変態って呼ばれるんだ……こうなったらハグレにでも――」
「あら、別に変態なんて言わないわよ?」
「うにゅ……」
俺達の会話でシンクが起きたみたいだ……
「あれ、お兄ちゃんにクオンちゃん、おはよ〜」
「ねぇねぇシンクちゃん、どうだった? やっぱり気持ちよかった?」
「ふぇ……?」
一瞬、何の事か理解できていなかったようなシンクだが、すぐに何の事か理解したようだ。
その証拠に顔が真っ赤に染まって――瞬時に毛布で体を隠した。
「おっ……おぉぉぉお兄ちゃん?」
「どうした、シンク?」
「何で……クオンちゃんがここにいるの?」
「えーっと……それは……」
「シンクちゃん今日はお祝いだね。私、盛大な宴をやるからね。お赤飯炊こうかな〜♪」
「ねぇ……クオンちゃん、念のために聞くね?」
さらにシンクの顔が赤くなっていく。
「うん、なぁに?」
「どれだけ……知ってるの?」
「全部よ? 二人が昨日やっちゃったって事」
次の瞬間、シンクの顔がさらに、赤くなり、こちらに腕をかざす――
「二人とも出てってぇぇぇ!」
そして、かざされた手の平から炎が飛んでき――
って、ちょっと待って、それはほんとに危ないから。
なんとか俺とクオンさんはダメージを追わずに部屋をでる。
「はぁ……はぁ……」
「いやぁ……危なかったわね〜」
「アンタのせいだよ!」
「アンタもいちいち細かいわね」
冷静さを取り戻しつつ再度質問してみる。
「ところでクオンさん、どうして知ってるんだ?」
「だから隣の部屋だからに――「嘘をつけ、よく考えたらあの壁が音を通すはずないだろうが!」
「あぁ、気付いたの? そうなのよ、あの壁すごい分厚いでしょ?」
「だからどうしてわかったんだよ?」
「ついてきなさい」
「はい?」
そういって、クオンさんがすぐ隣の自分の部屋に入っていく。
俺もその後に続きクオンさんの部屋に入ると……
「なんですか、これは?」
なんだかテレビっぽい物があるんですが?
「えっとね、すごい技術力の世界で模倣してきたのよ」
「いや、こんなの動くんですか?」
電気とか無いだろ、この世界には。
あぁ、でもエーテルで動かせば――
「えっとね、何でも動力はこれが自分で作るからいらないんだって」
無限エネルギーかよ……すごいな。
「っていうか何をするんですかこれで?」
番組なんてあるはずもないし――
っていうかなんかテレビ型の物体の上にリモコンっぽいのがあるんですが……
「すぐわかるわ。あぁ、そこの操作機とって」
このリモコンっぽいのの事だよな? とりあえずリモコンを掴みクオンさんに渡す。
「ありがと」
クオンさんがリモコンのボタンを押すと、テレビが点く。
ほんとにどっからどう見てもテレビだな。
画面には……服を着ている最中のシンクが――
「って、盗撮!?」
「そういうこと、小型の撮影機もその世界で模倣してきたの」
『全く、お兄ちゃんもクオンちゃんも……』
「しかも音まで拾ってるし!?」
クオンさんがリモコンを操作すると画面が消えた。
「すごいでしょ? これで昨日のあなたたちの営みもばっちり見せてもらったわ?」
「あぁ、因みに撮影機を見つけるのは不可能よ? 小さいし見えないから」
終った……一部始終見られてたなんて……
「そんなに落ち込まなくても近親相姦してる奴等なら他にもいるわよ?」
「……そこにも監視カメラを仕掛けてるんですか?」
「もちろんよ、ってかやってるのは全部撮ってるわよ? この世界での数少ない娯楽なんだから」
「そうですか……」
今更だけどこの人最低だ……
そう思いながら部屋を後にしようとすると――
「あれ、観て行かないの?」
「――観ません!」
「そんな事言わずにさぁ、先輩達の巧みな技術を見てみなさいって」
「いりません!」
それだけ言い切って、俺は今度こそ部屋を後にした。
とりあえずシンクが着替え終わるまでドアの前で待っておこう。

<SCENE062>――昼
――行けるッ!?
王手を決める為に迫ってくる銀の軌道を強引にこちらの銀剣をぶつける。
王手をかける瞬間の為油断したのか、その銀の軌道は驚くほど簡単に変化した。
そして、その俺の行動に呆気に取られた武さんの動きが止まる。
一瞬の隙。だが、こちらが攻め入るには十分すぎる隙――
「取ったぁッ!」
本来振りぬく銀剣を寸前の所で止める。
「む……一瞬気を抜いたのがいけなかった」
俺がかざす銀剣の刃の先端が武さんの首筋を捕らえている――
「勝っ……た?」
「その通り、こっちが油断をしたとは言え……その隙を突いた、すごい動きだったよ」
勝ったのか? 武さんに……?
「さて、それじゃあそろそろ刃を引いてくれ、降参だ」
「っすいませんでした、すぐに除けます」
武さんの首を捕らえていた銀剣を戻した。
「しかし、すごい上達振りだなぁ……」
「武さんの教え方が良かったんですよ」
俺は突如襲ってきた疲労に負けてその場に座り込んだ。
「……俺は氣のコントロール教えたのと模擬戦の相手しかしてないって」
照れたように武さんは頬をかいている。
「それだけでも、俺の立派な師匠ですよ、武さんは」
そのまま寝転び、それなりに高い天井を見上げる。
――会議場全体を照らすような光が天井から射してきている。
「まぁ、さっきのは油断したからな。今度は負けないさ」
「俺も、もっと勝てるように修行します」
「おいおい、師匠を追い抜いてくのか?」
「そのぐらいの気持ちで頑張ります」
「俺も負けてらん無いな……さて、そんじゃあとりあえず休憩に――」
瞬間、けたたましいサイレンが会議場全体に鳴り響いた。
否、この音はきっと上の武さんの屋敷にも流れている筈――
『幻想種の出現を確認しました、現在の座標は16-18です。戦闘部隊の方は至急現場に向かってください』
――遂に来た。
「なん……だって」
武さんが呆然とつぶやく。
「所で、どこに出現したんですか? 16-18じゃわからなかったんですけど?」
「がっ――だ」
――ぇ?
「君の通っている学校……宮ノ下高校のある場所だ」
――なっ!?
「翼君は聖さんと一緒に来な、俺はこのまま向かう」
学校……だと?
あそこには……裕太や翔ねぇやクラスの皆がいるんだぞ?
いや、それだけじゃない。
平日のこの時間だ……恐らく、今学校には700以上もの人がいる。
「――わかりました」
俺の言葉を聞いて、武さんは会議場から走り去っていった。
『16-18エリアに睡眠、人避け、外界遮断結界を起動しました』
とにかく、急がなければ……取り返しの付かなくなる前に――
『外界遮断結界の解除コードはGuardianです』
けたたましくなる放送を聞き流しながら俺も武さんの後を追うように走り出した。

<Interlude-グレン->
重い気持ちのままクオンさんの部屋を出――
「お兄ちゃん!」
――た所でシンクが駆け寄ってくる。
「どうしたんだ、シンク?」
「えっとね、キョウヤさんから召集がかかったの」
「キョウヤさんから?」
どうして幹部のキョウヤさんが俺に?
「はい、お兄ちゃん」
そんな事を考えているとシンクに指輪を渡される。
無論言うまでも無く相棒なのだが。
あんまり着けたくなかったけど仕方ないか――
シンクから相棒を受け取り指にはめる。
(おう、変態《至高》の主が来いだと)
――すいませんでした。変態はやめてください。
(全く、いくら相思相愛だとは言っても……血縁者だぞ?)
いや、だってさぁ。今はもうお互いに人間じゃないしさ?
(言い訳は聞きたくないな。それより至高の心が呼んでいると言うのを早くも忘れていないか?)
そうだよ、キョウヤさんに呼ばれてるんだった。
「何突っ立ってんのよ、グレン。キョウちゃんに呼ばれてるんだからさっさと行くわよ?」
ってかいくらなんでもキョウちゃんは無いだろ……うちの勢力の幹部だぞ?
「あれ? クオンちゃんも呼ばれたの?」
「みたいね、新人のお守りでもやらされるのかしらね?」
「さぁ、多分そうじゃないんですかね?」
「まぁとにかく、急ぐわよ二人とも」
「わかった」「うん」
俺達はキョウヤさんの部屋に向かって走り出した。

――to be continued.

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