EternalKnight
<訓練〜強くなる為に〜>
<SCENE056>――夕方
「オーラを送り込む、か……」
聖五さんが電話を切ったのを確認してから。俺は小さく呟いた。
よく考えたら、俺って叶のサポート無しでオーラを制御できるんだろうか?
……やってみるか。
意識を集中させ、《飛翔》を展開している時の事を思い出す。
――大丈夫だ、自分の体中のオーラの流れを感じ取れる。
これなら、出来るか……
だけど、今は《飛翔》を展開していた時の五分の一程度しかオーラを感じられない。
やっぱり叶のサポートが有ると無いでは大分違うみたいだ。
「今度は、一箇所に集めてみるか……」
右腕をかざし、より意識を集中させる。
ゆっくり、ゆっくりと右の腕に全身のオーラが流れていく。
三十秒ほどでオーラがほぼ全て右手に集まった。
「ふぅ……」
気を抜いた瞬間、右腕に収束していたオーラが一瞬で全て全身に戻っていった。
「……もう一度だ」
今度は死んだように眠っている叶の額に掌をあて、意識を集中させていく。
――再び掌にオーラが収束する。気は一瞬たりとも抜けない。
緊張の糸を張り詰めさせたまま、思考する。
どうやって、叶に俺のオーラを分ける?
――答えは簡単だ。
オーラを叶と言う器に込める、ただそれだけ。
だけど、一体どうやって?
持続時間に限界が来たのか、張り詰めた緊張の糸はプツリと切れ、腕に集めたオーラは再び全身に還っていった。
「誰か……制御のヒントかなにかくれないかな……」
ちょうどその時、誰かがこの部屋に近づいて来るのが足音で判った。
「三枝君、入っていい?」
この声は――
「あぁ」
襖を開けて入ってきたのはやはり時乃さんだった。
「それで、一体どういう事なのかしら?」
「……何が?」
突然そんな事を言われても――
「とぼけないで、昼のアレは一体なんだったのよ?」
――思い出した。
昼……どちらかと言うと昼飯食う前だから朝だと思うんだが……まぁいい。
「その事を話す前に叶の目を覚ましてやりたい」
「……覚ましてやるって、何が出来るのよ」
時乃さんが訝しげにこっちを見つめている。
「一つ聞いていいか?」
「こっちの質問に――」
「オーラを武器とかに込める時、時乃さんはどうしてる?」
「オーラって何よ?」
「わかんないはずないと思うけど……力の源っていうか――」
「あぁ、氣の事ね。……でも今、関係のある話?」
「あぁ、叶の目を覚まさせるのには関係ある」
考えるより、実際にそれを出来る他者に聞いた方が確実だろう。
「私がそれを説明したら、色々と私の聞きたい事もあなたは説明してくれる?」
「叶が目覚めたら……な」
「……」
そうしてしばらく、時乃さんの話を聞いていた。
「なるほど……」
話を聞いてなんとなく判った気がする。
「それで、もう聞く事はない? って言うか聞いてどうするつもりなのよ」
「こう……するつもりだ」
意識を集中させる。
『氣は制御するものじゃないわ』
やっぱり自分で考えるより、答えを知る人に聞いた方が早い。
体中の氣を動かして、収束させていく。
『氣って言うのは体の一部として動かす、私たちが誰でも持つ力の源泉よ』
所要時間約三秒……さっきまでの十分の一の時間で右手にオーラが集まる。
オーラの収束した右手を叶の額に添える。
「何やってるのよ、氣は本人と宝具以外に流す事は出来ないわ、さっきも――」
『氣って言うのは基本的に体外に出せるものじゃないのよ、だから流す時は押し出すだけなの』
後はただ、この腕に宿るオーラを押し出すのみ――
「っ……」
瞬間、全身から力が抜けていくのが判った。
同時に、叶にオーラが流し込めたのも――
「まずっ……加減、間違えた……かも」
全身が酷いだるさに突如襲われ、俺の意識は遠のいた。

2/19(土)
<SCENE057>――朝
「――さ」
「ねぇ、――さ」
声が……聞こえる。……これは叶の声だ。
――良かった、意識は戻ったみたいだ。
「叶――」
安堵と共にゆっくりと瞳を開くと、そこには叶の顔があった。
「よかった、気がついたのね、翼」
「あぁ、お前も、大丈夫だったんだな」
体を起こしあたりを見回すと、あの純和風の畳部屋だった。
違う所は俺と叶の位置が入れ替わっている事ぐらいだろうか?
――いや、時乃さんも居なくなってる。
「えぇ、翼のおかげでこの状態までは回復したわ」
「……この状態?」
不審に思ったので聞き返してみると、叶は少し残念そうに言った。
「えぇ、今の私は翼の心は支えれても、力にはなれないわ」
「どういう……事だ?」
「えっとね、今の私は《飛翔》の状態になる事は出来ないの」
「どうして?」
素直に湧いた疑問をぶつけて見ると、少し表情に翳りを見せながら叶が答えた。
「力を使いすぎちゃってね……」
――何故、使いすぎたんだろうか?
っと、その前に……
「そういえば、時乃さんは?」
「えっとね、翼が倒れちゃった後、でていったわよ」
「何も言わずに?」
「うぅん、私がなんなのかとか色々聞かれたから答えておいたわ」
「そっか……それより、ホントに大丈夫なのか?」
「うん、この状態ならね。でも《飛翔》の状態になるのには相当力が要るから……それに翼に負担もかかるし」
まさか……
ふと、ある可能性が脳内に浮かんだ。
「そっか。それじゃあさ、叶。一つだけいいか?」
「なに?」
「お前は……なんでオーラを限界まで使ったんだ?」
「なんでって……それは――」
「俺に負担かけないように、戦う時の力、全部一人で負担してたのか?」
思ったままに聞いてみた。そして、恐らくこれが正解。
叶が無言のまま肯く。
「どうして……そんなことしたんだよ」
「それは、翼には苦しんで欲しくなかったから――」
「俺はさ、自分が苦しいのよりも、お前が苦しんでるのを見るほうが辛いんだよ」
俺は本心のまま言葉をぶつけた。
「……言ってて恥ずかしくない?」
「恥ずかしいけど、俺はそう思ってる」
「そっか。でもね、私も翼が苦しんでるのは見たくない。だから私が背負うの」
それは、違う。
何かが……違う。
そんなの……おかしいだろ?
「どっちかだけが苦しむのって違うんじゃねぇかな?」
「ぇ?」
「苦しいから……一人じゃ苦しいから、二人で同じだけ積荷背負って、支えあうんじゃないのか?」
「それはそうだろうけど――」
「叶がどう思っててもさ、俺はそう思ってる」
――だけど、俺には叶を支えてやる事が出来ない。
「俺さ、正直な話、叶の荷物にしかなってないと思うんだ」
そう、叶は俺の力と心を支えてくれる。
だけど、俺は叶を支えてやる事が出来ない。
だったら……俺はどうするべきだ?
『力を――』
そうだ、叶に少しでも負担が掛からないように、俺自身が強くなればいい。
「だからさ、俺、鍛えてもらう事にするよ」
叶が、安心して負担を背負わせてくれるような強い男に――
「お前が戦えるようになるまでに、一人でも踏ん張れるようになって見せる」
――いつか、俺も叶を支えて、互いに支えあい生きていく為に。
「そんなに……私なんかの為に無理しなくてもいいんだよ?」
「叶の為でもあるけど、自分の為にやる事だから。多少無茶はするかもしれないけど大丈夫だ」
少なくとも、叶が居るのに一人で潰れる気なんてない。
「だからさ、お前は今の内にしっかりと休んでてくれよ」
「……うん」
「お前が戦えるようになったら、今度はちゃんと二人で負担を背負って頑張ろうぜ」
――お前と共に戦えるように、今日からでも俺は頑張るから。

<SCENE058>――夕方
「よろしくお願いします!」
武さんの家に道場に俺の声が木霊した。
床板が綺麗に敷き詰められ、奥の方には日本刀らしきものが飾られている。
それにしても広い。いや、一般的な剣道場の広さなんて知らないけど……
それでもうちの高校の体育館の半分程はかなり広いと思う。
「……どうして急にそんな話になったんだ?」
回りを見渡していた俺の耳に武さんの声が流れてきたので視線を最初の位置に戻す。
「俺は、叶の力無しでもある程度戦えるようになりたいんです」
「……別にある程度教えるぐらいならいいけどさ、俺以外にもいるんじゃねぇか?」
たしかに、居るにはいた、が――
虎一さんは仕事が忙しいとかでパス。
海外からのエクソシスト……日本語が話せても細かい表現が伝わりにくいのでパス。
で、今の武さんにいたる。時乃さんにはまだ聞いていないけど。
「時乃さんと武さんしかもう頼める人は残ってないんです」
そう言うと難しい顔をしてしばらく悩んでいたがすぐにあきらめたような表情になった。
「……わかった。けど俺だってまだ見習いなんだから基本だけだぞ?」
「ありがとうございます。それじゃあ早速今からでも――」
「今からは無理だ、とりあえずこれから現状の確認しなきゃいけないから。君もだけどな」
「現状の確認?」
「そうだ。今回の幻想種についての資料や戦闘に参加するメンバーについての情報を貰いに行く」
「何処でですか?」
「地下会議室の奥の司令室だ」
指令室って……
「一緒に来な」
「……俺もその情報ってのを聞けんるんですか?」
「聞くんじゃなくて冊子を貰うんだ。さっきも貰いに行くって言っただろ?」
「そうなんですか?」
「そう、それに君も戦闘には参加するんだろ?」
無言で俺は肯いた。
「なら、貰えるさ。……そんじゃあ行こうか」
そう言って武さんは足早に道場を出て、地下へと向かった。

<SCENE059>――夕方
幻想種出現まで、残り期間はおよそ二週間。
会議室から地上までの階段を昇りながら資料に目を通す。
……宝具の無い人もサポートで参加するのか。
に、しても正規の退魔師三人、見習い退魔師二人、エクソシスト三人に俺達か……
実質の戦力は全部で九人……かなり厳しい人数だろう。
そもそも幻想種と戦った事があるのがエクソシストの三人だけと言うのも厳しい気がする。
それ以前に、叶が再び戦闘に参加できるようになってないと人数は八人となる。
勿論、俺自身が強くなっているのも必須だが――
……いや、違う。
過去の事例が一つしかない以上、予想値に期待する事は出来ない。
「最悪、今日にでも幻想種が出現するかもしれないのか……」
そうなったら、俺は戦いに参加できない。
それに、もし仮に出現まで二週間だったとしても……
ソレまでに俺達はそれぞれ間に合うのか? 叶も、俺も。
今は一秒でも多く修行する時間が欲しい。
学校は、明日から全て終るまで休む事にしよう。
「迷惑かもしれないけど、武さんに今から鍛えてもらおうか――」
急だった階段を昇り終え、俺は隠し扉を内側から押し開けた。

2/26(土)
<SCENE060>――昼
決闘場の中心。
二つの銀剣が互いに弾き合い、甲高い音を断続的に奏でる。
思考も身体も十日程前からは考えられない程加速していく――
《飛翔》の力を使わずにこれだけの力を振るえるようになったのは正直驚いている。
だがしかし、目の前の武さんは俺の剣戟を軽くいないしていく。
やはり、まだまだ俺は弱い。
本来の身体のポテンシャルも、剣術も、オーラを操る事も。何一つ武さんに追いつけない。
雑念が脳に走った瞬間。
「気を――」
しまっ――
「――抜くな!」
迫る銀剣に思わず瞳を閉ざし、ただ迫る斬撃を防ぐためだけに剣を構える。
銀剣がぶつかり合い、不協和音が響く。
閉ざした瞳を開くと、目の前で二つの銀剣が互いにせめぎあい拮抗していた。
っ……いや、拮抗してない。
『このままだと押し負ける』そう判断し、後方に跳躍する。
――が、まるで俺の次の動きを知っているかのように追撃が迫ってきた。
まずっ――
あまりの速さで迫る刃と武さんに恐怖し、再び瞳を閉ざす。
数瞬後、両目を開くと一寸先には銀の剣がかざされていた。
この戦いが模擬戦で無いなら100%俺は死んでいただろう。
今の状況だけでも見ても、完璧に俺の負けという事だ。
「また負け……か」
「それでも確実に強くなってる、大丈夫だ。っていうか正直すごく上達早いぞ、翼君は?」
「はい……ありがとうございます」
「それで、前も言ったけど、俺に出来るのは氣について教えるのと、模擬戦の相手くらいだ」
「はい」
「だからまぁ、後は氣が上手く使えるように頑張って鍛錬でもしてな。それじゃ」
「はい……」
そういい残して、武さんは模擬戦用の剣を置いて決闘所から出て行った。
確かに、俺は強くなった。だが、所詮それは今までの自分と比べてある。
俺の力はまだまだ、武さん達には遠く及ばない。
だがしかし、俺が強くなるまで時間は待ってはくれない。
有限である時間は無常にも確実に過ぎていく。
――幻想種が出現するまで、予測される時間は後一週間。

――to be continued.

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