EternalKnight
<共闘要請>
<SCENE049>――昼
「ご馳走様、あんがとな叶」
「うん、お粗末様でした」
ここは吹き抜けるような青空の下……早い話が屋上である。
《周り》には誰も居ない、寒いんだし当然といえば当然なんだが……
「ねぇ……翼?」
「どうした、叶?」
いや、言いたい事は判るけど。
「あそこの集団はお腹すかないのかな?」
「いや、多分それ以上に興味があることなんじゃないか?」
実際、俺も他のクラス内でのカップルができると数日間、学校にいる間は尾行してたし。
あぁ……後つけられるのが相当むかつくって、今わかった。
「アイツ等には悪いことしたなぁ……」
心の中で今まで尾行してきたクラスメイトに謝っておいた。
「ん? どうしたの?」
「いや、なんでもない」
で、教室からずっと俺達をつけて来ていた集団の視線がこちらに向いているのが判る。
せめてもう少し気配を隠して欲しいもんだが……
「まぁ、あの集団は気にしないようにしよう」
「あはは……まぁ、確かに気にしてたら疲れるもんね」
って言うかあの集団はむしろこちらに気付かれるように気配を発しているわけだが――
因みに、その意図はいちゃつくのを防止するためである。
ってか抑止しなければ互いへの羞恥心が無くなった時、際限なくいちゃつく可能性があるからなわけだ。
初めのうちに抑止すれば少なくとも学校内ではあまりいちゃつかなくなる。
しかし……これじゃあ放課後の事話せないな……
あぁ、そういえば――
そっと、叶の手に触れる――
「って……翼?」
聞こえるか?
一瞬あわてたような叶だったが、俺の心の声(?)が届いたらしく、反応してくれた。
(どうしたの? 急に)
やっぱ触れてれば喋ら無くても会話できるんだな。
(そうね、翼が私に伝えたいことは伝わってくるわよ? でもどうして判ったの?)
いや、どうしてと言われても昨日の――
(あー……昨日のあれ……思考洩れてた?)
あぁ、だからこっちからも伝えられるかなって思ってな。
(私の思考も伝えたい事以外は洩れないはずなんだけど……)
でも昨日は洩れてたし――
(そっ……その話はもう終わりにしましょ。それでどうして今そんな事する必要があるの?)
まぁ、あそこで聞き耳立ててる奴等に聞かれたくない話だからさ。
(どんな話?)
実はさ、放課後時乃さんに屋上に来いって言われたんだよ。
(茜ちゃんに? どうして?)
何でも《人外》に関する話らしい。
(《人外》ってこの前のオオガエルのことよね?)
多分そうだと思う。
(でもなんで私にそれを報告するの? 一緒に来て欲しいとか?)
いや、逆だ。こないで欲しい。
(それって、茜ちゃんと二人っきりになりたいってこと?)
まだ時乃さんには叶の正体を教えるつもりは無い。
それでさ、無関係な人間を巻き込みたくないから後をつけさせるなって。
(なるほどね……どっちにしても翼は私に聞いた事教えてくれるんでしょ?)
まぁ、そりゃ当然だろ? パートナーなんだから。
(わかったわ、色々と聞いてきてね?)
あぁ、それじゃあ――
ゆっくりと重ねていた手を離す。
「さて……そんじゃ、そろそろ教室に戻るか」
「そうね。行きましょ、翼」

<SCENE050>――夕方
世界を紅が支配している……そう見えるほど綺麗だった。
ここから見える世界の全てを夕日が紅く染めている。
周囲のどの建造物よりも高いここだからこそ、そう思えるのかもしれない。
――叶にも見せたかったな……ここからの景色。
まぁいつでも見せる事ぐらい出来るか――
そんな事を考えていると――[ギィィ]とドアの開く音がした。
来たみたいだな。
「ずいぶんと遅かったな」
「少し時間をずらしただけよ」
確かに、一緒に屋上なんかに来ると後つけてくるやつが居るもんな。
まぁ叶と付き合う事になったからつけて来るヤツは普通より多いはずだし。
「そっか、それで? 今は誰にも聞かれてないのか?」
「えぇ、気配もないし大丈夫よ」
「わかった、じゃあ本題に入ってくれ」
「えぇ、早速だけど武に《人外》について聞いてるわね?」
「あぁ、一昨日に一体始末した。デカイカエルみたいなヤツだ」
「――そう、なんで深夜に出歩いてたの?」
「いや、遭遇したのは九時半ぐらいだ」
一瞬、時乃さんの表情が曇り、何かぼやいたようだった。
――が、内容までは聞き取れなかった。
「そう、深夜じゃなかったのね……わかったわ」
「本題に戻すけど、この町は今《人外》の出現率が半端じゃないのよ」
「――っと言うと?」
「普通では考えられないほど、人外の出現が頻繁なの。それもなぜかて力の無い雑魚ばかり……」
「雑魚ばかり?」
どういう事だ?
「そう、最下級の人外ばかりなぜかこの町に集まってきている。で、その理由が今朝方わかったのよ」
「理由があったのか?」
「えぇ、探すのに手間が掛かったけど……過去に一度だけ同じ事例が有ったの」
「その事例ってのはなんなんだ?」
「……幻想種の出現の前兆よ」
「幻想種って?」
「最上位の《人外》よ、最低でも正規の退魔師が五人居ないと勝てる見込みが無いわ」
「五人……か、それなら日本に居る他の退魔師を集めれば――」
「過去の一番少ない人数で倒せた時で五人……よ? それも全員がかなりの腕の持ち主だったらしいわ」
……
「それでも、その時生還できたのは一人」
「そこまで……なのか」
「それに、日本の正規の退魔師は今現在は七人しか居ないわ」
「七人……だって?」
確か武さんの話だと日本の退魔師は十一人居た筈――
「そうよ、元々日本の退魔師は十一人、その内先日一人が死亡」
「そして忘れてもらっちゃ困るけど私も、武もどちらもまだ正規の退魔師じゃないのよ?」
「もう一人、氷室(ひむろ)の退魔師も見習い中。ついでに言うなら日本の全退魔師を集める事は不可能よ」
「どうして無理なんだ?」
「忘れてもらっちゃ困るけど、《人外》はどれだけ弱くても一般の人にとっては凶悪なバケモノよ」
「日本には……まぁ海外でもだけど《人外》の現れやすい土地がいくつかあって、そういった場所に退魔師やエクソシストは住んでいる……何故だか判る?」
「《人外》が現れたときすぐに対処できるように……か」
「そう、だから日本の退魔師全部をここに集結させる事は不可能なのよ」
「それで、つまり戦力が足りないから俺にもその幻想種ってのと戦えって?」
「その通りよ、それで……どうするの? 一応拒否権はあるけど?」
俺一人で決めていいんだろうか?
元々《飛翔》っていう力は俺一人のモノじゃないんだし――
「今……答えないと駄目か?」
「即答されて後でやっぱりやめたって言われるよりは今日一晩でも考えて結論を出してもらった方がこっちとしてもありがたいわ」
「判った、明日までに決めておく」
「それじゃあ、明日にでも答え……聞かせてね」
「あぁ……それじゃ、俺はもう帰るな」
「えぇ、また明日」

<SCENE051>――夕方
「――と、言う事らしいんだけど……どうする?」
家に帰って来てから、叶を呼び出して時乃さんとの話を覚えている範囲で詳しく話した。
「翼はどうしたいの?」
「俺は……戦いたい」
「……どうして翼は戦いたいの?」
瞳を正面から叶に見据えられる――
「兄貴との戦いの時にさ、俺に言ってくれただろ? 自分らしく生きればいいって」
「あぁ……そういえば《飛翔》として言ったわね、そんな事」
「だから俺、俺の好きな人達をみんな守りたいんだ」
自分らしく生きるために必要な物――
それは、俺っていう人間を知る人達だと、そう思う。
「幻想種を時乃さん達が倒せなかった時、俺と叶だけなら逃げ切れるかもしれない」
「――そうね」
「だけど、それだと真っ先にこの町に居るみんなが死ぬ事になる」
そんなのは嫌だ、皆には死んでなんか欲しくない。
「でも……きっと俺はさ」
誰にも死んで欲しくなんか無いけれど、俺は――
「誰か……いや、叶が居てくれれば……きっと俺らしく生きていけると、そう思う」
そう、叶だけでも居ればきっと俺は俺らしく生きていける。
「でもさ、それでも。俺は欲張りだからさ」
生きてはいけるけど、欲張りだから、できることなら――
「救えるのなら、その力があるなら、みんなを守りたい……そう、思うんだ」
「じゃあ、もし茜ちゃん達だけで倒せるなら?」
確かに、倒せたなら俺の守りたい人たちには危害は加わらない。
「俺は、後から後悔したくないから……だから、少しでも皆に危害が加わる可能性が低い道を、俺は選びたい」
――そう、俺の思う限りの答えを返した。
「そっか……なら私も翼のしたいことを手伝うわ」
「……ありがとな、叶」
「お礼なんていいわよ。私が翼の力になりたいだけだから」
「力って……まだそんな事言って――「違うわ」
「確かに私は翼の力になりたい。でも、それは翼が考えてる力とは、昨日までの私の考え方とは違う」
まっすぐと、ただ自分と俺に誓うように叶は続ける。
「私の言った力は、翼の支えになる為の力。戦う強さじゃなくて、心を支える強さ」
心の支え……か。
確かに、叶の力を借りるのに……一人で全部を背負うつもりで居た――
「私は翼を支えたい、翼には……私の支えは必要?」
そんな事、決まってる――
「あぁ、俺には叶が必要だ」
「うん、そっか。なら……決まりね」
「そうだな――」

2/18(金)
<SCENE052>――朝
何時も通りの一限目の授業。
さて、例の話をするのは何時に……
突然、時乃さんに紙を渡される。
―昨日の答え、聞かせて―
筆談……か。
すぐに渡された紙に返答を書き時乃さんに返す。
―参加させてもらう―
その紙、またすぐさま時乃さんが書き込み、再び渡された。
―わかったわ、紙はもう回さなくていいから―
どういう事だ? 何時連絡を取るつもりなんだろうか……
などと思っているうちに、時乃さんはケータイを取り出し、メールを打ち始めた。
もちろん教壇に立つ翔ねぇには見えないようにだが……
……さすがに、ここからじゃ内容が見えないな。
そして、内容を打ち終えて送信したのか、ケータイをしまい込んだ。
何を誰に送ったんだ?
そんな事を考えているうちに、一限目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
「はい、今日の授業はここまで。佐藤、号令よろしく」
「起立……礼」
佐藤の声で一斉に立ち上がり、礼をする。
「それじゃあね〜」
そういいながら翔ねぇは教室の外に出て行った。
そして――
『3年D組の三枝 翼君、時乃 茜さん至急、校長室まで来なさい』
クラス中がざわめき出す。まぁ、それは当然か。職員室とかじゃなくて校長室だし。
こう言う手を使えば少なくとも盗み聞きはされない訳だし……
しかし、呼び出し喰らうのって高校入ってから始めてなんじゃないだろうか。
中学の時は結構普通に呼ばれてたと思うけど。
「おい、翼。お前一体何をしたのさ?」
「時乃さん、なんか心当たりある?」
って言うか皆、話を聞こうと詰め寄りすぎだから。
「心当たりはないけど、呼び出されてるからいかなきゃ」
「じゃあ三枝は? お前には心当たりあるか?」
時乃さんが知らないって言ってるんだから俺もそういったほうが良いんだろう。
「いんや、ない」
「そっか、それじゃあなんか知らんが絞られてこいよ〜」
と、まぁそんな感じで後押しされながら校長室に向かった。

<SCENE053>――朝
「失礼します」
時乃さんがノックをしてドアを開ける。
「君が三枝君か、武から話は聞いているよ」
「そうですか。あなたも退魔師なんですか?」
「もう現役は退いたんだがね……今回また駆り出されることになったんだよ」
「虎一さんも参加になるんですか?」
時乃さんがやや驚いたように言う。
「あぁ、弟分の穴を埋める必要もあるしね」
なるほど、龍次さんの兄に当たる人か……
「さて、君は能力の解放タイミングを制御できないそうだが「それは大丈夫になりました」
「……そうか、今から会議上に向かうがそこで見せることはできるかい?」
「……ある条件が満たせればできます」
「条件? いったい何かな?」
「ある人物が一緒に来てくれれば可能です」
「誰かね?」
「俺と同じクラスに居る聖 叶さんです」
「わかった、その子もこちらにこれるように手配しよう」
「ありがとうございます」
そこで、怒気に満ちた時乃さんの声が響く。
「……ちょっと、三枝君本気なの!?」
「本気だけど?」
「あなた、彼女を戦いに巻き込むつもり?」
巻き込むも何もないんだが……まぁ今ホントの事をいったところで信じてはもらえないだろう。
「何ていっても信じてもらえないだろうから、自分の目で確かめてくれ」
「何をよ」
「俺が能力を開放するときに見ればいいさ。それから、校長先生」
「虎一と呼んでくれてかまわんよ、それで何かね?」
「それじゃあ虎一さん、俺たちは戦力としてあなた達に力を貸し、借りるだけだ、無用な詮索はよしてもらいたい」
「……いいだろう、こちらとしては今は少しでも戦力が欲しい所だ。まして、単体で鬼神クラスを倒せるのならなおさらな」
よし、これで叶が下手な実験の対象になることはない。
「それでは、その聖さんとやらをここに呼び寄せ、会議場に向かおうか」

――to be continued.

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