EternalKnight
<祝福>
<SCENE044>――夜
俯いて、涙を流す叶に一歩、歩み寄る。
「叶――」
流していた雫も拭わずに、叶は顔をあげて俺を見つめてくる。
「さっきも散々言ったけどさ……今度は俺からもしっかりと言う」
さっきも恥ずかしい事を言ってたけど、改めると余計恥ずかしいな――
でも、俺の言葉で……できる限り精一杯、気持ちを伝える。
「俺、叶がすげー好きだから……だから、俺と付き合ってください!」
心からの想いを、ただ声にして伝えた。
「――っありがと……っ翼」
さらに一歩、叶に近づく。
「なんでお前が礼を言うんだよ……それを言わなきゃいけないのは俺のほうだ」
「どうして……翼がありがとうなんて言うのよ」
涙を目尻に溜め、赤くなった叶の瞳を見つめて、告げる。
「お前が告白してくれなかったらさ、きっと俺、自分の気持ちに気付けなかったと思うから」
また一歩、叶に歩み寄り……自分でも驚くほど自然に叶を抱き寄せた。
「だから、ありがとう」
感謝の想いと、この胸に懐く気持ちを籠めて――
ただ強く、優しく抱きしめた。
――それからどれくらいの時間、一回り小さなその体を包んでいただろうか?
時間の感覚がなくなるほど穏やかな感情で、抱きしめ続けていた。
「――ありがと、翼。落ち着いたわ」
俺の胸に顔を埋めていた叶が声を出す。
「そっか」
そう言って俺はそっと身を離した。
「ごめんね、色々一人で暴走しちゃって」
「気にすんなって、彼女の想いを受け止めるのが男の役目だ」
「……まったく、カッコつけちゃって」
「いいだろ、別に」
「そうね、別にいいわ」
「じゃあ、そろそろ帰ろうか。行方くらましてたからみんな心配してるぞ?」
っていうか良く考えたらここ墓場だよな?
あぁ……なんか夜の墓場であの会話……冷静に考えるとすげぇ滑稽だなぁ。
「あぁ、そっか。あの後ずっとここにいたからなぁ……」
「今からでも寮に電話でも入れとけよ」
「うん、そだね」
叶はケータイを手早く操作し、電話を始めた。
特にする事も無いので、その様子を眺める事にした。
「……もしもし、私。叶だけど」
さて、一日……実質は二日行方をくらませていたんだから何をしていたかは聞かれるだろう。
「ちょっと、色々あって」
まぁ、本当のことは言えないし、信じてもらえないと思うが。
「ごめんね心配かけて」
確かに連絡を入れてなかった様だし、結構騒ぎになっていただろう。
「それなんだけど……今日も寮に帰らないってのは駄目かな? 四葉(よつは)」
電話の相手は東のようだった。
っていうか今日寮に帰らないってのはもしかしなくても――
「うん、でも明日にはちゃんと帰るから」
どっちにしても相手が東なことを考えると、明日には大変な事になりそうだ……
「それは……確かにそうね。わかった、一旦取りに戻るね?」
着替えとかだろうか?
「えっと……それは……」
む……話の流れが変わったみたいだな。
っていうか叶がなんか答えあぐねてるし。
「え?」
驚きの表情が叶に浮かぶ。
「そうなの?……うん」
コレは下手をすると明日には大変な事になりそうだ……
「まぁ、問題になってたいざこざは解決したけど……」
なるほど、何で行方不明になったか……か。
「って……なんでそうなるのよ」
話の軌道がまたもずれたのか、叶の表情が崩れた。
本人は気付いていないだろうが、ころころと表情が変わる様は見ていて楽しかったりする。
「それは、なんとなく……」
今度は顔を紅く染めていたりするんだが……やっぱりさっきのは――
「だから、別に何かする気は――」
あぁ、違うんだ……まぁ別に強要するつもりとかは無いけど。
「うぅ……それは……翼がしたいって言うなら――」
――うん、前言撤回。
ってか声に出してないから撤回しなくても良いのか。
「それぐらい、四葉に言われなくても判ってるわ」
何が判っているのか非常に気になるな……
そんな事を考えていると、叶は電話を終えて、ケータイをしまいこんでいた。
「えーっと……翼?」
「あぁ、なんだ叶?」
「今日さ、泊まりに言っても……いい?」
「……あぁ、もちろんだ」
「理由……聞かないの?」
「一人暮らしの男の家に来るんだろ? なら……聞くまでも無いさ」
「それも、そうよね」
叶も覚悟は決まったみたいだ。
さて、俺も覚悟を決めるか――

2/17(木)
<SCENE045>――朝
目が覚めると、いつも通り自室の天井が目に入った。
時計を確認する――6時30分。コレもいつもどおりだ。
いつもとの違いは体が異様にだるい事と寒い事……まぁ服を着てないぐらいだ。
「あれ……叶は?」
隣で眠っているであろう叶はすでに部屋には居なかった。
「どこ行ったんだろ?」
一旦寮に帰ったのかもしれない。とりあえず服を着よう。
制服に手早く着替えて、朝食を用意しようとリビングに向かった。
「おはよ、翼♪」
ドアを開けるとそこには叶が居た。
まぁ、叶が居る事自体は不思議ではない。
って言うかタフだな……叶。
「そこで何をしてるんだ?」
「料理よ、見てわからない?」
「いや、判るけどさ……なんで料理をしてるんだよ?」
「翼の朝ごはんを作ってるんだけど?」
「なんか、朝飯の割には量が多く見えるんだが?」
「お弁当も作ってるもの」
「そうか、弁当か……二人分あるのは――「私の分もだけど?」
あぁ……手作りのお揃い弁当か――
今日は始終冷やかし続けられるだろうなぁ……
それでなくとも東に叶が泊まりに来てる事がばれてるのに……
東のことだからきっとクラス中に言いふらすし。
まぁこの際別にいいや、きっと昨日の段階でクラス公認のカップル扱いになってるだろうし。
それに……別に間違ってるわけじゃないし――
「そっか。で、朝飯は何作ってるんだ?」
「えっとね、お味噌汁とかを作ってるの、もうすぐ出来るからちょっと待っててくれる?」
「わかった、テレビでも見とくから急いでないしあせらなくていいからな」
「うん、わかった」
さて、じゃあ久しぶりにパン以外の朝食が出来るのを待とうか。
そんな事を考えながらテレビのリモコンを掴み、テレビの電源をつけた。
『昨日、宮ノ下町で他殺体が発見されました。』
「なっ!?」
まさか……《人外》か?
『被害者の身元は今だ確認できていません』
『また被害者は刃渡り10センチ程の刃物で刺されていた痕跡があるとの事です』
刃物か……《人外》とは違うみたいだな。
「出来たよ、翼」
叶の声に反応して意識をテレビからそちらに移す。
叶が机に出来たばかりの朝食を運んできていた。
「ありがと、それにしても……ホントにパン以外を朝食うのは久しぶりだな」
「そうなの?」
「ああ、毎朝時間はあるけどパンで済ませてるからな」
まぁ偏に俺が料理下手だって事もあったんだが――
パンだと誰が焼こうが味なんて変わらないし。
「ひょっとして……迷惑だった?」
「そんな事ねぇよ、感謝してるさ」
叶が作った朝食が机の上に並び、叶自身も席に着く。
「そっか、うん。そう言って貰えるなら作ったかいがあったわ」
「さて、それじゃあ……いただきます」
「どうぞ、召し上がれ♪」
「なぁ、叶?」
「何、翼? お味噌汁冷めちゃうわよ?」
「いや、そんなにすぐに冷めないから。それでな?」
「うん、なぁに?」
「先に出発しないと裕太に見つかるぞ?」
そう、家が近いこともあってあいつは平日は毎日朝、俺の家に迎えに来るのだ。
「そっか……裕太は翼と一緒に登校してきてるのよね?」
「あぁ、だからあと三十分ほどで来る。先に出発してなくて大丈夫か?」
「別に隠す事も無いかな〜って」
「まぁ、確かに別に隠してもしょうがないと思うけど……ホントにいいのか?」
「うん」
「まぁそれなら飯食ったらのんびり準備でもしててくれよ」
「わかったわ。あぁ、でも食器も洗わなくちゃいけないなぁ……」
「帰って来てからでも食器洗いやっておくけど?」
「うーん、やっぱり今、私がやっておくわ」
「そっか、ならそれでいいや」

<SCENE046>――朝
食事も出発の準備もすっかり終らせ、俺と叶がニュースを見ていると、チャイムが鳴った。
「来たみたいだな」
「そうね」
「でだ、叶。ここはあいつを驚かすためにお前が出てみてくれないか?」
「わかったわ」
そういって叶が立ち上がる、もちろん俺も一緒に立ち上がった。
そして、玄関に辿り着いた叶がドアを開けると――
「おっす、今日も迎えに着たぞ、つば……さ?」
あ〜驚いてる驚いてる。
「……何で叶がここに居るんだ」
「それは……なんていうか色々あったのよ」
「まぁなんていうかだな、裕太」
「……なんだ、そっか付き合う事にしたんだな、お前ら」
驚きはもう残っておらず、友を祝福する者のようにこちらを見ていた。
「うん、でもやけにあっさりした反応ね、裕太?」
「いやー、なんていうか翼と叶にもやっと春が来たかと思ってさ」
「っと、まだ少し時間もあるし上がってくか?」
「いんや、ゆっくり歩きながら話でもしたい気分だ」
「そうか、判った。カバン持ってくるから待ってろよ?」
「言われなくても待ってるよ」
そんな裕太の声を背に俺はリビングにカバンを取りに戻った。

<SCENE047>――朝
で、学校に到着したわけだが――
俺と叶が言う前に、すでに噂はクラス中に広がっていた。
原因はきっと東だろうが――
「なぁ翼、もうやっちまったのか?」
「あぁ、なんてこった。お前が卒業しちまうなんて」
「どうだったよ? 感想あるか?」
と、まぁこんな話でクラス中が大いに沸き立っている。正直うざいが……
まぁきっと自分もクラスの他のヤツがこう言う事になったと聞くと同じような事をすると思うが――
そんな話をしている間にチャイムが鳴り出し、俺と叶の席に出来ていた人だかりは無くなった。
まぁ、全員自分の席に戻っただけだが。
全員が座り終わってすぐ、教室のドアが開き、翔ねぇが入ってきた。
「はい、みんなおはよ。早速で悪いけど今から講堂に移動ね」
「何かあったんですか先生?」
クラス委員である佐藤が翔ねぇに質問をする。
「うーん、新しい校長先生が赴任してきたのよ」
退魔師だった前校長の代わりか……また退魔師の人なんだろうか?
「へ? 前の校長はどうしたんですか?」
「なんでも色々あって挨拶にもこれないそうよ?」
それはそうだろ、もう居ないんだし――
「そうですか」
「それじゃあみんな、講堂に移動。あと十分後が開始予定時刻だから、挨拶はいいわ」
そう言い残して翔ねぇは教室を出て行った。
ほぼ全員が立ち上がり、教室の出口へ向かっていく。
「三枝くん」
そこで、すぐ隣から突然呼び止められた。
「時乃さん?」
「放課後、話があるから屋上に来て。人外関係の話だから人は連れてこないでね」
人外関係? どう言うことだろ?
「とりあえず判った。放課後だな?」
「えぇ、それから一つ言っておくわ」
「なんだ?」
「聖さんに……勘違いされないようにね? 後をつけられて話を聞かれると巻き込まれることになるわよ?」
どちらにしても俺が人外に関わるなら必然的に叶も関わる事になるんだが……時乃さんには黙っておくか。
「わかった、気をつける」
「それじゃあ、講堂に移動しましょうか?」
「そうだな」

<SCENE048>――昼
新しくこの学園の校長になった人は黒崎 虎一(くろさき こいち)と言う名前だった。
――黒崎か。やっぱり武さんの知り合い、いや苗字が同じだからかなり近い親戚か家族と言った所か。
まぁでも……今考えても仕方ないよな、詳しい事は後で時乃さんに聞けばいいんだし。
そういえば放課後の件、昼にでも叶には話しておくべきだよな……
[キーン、コーン、カーン、コーン]
授業の終わりを告げるチャイムの音が聞こえた。
「――では、今日の授業はここまで、しっかりと予習をしておくように」
そういい残して教員は去っていった。
っていうか実際予習してくる生徒って多いんだろうか?
俺は少なくとも復習はしても予習はしないけど……
「翼ぁ〜」
叶がこちらに近づいてくる。手には弁当が二つ――いや、俺と叶の分だが。
「ねぇ翼? お昼ごはんは何処で食べる?」
「何処……と言われてもなぁ」
って言うかクラス中からの視線が痛いんだが……
「とりあえず移動しよう。さすがにここは視線が……」
「視線?」
その一言でやっと叶は周りからの視線に気がついたのか、頬を少し紅く染めた。
それに、この話は他に聞かれるわけには行かないしな。
「あー……うん。そうね移動しましょ」
そういいながら叶は俺の手を引いて走り出した。

――to be continued.

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