EternalKnight
<黒い雪>
<SCENE025>――夕方
黒い光が影の消滅と同時に結束を失い飛び散っていく――
そして……時間が止まったようにゆっくりと、黒い光が宙を舞う。
その幻想的な黒い光に呼ばれたのか……白い結晶が天より舞い降りてきた。
穏やかに降り注ぐ白銀、それと同じように宙を舞う黒い光。
(綺麗……)
途方もなく幻想的な――
おそらくこの先、二度と見ることも無いであろう光景。
やがて黒い光が、背に浮かぶ羽と混じり合っていくのがわかった――
幻想的な光景は終焉を向かえる。黒い光は吸い尽くされてしまうのだから……
黒い光が吸い込まれ、後に残るのは天より舞い降りてくる白銀の結晶……雪のみ。
そういえばニュースでやってたような……まぁいいか。
(それにしてもすごい量……これだけエーテルを溜め込んでる相手に良く勝てたわね……)
で……何をしてるんだ《飛翔》?
(さっきの聖具……《同化》を破壊した事によって開放されたエーテルを回収してるの)
エーテル?
(うーん……経験値みたいなものよ)
経験値ってRPGとかのか?
(そうそう、レベル上げに必要なあれよ)
一体何処からそんな知識を……
(へ?……って、アナタの知識の中からに決まってるでしょ!?)
何をあわててるんだ?
(――はぁ……気にしないで、別になんでもないわ)
そう言うならそうするけど……
(さて、私は待機状態にでもなろうかしらね……)
そうか……
(そこで倒れてる人達、重症な人も居るみたいだから助けてあげて、それじゃあ、私は休ませて貰うわ)
ちょっと待て。俺にどうしろって言うんだよ、そんなの――
俺の呼びかけも虚しく、それっきり《飛翔》声は返ってこなかった。
って、そうだ。武さん達を介抱しないと……

2/15(火)
<SCENE026>――夜中
「ふぅ……」
畳の上に寝転がる……
今日、まぁ時間的には昨日だが。一日でいろんな事があった。
天井を見つめながら思い返す――
叶に告白されて、死んだ兄貴が現れて、武さん達が兄貴と戦って――
そして、《飛翔》と契約して、戦って……
「これから、俺はどうなるんだろ……」
そういえば《飛翔》が待機状態って言ってたけど……
どうやって次の時は呼び出すんだろうか?……まぁいいか。
そんな事を思ったときだった――
引き戸が開く音がして、武さんが部屋に入ってきた。
――さすがにこの体勢もどうかと思ったので体を起す。
「あぁ、そのままでもかまわない」
「いえ……それでどうしてまだ俺はここにいるんでしょう?」
「いや、今日はもう遅いし……」
――そういえば状況説明をする時に色々言ったんだっけな。
「家に呼んだのは……話を聞くためですか?」
「……まぁ、そうだな」
「正規の退魔師が殺されるレベルの人外を一人で倒したんだし……」
まぁ確かにそうか……
「だけど……俺はただ《飛翔》の力を借りただけですよ?」
「その《飛翔》ってのに興味があるんだけど……見せてもらえないか?」
「――いえ、どうやって出すかわかりませんから、それに詳しい事も聞いてないですし」
「そうか……」
そういえば、重症だった人はどうなったんだろうか……
「そう言えば、えっと龍次さんでしたっけ?……大丈夫だったんですか?」
ほんの一瞬、武さんの表情が陰り、すぐに元に戻る。
「いや……手遅れだった」
「そう……ですか」
「気にすんなって、あの人だって退魔師だったんだ、死ぬ覚悟ぐらいできてた」
「そんな……モノですかね?」
「そんなもんだよ。っとそういえば今度は個人的な質問、いいかな?」
「個人的な質問?」
「何で叶ちゃんと一緒にいたんだい?」
「アレは……えっと」
これは……どうするべきなんだろう……
ん? なんか忘れてるような――
「ああぁぁぁぁぁ!?」
「うぉ!? いったいどうしたんだよ、急に叫んで?」
「あの後、叶に連絡入れてなかった……」
「あの後って……人外を倒してからか? そりゃまずいだろ、安否ぐらい連絡入れなきゃ」
「そうですよね。えっとケータイは……家に置いたままだ――」
思えば兄貴と《同化》を倒してから、武さん達を解放してそのままこっちに来たからな……
「えっと、電話貸そうか?」
「いや、電話番号覚えてませんから……」
「じゃあ……どうするつもりだい?」
「――今から帰ります」
「もう一時だし、それに夜だから人外が――」
「大丈夫ですよ、《飛翔》もいますし」
「いや、さっきどうやって出すかわからないって……」
「何とかしてくれます、《飛翔》なら」
そういいながら立ち上がる。
「なら別にいいけど……あぁ、玄関まで送ってくよ」
そう言って、武さんが俺の後をついて来る。
「どうでもいいけど広いですね、この屋敷」
「まぁこれでも人外の発生率の高いこの町にとって守護者みたいなもんだからな」
「へぇ……」
そんな事を話していると、すぐに玄関に辿り着いた。
「それじゃあ、また」
そういって玄関のドアを開ける。
「あぁ翼君、言い忘れてる事があった」
そのまま外に出ようとしたが振り返る。
「明日は高校は休校だ」
「へ? 何でですか?」
「校長が死んだからな、特別に明日は休みだ」
校長が……死んだ?
「なんでそんな事知ってるんですか?」
「何でって、校長の龍次さん死んじまったしさぁ?」
――はい?
「知らなかったって顔だな……まぁ最近は結構海外に出てたから顔を知らなくても仕方ないか……」
そういえば校長ってやたら海外出張でいなかったよな、高校の七不思議のひとつだとか……
「まぁ……ほとんど顔出してないから覚えてないのも仕方ないさ」
「――まぁ、とにかく明日は休みだからゆっくりと休めば良い」
「わかりました、それじゃあ今度こそ、さようなら」
そういって俺は屋敷から出た。

<SCENE027>――夜中
十数分程雪の振る中を走り続け、人外と出会うことなく家に辿り着いた。
すぐさま家の中に入る。そういえば何気に鍵閉め忘れてたな、俺……
いや、今はケータイを……あった!。
いつものようにソレは机の上に無造作に放置されていた。
すぐさま拾い上げ画面を見る……新着メール一件か、叶だろうか?
寒さでかじかむ指のせいで上手く操作できないが、何とかメールボックスを開く。
メール送ってきた人物は……聖五さん?
「なんのようだ? いや、ソレより叶からメールが着てないのは……」
疑問に思いつつ聖五さんのメールを開くと、そこには――
――用事が入ったから今日の勉強は中止でよろしく――
――明日はあるから勉強しとけよ、じゃあまた明日――
「って、これだけかよっ!」
思わずツッコんでしまった……そういえば今日、聖五さんが来るの忘れてた……
――って、そうじゃなくてこんなメールはいいとして、早く叶に連絡しなきゃ。
アドレス帳を開き、叶の名前を探しだして、ダイヤルする。
[プッ……プッ……プッ……]
って……叶はもう寝てるかもしれないよな。
いや、せめて心配かけないように留守電でも残さないと……起きてるかも知れないし。
[プルルルル……プルルルル]
そんな断続的な機械音がなんどかなった後――
『もしも〜し「叶、起きてたのか?」
『今は悪いんだけど電話に出れないの、ごめんね?』
って何だ、留守電かよ。
『放送禁止用語風の音の後にメッセージでも残してね〜』
機械音が『ピー』っとなる。って言うか放送禁止用語ってなぁ……
っとそうじゃない、なんか喋らないと……
「えっと、ワザワザ名乗らなくても声でわかると思うが翼だ」
「大分前に兄貴を倒したんだけど、その後色々あってさ、連絡できなかったんだ、心配してくれてたらスマン」
「まぁ、留守電って事はオマエは安心しきって寝てるんだよな? ちょっと謝り損かもなしれん」
「っと、まぁ一応安否の連絡だけ入れときたかったから、それじゃあな」
[ピッ]
「こんなもんでいいか……」
俺はケータイの電源切ってからつぶやいた。
「ふぁ……なんだか眠くなってきたな……」
風呂入ってないし飯も食ってないけど……まぁいいや今日はこのまま寝よう。
俺はそのまま部屋に戻りベッド倒れ込み、そのまま何も考えずに睡魔に飲み込まれていった。

<SCENE028>――朝
目が覚める……今日もいつも通りの時間だった。
「っ…………ぁあ」
ベッドから立ち上がり、背筋を伸ばすが――
「寒っ……」
そんな事を感じながらカーテンを開くとそこは――
一面の銀世界だった。
「積もらないと思ってたのになぁ……」
さすがにもう雪は降り止んでいが――
「って言うか今日って思い出してみりゃ休みなんだよな?」
もう雪で遊ぶって歳でもないけど……この地方だと次はいつ積もるかわからないし……
「ここは……みんなを集めて遊ぶべきだな」
ケータイを手に取り、メールを打つ……手が止まる。
そういえば先に休みになる事を知ってるってまずいよな?
「せめて休みになる連絡が回ってくるまで待つか……」
とりあえず俺は待ってみることにした……
――のだが、遅い。準備は万全なのだがもう七時半を回っている、遠いヤツならとっくに家を出てる時間だ。
まさか……ワザワザ学校に集めてそこで発表とか?
「まぁ仕方ないか……」
[ピーンポーン]
「むっ……裕太が来たか」
平日の、この時間の訪問者=裕太の図式はもう俺の脳内では成立している。
「叶との事を言うべきか……いや、ソレはさすがに叶に相談してからか……」
玄関まで歩きながらそんな事を考えていてはたと気がついた……
「俺……今、私服だし」
休みになると高をくくっていたせいで今は私服である……ヤバイな着替えないと。
[ピーンポーン]
よし、玄関前に裕太を放置して着替えてこよう。
そのまま引き返して二階へ駆け上がる。
[ピーンポーン]
少し待ってろ、裕太。今着替えてそっちに行くからな。
[ピーンポーン]
なんて思いつつ着替えを済ませて玄関に駆け込む。
って言うかだんだんチャイムの間隔が狭くなってますが?
っていうか今は連打しているので正直うるさい。
初めの『ピ』の音が断続的に鳴ってるようにしか聞こえない。
「うるせぇよ!」
玄関の外にいる裕太に向かって怒鳴り声を――ってあれ?
何で裕太じゃなくて叶なんだ?
「えっと……なんでここに?」
「ソレはえっと……翼に連絡を回しに来たの」
なんだか俯いてますけど……これはきっと昨日の件のせいだろう。
真っ赤になりかけの耳を見ればわかる。
いやそうじゃなくて、何で電話じゃないんだ?
「今日休みって連絡が学校から入ったんだけどね、翼を驚かせようとしてこうやって伝えに来たの」
「じゃあ……さっきのチャイム連打は?」
「もちろん僕だけど?」
叶の横からひょっこりと裕太が顔を出す。
「で? それで俺を驚かせてどうするつもりだったんだ?」
「いや、雪積もってるしみんなで雪合戦でもしようかと思ってさぁ?」
「みんな? みんなって何人だ?」
「うん? クラスほぼ全員だけど?」
「――はい?」
「そんなに集まるわけ――「ソレが集まっちゃうのよね〜」
この声は……紛れもなく……
「みんな成績上げたいもんねぇ〜」
翔ねぇだった、って言うかいつの間にか家の庭にクラスメイトほぼ全員がいた。
いや、数えたわけじゃないけどソレぐらいいた。
「一体どうやって……」
「参加してくれたら三学期の成績を上げてあげるって言ったら……この通りよ?」
誇らしげな顔で『この通りよ?』とか言われてもなぁ……
「ソレって……いいのか?」
「さぁ? ばれなきゃいいのよ、ばれなきゃ」
果たしてほんとにこの人は教員免許を持ってるんだろうか?
まぁいいか……俺も誰か誘って遊ぶつもりだったしな。人数は多い方がいいだろ。
そんなこんなで俺は雪合戦に参加することになった。

<SCENE029>――朝
あの後、学校に移動した。雪合戦を校庭でする事に決定したからだ。
今回の雪合戦は個人戦で、共闘は自由とされている。
ルールは簡単、あらかじめ一人一つ渡されるゼッケンを他者から奪い取る事。
ゼッケンがなくなっても退場にはならず、そのまま他者のゼッケンを奪う事が可能である。
ゼッケンを持っているモノは必ず一つゼッケンを身につけること。
道具の使用は禁止ただし雪を使った物はこの限りではない。
制限時間は12時までだ。
……っていうかこのルール雪合戦じゃないよな、絶対。
因みに最終的に持っていたゼッケンの数が成績に影響を及ぼすらしい。
いや、俺は別にどうでもいいけど。
開始時間までまだ後十分程ある。共闘できそうなヤツを探すか……
まずは……叶と裕太かな?
っと、あいつらは……ばらばらに移動して何処にいるかわからないからな……

――to be continued.

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