EternalKnight
<白き翼>
<Interlude-蒼二->――夕方
翼の首を掴み、片手で持ち上げる。
なんだ、まだ意識を失わないのかよ、しぶといな――
(契約者よ、殺しては意味が無いぞ?)
「そんな事は言われなくてもわかっているさ、これは僕の新しい体になるんだからね」
(ぬっ!?)
どうしたんだい?
(いや、何……少々予想外の事が起こるようだ――)
予想外ってどういうことだ?
(悪い事は言わん、早くそいつを放したほうが良いぞ?)
何を言ってるんだ? さっき意識が無い方がいいって――
(忠告は……してやったぞ?)
だから何を言ってんだよ、ど――
瞬間、淡い光が周囲を包みこむ。
何が起きてるんだ? 周りが見えないじゃないか。
(契約者よ、油断すると……死ぬぞ?)
死ぬ? 何処に僕の死ぬ要素があるって言うんだ?
(契約者の目の前だ)
「Shadow――」
「ん……クズの声か? まだ喋れるなんて案外タフだね?」
「――Bane」
!?
言いようの無い悪寒を感じ、翼の首を離し距離をとるが――
――それはすでに遅く、左手の感覚がなくなったのがわかった。

<SCENE022>――夕方
視界は光に包まれている。だけど《飛翔》の力を確かに感じる――
そして……その力の制御法もわかる。
――いける! これなら……戦える!
「Shadow――」
詠唱。右腕に力が集っていくのがわかる。
「ん……クズの声か? まだ喋れるなんて案外タフだね?」
その形も、大きさも把握している。完成すれば後は攻撃するのみ。
目の前は未だに光で白く塗りつぶされているが、敵の位置など確かめるまでもない。
十分思考をめぐらせてから、詠唱を完結させる。
「――Bane」
詠唱の完了とともに……それは構築される。
何があったか知らないが完成と同時に兄貴の手は首から離されるが――関係ない。
完成したそれを振る――何かを斬った感触があったが、どれだけ傷をつけたかはわからない。
光が……晴れていく――
(いくら技を教えたからって、実戦でいきなり使うなんて……)
力なんて使わなきゃ意味無いだろ《飛翔》?
(それもそうね……そう、力は……使う為にあるのよね?)
勝手にネガティブになってるとこを悪いが、まだ倒せてないんだろ兄貴は?
(そうね、反応は消えてないし……)
《飛翔》がそう言ったところで光は完全に晴れて兄貴が見えてくる。
右腕は相変わらず付け根から無くなっており、左手も手首から先が無かった。
俺は右手の剣に視線を一瞬だけ移す。左手を切ったのはコイツだろう。
「くそ、何だよそれ! 何でお前がそんなもんもってんだよ!」
(そんなもんとわ……失礼ね、あなたのお兄さんも――)
あれ……アイツが俺の兄貴って《飛翔》に言ったっけ?
(……言ってたわ、それより今は戦いに集中しなさい、お兄さんもご立腹よ?)
「答えろ、翼ァ!!」
みたいだな……ここまで頭にきている兄貴を見るのは初めてかもしれないな……
「どうでもいいだろ? 兄貴には関係ない事だ」
「ふざけるなぁ! 僕に刃向かってただで済む問い思ってるのか!」
「やらなきゃ……俺がやられちまうだろ?」
そういえば《飛翔》、叶はどうなってる?
(……彼女ならもう居ないわ)
――そっか、逃げれたんだな。
これで心置きなく、やれるってもんだ。
さぁ集中していくぞ《飛翔》。俺は意識を兄貴の方に向けた。

<Interlude-蒼二->――夕方
「くそ、何だよそれ! 何でお前がそんなもんもってんだよ!」
翼の背に浮遊する球体から淡く光る羽が伸びている。
そして、翼の右手には同じく淡く光る刃が握られていた。
何でアイツがあんなもの持ってるって言うんだよ!
「答えろ、翼ァ!!」
おい、アレは一体なんだ!
(見てわからんのか……契約者よ。アレは聖具だ)
「どうでもいいだろ? 兄貴には関係ない事だ」
「ふざけるな、僕に刃向かってただで済むと思ってるのか!」
クズの分際で、調子に乗りやがって……
「やらなきゃ、俺がやられちまうしな」
そういいながら、まっすぐに僕を見据える、刃向かうような目で――
「クズが、立場を知れ!」
静かに翼が僕に刃を向ける。
「立場だと? そんなもん……知るかよ」
「お前なんかが僕に刃向かって良い訳無いんだよ!」
「それは、アンタが勝手に決めた事だろ? 俺が従う理由なんて無い」
「っ……聖具と契約した程度で……調子に乗るなぁ!」
「なんだ? 俺がアンタと対等の力を持つのが気に入らないのか?」
(……体はいらんのか、契約者よ?)
お前の力だけあれば僕はそれで十分だ、元々こんな世界に未練なんて無い。
(好きにしろ……)
その声がなぜか満足そうに聞こえた――

<SCENE023>――夕方
「っ……もういい、お前の体などいらない。あいつ等の様に泣き喚いて命乞いしようが……容赦なく殺してやる!!」
そうか……そういえば忘れてた。
コイツは……母さんも殺したんだったな。
(そう、翼のご両親は……)
復讐しようなんて思って無いさ《飛翔》、ただ出来ただけだ――
――あいつを、兄だった男を……殺す覚悟が。
(――そう)
「俺を……殺すんだろ兄貴?……もっとも、その両腕で出来るならだけどな?」
「この程度の傷……お前へのハンデだ!」
兄貴が言い終わった瞬間、俺は地面を蹴り一気に兄貴に接近する――
自分のものだと信じれない程の速度だ、これが聖具の加護――
右手の剣を振り下ろす、兄貴はそれを拳以外が残っている左腕で受け止める。
[ギィン!]
鈍く短い金属の衝突音がして、互いの刃が拮抗し――いや、僅かにこちらが押している。
「俺を……どうするって?」
「ぐッ……そんな馬鹿なことが、ある筈ッ――」
このまま……押し切る!
「ウォォォオオオオ!!!」
拮抗していた刃を切断。刃を振りぬき――そのまま勢いをのせて肘を叩き込む。
その一撃が吸い込まれるように鳩尾に入り、兄貴を吹き飛ばした。
(……翼って、ケンカ慣れでもしてるの?)
まぁ、それなりには――
体勢を立て直し心の中でそう答えつつ兄貴に歩み寄り、ノド元に光りの刃を押し付ける。
「――……ッゥそだ。嘘だ、嘘だ、嘘だァァ!! お前が、お前が僕より強い筈ないだろォォォ!!」
「……アンタの、負けだ」
ノド元に刃を突きつけられて尚わめき散らすその姿が妙に哀れに見えた。
――俺は、こんなヤツに怒りを向けていたんだろうか?
急に兄貴はわめくのを辞めて静かになる。
あきらめた……のか? アレだけプライドの高かった兄貴がか?
――そんなはずは無い。
なにか思いつきでもしたのかもしれない。
今のうちに――
「ッく――」
刃で首を刎ねる……ただそれだけなのに、腕が……動かない。
血の繋がった兄だからとかそんなのは関係なく――ただ腕が動かない。
覚悟はできていた筈なのに……動いてくれない。
否、動かす事が出来ない。
(翼、離れてぇ!?)
「!? なッ……」
突然兄貴の腹を割いて、黒い何かが俺に向かって伸びてきた――

<Interlude-蒼二->――夕方
息が――呼吸が出来ない。苦しい。僕をこうしたのは誰だ?
――翼? そんなはず無い、嘘だよなぁ?
「――ッゥそだ。嘘だ、嘘だ、嘘だァァ!! お前が、お前が僕より強い筈ないだろォォォ!!」
淡い光りを放つ、僕の腕を切り落とした刃がノド元に突きつけられている。
そんな馬鹿な事――
(契約者よ……力が、欲しいか?)
当たり前だ、欲しいに決まってるだろ!
(何故……力が欲しい?)
あいつを、翼を殺す為に決まってるだろ!
(どうしても……か?)
あぁ、あのクズを殺せる力をくれるなら何だってしてやる。
(本当か? ならば相応の代価が必要であろう?)
あぁ、約束しよう。さぁ僕にお前の力をくれ。
お前の全ての力を開放しろ。その代価にこの僕の全てをかけようじゃないか。
(その言葉を待っていた。我が名《同化》の名において汝の魂と同化しよう――)
瞬間、全てが黒に塗りつぶされた――

<SCENE024>――夕方
恐れていた衝撃と痛みは訪れない――
どう……なったんだ? 瞬間的に閉じてしまった瞳を開くとそこには――
背中に浮いていた翼が盾のように黒い何かを防いでいた。
(大丈夫だった?)
すまない、《飛翔》……助かった。
(……契約者を守るのは役目みたいなものだし……気にしないで、それより――)
俺が兄貴から距離を置くと、《飛翔》の羽は元の位置に戻り、何が起こったのかがようやくわかった。
兄貴の腹が割け、そこから深淵を思わせるほど暗い《腕》が生えていた。
次いで、さらにもう一本その裂け目から腕が生えてくる。
ありえない光景――
あらゆる意味であり得ない。否――あってはならない光景だった。
生えてきた腕は何か手がかりを探っているかのように動き、やがて兄貴の腹を突き破り……
――ドス黒い何かが、その中から這い出した。
だと言うのに、兄貴からは血が噴出していない。
――否、《一滴たりとも》流れ落ちてはいない。
「どう……なってんだよ?」
そうだ、片腕がなくなったいたのに、左手を切断したときも――
兄貴は血を……流してない?
兄貴の言葉が『あいにく僕は今……生きていない』脳内に反芻する。
そういう意味だったのか?
(いいえ、あなたのお兄さんは死んでいて魂だけしかなかった、あの体はただの器でしかないの)
じゃああの這い出してきたアレは……アレは一体なんなんだよ?
(おそらく、魂を入れていた器そのもの……聖具でしょうね)
アレが……あんなのが聖具だって?
醜く地を這っていた黒い何かがゆっくりと起き上がってくる。
「多少予定外のことが起こったが……、まぁ問題は無いだろうな」
黒い影が、全てが深淵に塗りつぶされた影がそんな事をいった。
「まぁどちらにしても……貴様を取り込むことに違いは無い」
(――やるしか無いみたいよ?)
――兄貴が相手でなくなった以上、叶は大丈夫になったんだろう。
(……)
なら後は、後先考えずコイツとやれる。
淡く光る剣を黒い影に突きつけ――宣言する。
「そんな事はさせない俺は……お前を倒す!」
相手が人間で無いなら躊躇う必要など無いのだから。
「そうだ、それでいい。さぁ始めよう」
影は今までの兄貴と同じように腕を構える。
「あぁ、そうだな」
こちらも剣を構える――
どちらからともなく動き出し――剣戟が始まる。
光る剣と黒い手刀がぶつかり合い、火花が飛び散り、甲高い音が断続的に鳴り響く。
剣戟は拮抗しているが……相手の動きに先程まで……兄貴の時のような余裕が感じられない。
だが、兄貴の時より一撃の威力は増している。
[ギィン]
短く鈍い金属音が響き、互いの刃が重なり[ギリギリ]と音を鳴らし競り合う。
――単純に力が上がってるからさっきと同じ用に力で押し斬る事は出来ない。
なら……直感に任せて刃を弾き、思いっきり地面を蹴り飛びあがる――
そう、文字通り本当に俺は宙に飛んでいた。飛行能力それが《飛翔》が《飛翔》たる所以なのだ。
《飛翔》一気に決める。力を貸してくれ!
(――任せて)
瞬間、翼が大きく羽ばたき、光る羽がそこいら中に飛び散っていく。
「何を……?」
「Shining――」
飛び散り無数に宙を舞う羽が静止しそれぞれ弾丸の様に成って行く――
「rain!!」
いくつも中空で停止していた弾丸が一斉に影に向かって雨のように降り注いでいく。
「ッ!?」
影は光りの雨に打たれる……が質より量のこの技では致命傷は与えられない。
だがしかし、その数は相手の視界を遮り、なおかつ注意をそらすにはうってつけ。
だから――コイツで……
右手の剣を強く握り、落下の速度に《飛翔》の力をあわせて加速していく――
「ウォォォォオオオオ!!」
勢いに乗せ、淡く光る剣で影が先程居た場所を一閃した。
地面に足をつけて勢いを殺して……停止。
手ごたえはあったけど……やったか?
すぐさま影が居るであろう後方に振り返る。
「ッ……これ程とは」
黒い影の左脇腹が大きく裂けていた。
傷口からはやはり血は流れていない。
――が、今は傷口から黒い光のようなものが漏れ出している。
――いける、これなら止めをさせる。
「行くぞ《飛翔》」
(えぇ)
剣を影に向ける。
「中々の力だな……将来も有望だろう」
「何を……言ってるんだ?」
「ふむ、予定を多少変更せねばならんが問題はなかろう――」
今から自分が殺されるのに何を言ってるんだ? コイツは。
まさか……奥の手でも残ってるのか?
(それは無いでしょうね、さっきからオーラが傷口から漏れ出してるもの)
「――同化だ」
「何?」
(翼、早く止めを)
っと、そうだな――
俺の手元の淡い光りを放つ剣が、黒い影の中心を貫く――
黒い光りが影の中からあふれ出し、影は徐々に薄くなっていく。
「我が名は《同化》。よく、覚えておけ」
その言葉を言い終えると同時に、黒い影は完全に黒い光となり、消滅した。

――to be continued.

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