はじまりの恋
告白/4
それに比べて自分は――これといって特筆すべき点は少ない。ごく普通な三十代。
身長は平均値。低くはないが決してお世辞にも高いとは言えず、顔の質も中の中ぐらい。いささか若く見られるがそこまで童顔というほどでもない。ましてや中性的などという要素もこれっぽっちもない。まぁ家族みなごく普通の一般的な容姿なのだ。トンビが鷹を生むなどという、そんな突然変異は起こらなかったのだろう。ただ、家系なのかあまり太らない体質なのはありがたい。
しかしここまで平凡地味だが、平凡なりに女性と付き合った経験がないわけでもなく、想いを寄せられた経験がないわけでもない。性格の善し悪しは自分ではわからないが、人好きする雰囲気だと言われたことはある。
要は話し易いということか。
「人間顔じゃないとは言うけど」
彼のどこに自分がヒットしたのかが謎なのだ。いつから僕を好きなのかはわからないが、藤堂の在学期間――ここ二年間、なにをしていた? 確かに去年まではいまの三年生を受け持っていたし、藤堂のクラスも担当していた。けれど彼は授業中すごく大人しくて、あまり印象に残っていない。
「ホントに……覚えてない」
そもそもなんだってこんな歳の離れたオジさん? あの年代からしたら間違いなく、僕の年齢はお兄さんではないだろう。
歳上が好きとか? いや、それにしても十五歳は離れすぎている気がする。年齢とかはあんまり関係ないのだろうか。
「これはちゃんと聞かなくちゃ駄目なのか。考えるってそういうこと?」
とにかく彼のことがわからないのに考えようもない話だ。申し訳ないが本当にいまは記憶にある程度の認識しかない。
「知るって言っても、どうすりゃいいんだ」
なんだか頭の中が不覚にも藤堂に占拠されている気がする。告白だなんて初々しい気分久しぶり過ぎて、変に浮き足立ってるのか。
しっかりしろ自分。
小さく唸りながら、僕は行き場のないこのモヤモヤを消化しきれずにいた。
「西岡先生」
呆けていると突然背後の戸がガラガラっと音を立てて開け放たれた。あまりの唐突さにびくりと肩が跳ね上がる。
「あっちゃん。ノックしないと西やんがびっくりしてる」
「ごめん忘れてた」
急に賑やかになった室内に肩を落としながら僕は二人を振り返った。
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