はじまりの恋
告白/5
目の前には僕の予想に漏れず、肘で互いを小突きあう凸凹コンビがいた。
「片平、三島。お前たちは相変わらず騒々しいな」
二人は数ヶ月前に一週間ほど代理顧問をした写真部の部員で、それ以来なぜかよくこの場所に出没するようになった。
肩先まで伸びた真っ黒な黒髪に、大きな瞳とこじんまりとした容姿が小動物を思わせる女子が片平あずみ。ふわふわの茶色い癖毛で、ひょろりと背の高い細目の男子が三島弥彦だ。幼馴染らしい二人は大抵二人ワンセットで称される。
ため息混じりの僕の声にへらりと笑った三島に対し、片平は肩をすくめただけだった。
「これ職員室に行ったら先生にって渡された。準備室に引きこもってばっかりいないで、たまには職員室にも行ったら?」
すたすたと僕の目の前まで歩み寄り、片平はずいっと腕を差し出し握った紙の束を僕の胸に押し付けた。
「あぁ、そうか。そういえば三年のもこれ今日までだったな」
突然押し付けられた紙の束を受け取りながら、僕はワンテンポ遅れてその意味に合点いった。全校一斉抜き打ちテストの採点の一部を任されていたことをふいに思い出した。新学期、入学早々のこのテストは毎年恒例だが、毎年必ず悲鳴が上がるテストだ。
「西やん? どしたの、珍しくぼんやりしちゃって」
「なに言ってんの弥彦。先生はいっつもでしょ」
片平の横に並び、心配げな表情で首を傾げる三島は、僕の目の前で手をヒラヒラと動かす。それに対し片平はいささか呆れた面持ちで息をついた。
「えぇ? いつも以上だよ」
片平の言葉に三島は眉をひそめしゃがみ込むと、僕の顔を下から覗き込み目線を上げた。
「いや、悪い悪い。ちょっと考え事してた」
大型犬がまるでお座りしたような錯覚を覚え、頭を撫でてやると三島は不思議そうに小さく首を傾げた。
「考え事って、藤堂優哉?」
まるで独り言のようにぽつりと呟いた片平の言葉に、三島の癖っ毛をわしゃわしゃとかき回していた手が思わず止まる。
「えっ?」
上擦った声を発しながら、僕はいつの間にか横に立っていた片平を振り返る。動かす首が油の切れたブリキのような、ひどく鈍い音がした気がする。
「なにその反応。怪しい」
口端を持ち上げてにやりと悪い笑みを浮かべる片平に顔が引きつり、背中を冷たい汗が伝った。
「藤堂優哉が気になるの?」
「え? あ、それはちょっと色々あって」
「ふぅん。そう、色々って?」
ずいと顔を寄せてくる片平を避けながら椅子を後退させると、面白くなさそうに彼女は肩をすくめる。
「西やんって優哉となんかあったの?」
「え? いや、なにかあった訳じゃないんだけど。どんな子だったかなぁと」
首を傾げる三島の頭に軽く触れるよう、二度、三度、手を置いて、つられたように僕も思わず首を傾げてしまった。
「弥彦、教えてあげれば? 同じクラスでしょ」
「こら片平、いつまで見てるんだ! 勝手に見るんじゃない」
いまだにしゃがんでいる三島を見下ろしながら、片平は青いファイルを手に取りその内容を繁々と読んでいた。
慌ててそれを取り上げると、片平は目を細めて小さく口を尖らせる。可愛らしい仕草だが、彼女がやると、どうにもなにか含みがあるような気がして、冷や汗が出るのはなぜだろう。
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