はじまりの恋
告白/2
どこか自嘲気味に笑った藤堂のその表情に、思わず僕はうな垂れるように片手で額を押さえ俯いた。
「悪い、余計なこと聞いた。うん、そうだよな。うん、いまのは僕が悪かった」
いまこの状況でそんな質問をする僕は最低だ。冗談でもからかいでもなく、こんなに真剣に向き合ってきているのだから。一時の気の迷いというわけでもなさそうだ。それに、別にここは女っ気が極端に少ない場所でもなければ、閉鎖された空間でもない。ましてやごく普通の共学の私立高校。
男女比だって工業高校でもないのだから半々に近い。
「とりあえず、ちょっと時間をくれないか? 少し落ち着いて考えるから」
そうだ。まず動転して上手く働いていない頭を冷やさないとどうしようもない。
「あ、これってその、あれだ。えっと」
しどろもどろな僕の様子にほんの少しだけ首を傾げたが、藤堂はすぐに言いたいことに合点いったのか、微かに笑みを浮かべる。
「応えてくれるなら。貴方とお付き合いさせてください」
ふわりとした藤堂の笑みは、男の自分さえ一瞬、胸が思わず高鳴るほど綺麗なものだった。照れたように少しはにかんだその表情に、不覚にもまた見とれる。
「真っ直ぐなんだよな」
「え?」
ポツリと小さく呟いた僕の独り言に、藤堂は不思議そうに首を傾げた。
「なんでもない」
間違いなく女の子だったらいちころだ。こんなにも一途で、真っ直ぐなその瞳に見つめられて、堕ちない子はそうそういないだろう。
しかし何度も言うが――僕は生まれてこの方、同性に恋情を覚えたことはない。憧れや羨望で男気に惚れるというのはあるけれど。
「……かといって」
同性の恋愛に偏見があるわけでもないのだ。多分目の前にいるのが藤堂ではなく、女子生徒だとしても同じことを言った気がする。
とはいえこのハードルはいささか高過ぎる。まさに未知との遭遇。いざ真っ直ぐぶつかられると、どう対応したら良いのかわからないものだ。
「西岡先生。困らせてすみません。けど、伝えておきたかったんです――西岡、佐樹さん」
俺は、貴方がずっと好きでした。
人生山あり谷あり。僕は教職に就いて初めて教え子から愛の告白を受けた。しかも相手は十五歳も年下の現役男子高校生。真っ直ぐ過ぎるその想いにもう既に、脳みそがついていけてない。
甘酸っぱい青春は時間の波間に置き忘れてきた。そんな――三十二年目の春。
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