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はじまりの恋
告白/1
 僕はどこにでもいるような、ごくごく普通の高校教師だ。

 けれどそんな自分にごくごく普通ではない、思いの寄らない言葉が投げかけられた。そしてその言葉に思わず口を開けたまま、僕は時間が止まったように身を固めてしまった。
 視線の先で彼は、間抜けた僕を見て笑うでも困惑するでもなく。ただじっと数分前と変わらぬ表情でこちらを見ている。

「い、いま、なんて?」

 自分だけが取り乱しているその状況に声はどもり上擦った。暑くもないのになぜかにじんできた額の汗をさりげなく拭い、再び僕はオウムのように先程と同じ言葉を繰り返した。
 さすがにその情けなくうろたえた様子を哀れに思ったのか。彼は――藤堂優哉はわずかに眉尻を下げ顔を歪めた。そして藤堂は少しためらいがちに口を噛んだが、両拳をぎゅっと握り一歩前へと足を踏み出した。
 狭い室内。椅子に腰掛けた僕と目の前に立つ藤堂の距離は一メートルもない。無意識に床を蹴り椅子を後退させると、静かな部屋の中に床をこするキャスターが、錆びついた嫌な音を響かせた。

「西岡先生、貴方が好きです」

 優しい低音が先程の耳にさわる音をかき消した。綺麗で良く通る声だと思った。きっと彼にそう告げられれば、大抵の子たちは頬を赤らめ頷いてしまうだろうとさえ思った。
 だが――残念ながら僕は同性に恋情を覚えたことは一度もない。

「い、いや、気持ちは嬉しいけど……僕は」

「先生、いま答えを出さないで下さい。少しだけで良いから考えてもらえませんか。その後に断られるのなら受け入れます」

 僕の返事は間髪入れずに遮られた。
 こういう事をあまりずるずると引きずりたくない方なのだが、藤堂の真剣な面持ちに言葉が詰まる。

「え? あぁ、んー、いやけど」

「男に告白されるなんて、気分のいいものじゃないでしょうし、断られるのはわかっていました。でもほんの少しでも良いので、考えてもらえませんか」

 また一歩踏み込まれ、そらしかけた視線を正面に向き直された。どうにも彼の瞳は優しげに見えて力強い。

「なんで? 藤堂なら女の子にも普通にもてるだろ? 僕なんかじゃなくても同年代で好きな子はいないのか」

 そう疑問を口にすれば、藤堂の瞳がわずかに揺れた。

「昔から、女性に興味が湧かないんですよ」
 

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