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真皇帝物語
10
けどまぁいっか、なんとかなったし。
どこまでも危機感のない反応にシアは目頭を押さえた。本当に分かっているのだろうか。

「お前はもう少し我が身を顧みたらどうなんだ。この短期間で分かるくらい、お前の言動は常に無謀極まりないぞ」

「心配してくれんのか。意外と優しーな」

シアは俄に赤面した。

「なっ……誰がお前の心配などするか! 私は注意を促しているだけだ。不本意極まりないが、これからお前と共に行動するにあたってお前の出たとこ勝負に巻き込まれては敵わんからな」

「…ああ、そーいや団長にそんなこと言われてたっけな。じゃあこれからよろしくな、シア」

にっかと笑ったヴィオは立ち止まって手を差し出した。友好の証だ。
しかし、その手はなかなか握られることがなかった。シアは差し出された手をみつめたまま、困ったような表情を見せる。
痺れを切らしたヴィオは首を傾げて問いかけた。

「なんだよ、まさか握手知らねーのか?」

「いや…知ってはいるが…」

返答を聞いてヴィオは更に疑問を強くする。

「………? じゃあなんで手ぇ出さねーんだ?」

「………実際にやるのは初めてなんだ」

ぼそりと呟くような告白に、ヴィオは一瞬瞠目した。しかし、一度まばたきをしてすぐに目端を和ませる。

「握ってみろよ。待っててやるから」

そう言って差し出したままの手を静止させる。
不安そうにしながらも、シアはゆっくりと手を差し出した。ヴィオの手に自分のそれが触れた瞬間、僅かに身体を強張らせるが、ヴィオが一切手を動かさないのを見て安心したのか、恐る恐る指を曲げて手を握る。
シアが完全に手を握ってきたのを確認すると、ヴィオはゆっくりと、だがしっかりとその手を握り返した。力を込めて何度か上下に動かす。
やがて自然に手から力を抜けば、シアも同じように力を抜いた。手を離してやると、どことなく気まずそうに素早く手を引っ込めて視線を彷徨わせる。たかだか握手ひとつでなんとも初々しい反応だ。
それを目の当たりにしたヴィオは思わず一言漏らす。

「…可愛いな、お前」

刹那、シアの顔から表情が消えた。自分の後ろ腰に手を回し、非常に物騒な音を響かせる。
命の危険を感じたヴィオは慌てて弁解した。

「わりぃっ! この通り謝るから本気で剣抜くのはやめてくれ!」

「……………」

無言で睨みをきかせたシアは、これまた物騒な音を響かせて半分ほどまで抜いた短剣を納めた。

「あっぶねーなぁ。いくら周りに人がいないからって剣抜くこたねーだろ」

「お前がくだらんことをぬかすからだ。だいたい、ここはどこなんだ」

辺りを見渡して告げた言葉にヴィオはまばたきを繰り返した。

「…おい、まさか行き先分かんねーのに先頭歩いてたのか?」

「並んで歩いていたお前が何も言わないからこちらで合っていると思っていたが違うのか?」

「いや、俺は団長に言われた行き先忘れちまってたから、お前が行き先覚えててくれてたんだと…」

二人の間にしばし沈黙が流れる。やがて、二人同時に大きなため息をついた。

「じゃあ何か、俺達は無駄に歩いてたってこと…」

「途中から人が少なくなってきたと思ったら、また裏通りに入ってしまっていたのか…」

なんとなく大通りを突き進んでいた二人だが、どうやら東部の端まで来てしまっていたようだ。団長が告げた行き先は中央部の貴族街、つまり真逆の方向である。潮の香りが強くなってきていることに早く気づくべきだったかもしれない。
状況を分析したシアがそう告げると、ヴィオはがっくりと肩を落とした。

「なんだよくそぅ…。おいレイガー、お前は気づかなかったのか?」

シアの肩でずっと黙っていた小鳥は、身体全体を振って否を示した。

「街中で我が言葉を発する訳にはいかん。…それに、賢明な我は多少空気を読んでやったのだ。少しは感謝しろ」

「空気を読んだ? 意味分かんねーよ。裏切り者ー」

「…裏切り者」

ヴィオは蒼鳥が道の間違いを指摘してくれなかったことに対して軽い気持ちで言っているのだろうが、それに続いたシアの言葉には妙に感情がこもっていた。団長にあっさりと手懐けられたことに対するささやかな抗議だろう。
蒼鳥は居心地悪そうに翼を動かした。

「まぁ…なんだ。その……………すまん」

無言の圧力に耐えきれず、蒼鳥は身体ごと頭を垂れる。それを見たシアは再びそっと息をついた。


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あきゅろす。
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