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真皇帝物語
11

目的の屋敷は貴族街の中心地にあった。
最も大きくて邪魔くさいというなんとも抽象的な団長の説明だったが、それだけで十分見分けがつくぐらい、他の屋敷とは桁違いの大きさだった。
庭などは特に見当たらないが、玄関前には大きな門があり、そこを抜ければすぐ玄関の扉に辿り着く。しかし、扉の前には鈍色の鎧を着込んだ兵士が二名、警護にあたっていた。
門の隙間からその様子を覗いたヴィオは、げ、と声をあげる。

「なんだよあの兵士。入りづれー…」

「気にするな。堂々と入ればいい」

言うが早いか、シアは門を押し開けてつかつかと中に入っていく。一瞬仰天したヴィオだが、置いていかれては堪らないと慌てて後を追った。
近づいてくる侵入者に気づいた兵士の一人が、槍を携えて問いかける。

「何者だ。ここはワイース公爵家の屋敷。許可の無い者は立ち入ることは許されん。お引き取り願いたい」

兜の奥からくぐもった声が響く。
予想通りの展開にヴィオは少々焦り、どうすんだよ、と小声でシアに尋ねる。
対してシアは動じることなく、堂々と言い放った。

「『秘匿の鍵』の者だ。イザロという男が先にこちらを訪ねているはずだが」

その言葉を聞いて、二人の兵士は顔を見合わせて視線を交わした。互いに軽く頷くと、再び正面を向く。

「ヴィオ殿とそのお連れの方ですね。お待ちしておりました。中へどうぞ」

兵士の言葉で、シアは微かに目を細めた。しかしそれは一瞬で、すぐに打ち消される。

「失礼する」

扉を開けて中へと招き入れる兵士に平然とついていくシアに、ヴィオはただただ驚愕するだけだった。お前も早く来いと素振りで示され、ぎこちなく歩みを進める。

「イザロ殿は右手奥の来賓室でお待ちです」

「分かった。世話になったな」

兵士はシアに一礼し、扉の外へと戻っていった。
それを見届けると、ヴィオは詰めていた息を吐き出す。

「はーっ…。ったく、なんで貴族の屋敷に帝国兵がいんだよ」

「あれは帝国兵じゃない。おそらく、ワイース公爵家の私兵だろう」

「私兵?」

「帝国の正規軍とは関係なく、公爵家が独自に動かして構わない兵のことだ。国に関する有事の際には、皇帝の勅令が優先だがな」

滔々とした説明にヴィオは感嘆の吐息を漏らした。

「お前よくそんなこと知ってんな。兵士とも普通に喋れてたし」

「これくらい常識だ。むしろ知らないお前の方が私は驚愕に値すると思うが」

当然のように切り返され、ヴィオはばつが悪そうに頭を掻く。そうか、知っているのが当たり前なのか。覚えておこう。

「ほら行くぞ。広いからさっさと歩かなくては時間の無駄だ」

「…おう」

入り口の警備兵は右手奥と言っていたが、『奥』というのがどの辺りを指すのか分からないほど長い廊下が続いていた。著名な画家の絵画や豪勢な花が飾られた花瓶が所々に並んでいたが、その価値もインテリアの構成も分からないヴィオは貴族というのは面倒なことが好きなのかと密かに思った。
首を巡らせつつ廊下を足早に歩いていたシアが、ある扉の前で立ち止まる。その扉には金色の文字で『来賓室1』と書かれていた。

(……『1』っつーことは2も3もあんのか…)

さすがは貴族。客の数も半端ではない。
どこかズレた感想を持つヴィオを尻目に、シアの肩で蒼鳥が片翼を広げてシアの頬に触れた。

「なんだレイガ。くすぐったい」

「……中から魔力を感じる。おそらく魔導士だ」


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あきゅろす。
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