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闇の先には
闇の先には F

香炉から立ち上る白煙を、桃香はぼんやりと眺めていた。
白檀の香りを漂わせるその白煙は、ふわりと立ち上っては儚げに消えていく。

まるで私の様だわ…

と、桃香は思った。
強くなれたと思えばまたすぐ不安にかられる…

自嘲の笑みを浮かべてふと視線を巡らせると、開いたままの三面鏡に青白い顔が映しだされた。

「みっともない…これじゃ人前に出られないわ」

小さく呟き、切ない溜め息をつく…
いつもは気持ちを落ち着けてくれる筈のお気に入りの香りも、今は何の慰めにもならなかった。

母屋では今頃、翡翠が連れていた供の者達が、使用人達の勧めで裏庭に設えた露天風呂で汗を流している頃だろう。
疲労からか体調不良を訴えた翡翠の回復を待って開かれる、酒宴の席の準備も慌ただしく進められているはずだ。
本当なら桃香もその場に立ち会うべきなのだが、でもどうしてもそうすることが出来なかった。
せめて少しの間だけでも一人になりたい。
そう思い、古参の使用人の一人に管理を任せ、こうして一人部屋にこもっているのだった。
それも、ネジと褥を共にする何時もの部屋ではなく、桃香がこの屋敷に来た当初に与えられた、あの孤独な部屋に。



「うっ……」

突如襲い来る吐き気は、落ち込む桃香の心に追い討ちをかけた。

これも駄目なの…

お気に入りの香(こう)までもが自分を苦しめると言うのか。
慌てて香に手を伸ばし、皿に擦り付け消し去った。
黒く燃え残った薄紫の香が虚しく映り、なお一層桃香の気を滅入らせた。
一体何が今の自分を慰めてくれると言うのだろうか…

よろよろと立ち上がると窓辺へ歩み寄り、窓をほんの少しだけ開けて外の空気を吸い込むと、力尽きたようにその場に座り込んだ。
暫くすると新鮮な空気に幾分胸のムカつきは落ち着いた。
が、今度は全身の力が抜けてしまい、まるで体が言うことをきかなかった。

不安で情けなくて、惨めで…

「…どう…すれば…」

桃香は命が宿っているかもしれない、まだ平な腹部をそっと撫でた。

ここにもし本当にネジの子が宿っているのならば、瑠璃の言うように何があろうとも堂々としていれば良いのだろうか…

あの、美しい翡翠と言う女(ひと)が、ネジ様にとって特別の存在だとしても、ここでの暮らしの裏でずっと心通わせていたとしても、それでも何事もなかったように私はネジ様の妻として生きていけるだろうか…

子を産んで欲しいと心から望んでもらえなかったとしても、この屋敷のネジ様の側で平然と子を育てて行く事が出来るのだろうか…


自問する桃香の脳裏に、ネジにすがり付く妖艶な女の肢体が浮かび上がる。

「嫌…っ……」

その光景を振り払うように桃香は激しく首をふった。

自分にはとても耐えられない…、きっと心が壊れてしまう…


知らず涙が溢れ出す。
今は泣いている暇などないのだと頭の中では解っているのに、止めどなく溢れる涙をどうすることも出来なかった。


どれくらいそうしていたのか。
零れ落ちた涙が畳の上に滲んで染みを作り、どくどくと乱れ打つ鼓動と、自分が洩らす嗚咽のみが耳に響いていた。

だから…気づかなかった。


「桃香!」

ガタンと言う音と共に名を呼ばれ、桃香ははっとして顔を上げた。
気が付くと襖が開け放たれ、そこに自分を見据える険しい表情のネジが立っていた。

「ネジ様…」

慌てて顔を背け着物の袖で涙を拭う桃香を、力強い手が引寄せた。

「…………あ…」

次の瞬間、倒れ込むようにして温かな胸に抱き締められ、桃香は愛する人の匂いに包まれていた。

「桃香、何故泣いている」


静かに、しかし嘘は聞かぬ強い声が問いかける。
でも桃香は答えられなかった。

どう言えば良いと言うのだろう?
噂話は本当なのか、あの翡翠と言う人とはどう言う関係なのか…と、あからさまに聞けば良いのだろうか。

そんな事、出来るわけがない。

「桃香」
「…………………」

ネジは抱き締める腕を少し弛め、身じろぎもせず押し黙る桃香の顔を見た。

「桃香」

名を呼びながら涙の痕を指先で辿り、揺れる瞳を覗き込む。

「いいえ………」

すべてを見透かしてしまいそうなネジのその目が、桃香は怖かった。

「なんでも…ございません…」

通用する筈もない嘘を吐き、必死に顔を背けようとする桃香を、しかしネジは許さなかった。

「何もなくて何故泣く。馬鹿な事を言うな」

ネジは苦々しく言い放ち、細い顎を捉えると強引に視線を合わせた。
無言の重圧がのし掛かり、鋭い視線に居たたまれなくなった桃香は、顔を背向ける事も出来ずに苦し気に視線だけを反らした。

どうしよう…何と言ったら…

恐慌状態に陥りそうな頭を必死に働かせ、ネジが納得しそうな言い訳を一生懸命さがした。


……あぁ…そうだわ…

やがて桃香は一番有り得そうな言い訳を何とか頭の中で作りあげ、もう一度無言で見詰めるネジの目に視線を合わせた。
それから内心の後ろめたさを隠すために一生懸命見つめ返し、祈るような気持ちで再び口を開いた。

「…少し体調が悪かったんです…それで…またネジ様にご心配をお掛けするかと思うと…不甲斐なくて涙が出てしまって…」

これなら何時もの事だし、実際今日もそうだったのだから全くの嘘には当たらない。
ネジも納得してくれればと、桃香は息を詰めて返事をまった。

しかし、その願いはあっさりと裏切られるのだった。

「それで?」
「…っ」
「あとは何だ?それだけじゃないだろう」

まだ何か隠しているだろうと問われ、桃香は言葉に詰まり再び目をそらした。
その様子が全てを物語っていた。


「この俺にまだ隠し事をするとは、いい度胸だな桃香」

ネジは苦々しく言い放ち、いきなり唇を重ねた。

「んっ…」

ピクリと震える桃香の華奢な体を更にきつく抱き締め、噛みつくように口付ける。

「…う……んんっ…」

桃香はあまりの激しさに小さく呻いた。
その微かに弛んだ唇を割って口内に舌が差し入れられ、淫ぴな水音が漏れ響く。
抵抗を試みる桃香の舌は執拗に追われ、絡め取られてはくちゅくちゅと音をたてつづけた。

「ふ…ん…」

やがてその音が淫らに脳を犯し、桃香は束の間全てを忘れてネジの胸にすがりついていた。

「ん…んっ…ふ…んっ」

甘い声が絶え間無く漏れ始め、背に回されたネジの腕がぐっと力を込めるのと同時に、桃香の視界は天井を映した。

「あっ…ネジ様っ」

一瞬我に帰り、覆い被さるネジの胸を押し戻そうとするが、有無を言わさず首筋を吸われ、ゾクゾクする感覚になす術もなく唇を喘がせる。

「あ…あ…」

首筋への口付けはやがて下へ下へと移り、いつの間にか少しはだけられていた襟元に辿り着く。

ネジはくっきりと浮き出た鎖骨の上に強く吸い付き、紅い華を散らしながら片手を桃香の腰に差し入れた。
チクリとする痛みに眉を寄せる桃香の艶かしい表情を見下ろし、逃げ出せないよう片腕でぐっと腰を抱いて、着物の裾に手を差し入れる。

「あっ…」

太股を撫で上げる手の平に桃香はブルッと身震いした。
もう幾度と無く全てを夫に委ねてきた桃香の身体は、行きつ戻りつするその手がやがて辿り着く場所を知っていた。

「あぁ…ネジ様…」

秘口から淫らに蜜が溢れ出すのを感じ、桃香は羞恥に身をくねらせた。

「…お前の口は素直ではないが、身体は素直だな、桃香」

その反応に気づき唇を歪め、くっ…と微かに笑い声を漏らしたネジが、耳元で囁いた。
不意に身体を離され、急に温かな重みと甘美な疼きを失った桃香は、驚いて目をあげた。

「どれだけお前の身体が素直に反応しているか自分で確かめてみるか?」

見下ろすネジの口元が意地悪そうに歪み、戸惑う桃香の手を握っていきなり引き起こした。

「あ…っ」

そしてそのまま背後に回ると胡座の上に抱き上げ、両腕でグイと脚を持ち上げる。
あっという間の出来事に、桃香の頭は状況を把握することが出来なかった…




※ここからは非情に大人表現なお話しが書かれています。
エチぃの大好き、羞恥プレイOKの方はこちらへどうぞ



苦手だわと言う方は次回更新をお待ちくださいませm(_ _)m
(G話目にきちんと続いていきます)

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あきゅろす。
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