めぐりめぐって
茹る現実と彼の視点
何故自分は、見知らぬ部屋で横たわっているのだろうか。
トビは混乱しながらも、素早く状況を確認した。
特に拘束もされていなければ怪我もしていない。一般人が使いそうな柔らかいベッドの上で、布団を掛けられていた。
体は怠く、節々が鈍く痛んだ。全身を駆け巡る悪寒と異常に熱くぼんやりと靄がかかる頭。
いつものように仮面を付けているだけなのに、酷く息苦しい。
そして、少し離れた横に誰かの気配があった。
その誰かは隙だらけで、彼ならばいつでも殺せるだろう。もしかしたら意識的に隙を作っているのかもしれない。
だが、彼の長年の勘はそうではないだろうと知らせていた。どこにでもいる一般人のように、それは穏やかな気配だったのだ。
だからといって警戒を解くわけではないのだが。
「誰か」は小さく何かをぶつぶつと呟いていた。
その声質からして若い女のようで、尚更トビは訝しんだ。
そして続く水音。布か何かを絞って、水気を取っているようだった。
暫くして、女が「あー……」と、何か後悔するような声をあげた。
何故そんな声を出したのかは分からないが、考え倦ねるような唸り声を出し始めたので、何か迷っていることが伺える。
そして、布擦れの音。
女の気配がすぐ近くに来たことで、トビは警戒をさらに強めた。
体の調子はすこぶる悪いが、敵かもしれない相手の前ではそんなことを言っていられない。
いつでも動ける体勢にはなっている。
悟られないように注意し、布団の中でクナイを握った。
「……ごめんなさい」
小さく囁かれたその一言に気を取られる。
だが、それも一瞬。
顔に女の手が触れたその刹那、彼は目を開き女を組伏せていた。
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