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企画
翻弄する者される者(藤・悪戯シリーズ)
※悪戯シリーズの話です。こちらの話を先に読んでいると少しニヤリとできるかもしれません。

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「休みなんて潰れてしまえとでも言うような宿題の量だよね、これ。大問題だよ」
「問題あるのはお前の頭だろ」

明日からの休日に浮き足立った様子でクラスの奴らは次々と教室を出て行く。
そんな中、数学の小テストで平均点以下だった生徒にだけ配られたプリントを手に、名前は深い溜息をついていた。

「藤くんはいいよね…普段サボりまくりなくせにチャッカリ平均点以上とっちゃって。10点くらい分けてよ」
「アホか」
「じゃあ勉強教えて」
「めんどくせー」
「ごめんね。藤くんに頼んだ私が悪かった」

名前が俺らの近くで背中を向ける形で美作と雑談していたアシタバの肩にポンと手を置いた。

「アシタバくん!ちょっとこれから勉強に付き合ってくれない?くれるよね?」

突拍子も無く名前にそんなことを言われ、アシタバは困惑顔で振り返る。

「そんな…突然言われても困るんだけど……」
「オイ名前」
「私はちっとも困らないよアシタバくん」
「そりゃ苗字さんは困らないだろうけど…」
「俺を無視すんな」
「アシタバくんしか頼れる人が居ないの」

お願い、と名前は両手を胸の前で組み、潤んだ目で小首を傾げてアシタバをじっと見つめる。
俺以外の男をそんな目で見るんじゃねェ!アシタバのヤツも真っ赤になるな!
クソ、心の中で舌打ちしつつも、アシタバが名前のお願いに押し負かされるより先に「俺が教えてやるからこっち向け!」と言ってしまった。

「やったー、ありがとう藤くん!きっとそう言ってくれると思ってたんだ」

名前のヤロー、最初からこうなることわかってわざとやってたな。
一言言ってやろうかと思ったが、はしゃいで腕に飛びついてくる笑顔に文句も忘れてしまう。
…まあ、いっか。
勉強を教える面倒さと名前と一緒に過ごす楽しさを天秤にかけたら後者に傾いただけだ。うん。

「じゃあさっそく図書館でも行く?」
「図書館じゃ寝転がれねーからお前の家とかどうだ?」
「どうして勉強教えるのに寝転ぶ必要が?」
「教えるなら寝転がってたってできるだろ」
「私の部屋、狭いよ?」
「構わねーよ」

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そして名前の家のあるマンションへとやってきた。
静かなエントランスを通り抜け、エレベーターで5階まで昇る。
こんなとこに住んでるんだな。ウチの古くせー純和風の建物とは真逆な趣のマンションだ。

「ただいまー、っていっても誰も居ないから遠慮なくどうぞ」

そう言って名前はスリッパを出してにっこり笑う。
家に二人きりだとわかった瞬間に(いや本当は家に行きたいと言った時から)芽生えたヨコシマな気持ちを顔に出ないようなんとか努力しスリッパに足を入れた。
警戒心の欠片もない顔で「こっちだよー」と名前の案内する部屋に入る。
一番に目に飛び込んできたベッドへ早速寝転がると「こらー!」と怒られた。ちっとも怖くねー。
ベッドの前のちっこいテーブルとクッションを指差して「ここ来いよ」と手招きする。
この位置だったら寝転がったままノートも見えるし名前に触れられる。一石二鳥じゃねーか。

「何か飲む?」
「コーラ」
「了解、待っててね」

パタパタとスリッパの音を響かせて名前が部屋を出て行き、俺は手を頭の後ろで組んで天井を見上げた。
好きな女の部屋に来てるというのに、不思議と緊張しない。
視線を動かして部屋を見回す。ふと棚の上に写真たてが置いてあることに気付いた。
寝転がったままだと何が写ってるのか見えず、よっこらせ、と立ち上がって棚の方へ足を向けたその時、名前が戻ってきた。

「どうしたの?トイレ?」
「いや、その写真に何が写ってんのかなーと思って」

俺の言葉を聞いて、ハッキリと名前の顔にヤバイという文字が浮かんだのが見えた。
両手に持ってきたコーラの缶をその場に投げ捨て、お前どんだけ素早いんだよという動きで写真立てを手に取り俺に見られるより先に背中に隠す。

「これはダメっ、見たら呪い殺される心霊写真なの」
「嘘つけ。何だよ、俺に見られちゃ困るような写真なのか」
「困るというか、怒られる、かな?」
「怒られるって俺にか?…まさか俺以外の他の男なんてことはねーだろーな、おい」
「安心して!私は藤くん一筋だから!」
「じゃあその写真見せろ、気になる」
「き、気にしない気にしない」

ドアを背にした名前が逃げられないよう両手を顔の横について逃げ場を無くす。
俺を見上げる名前の顔は、学校でアシタバに見せた表情とそう変わらないように見えた。
だけど瞳がやけに扇情的で、腕の中に閉じ込め追い詰めているいつにないこの状況と相まって正直興奮する。

「なにその顔、考えてることバレバレだよ」

このままベッドに押し倒してーな、なんてことを考えたのがバレたらしい。

「ちゃんと勉強教えてくれるなら写真は見せてあげるから、その邪念は捨てなさい」
「力ずくで奪うっつったら?」
「それでも勉強は教えてもらう」
「結局そうなるのな」

片手を名前の腰へまわし引き寄せると、何の抵抗も無く俺の胸に飛び込んできた。

「写真見ても怒らないでね」
「写ってるものによる」
「約束してくれるならチューしてあげる」
「わーった。約束する」

即答する俺に明るく笑い、伸び上がって唇を押し当ててくる。頬に。

「口じゃねーのかよ」
「それは勉強が終わったら」
「ったく」

もったいぶんなと強引に唇を奪おうとすると、名前は唇を写真立てでガードしやがった。

「やっぱりそれ、見てもいいよ」

冷たいガラスの感触に顔をしかめつつ唇を離し、写真を見る。

「…おい」
「なあに?いい笑顔でしょ、私」
「いつの間にこんなの撮った」

机に片頬をつけて熟睡する前髪を結わえた俺と、ピースして滅茶苦茶楽しそうに笑ってる名前の写真だった。
二人の写るアングルからいって、撮ったのは名前じゃなさそうだ。
アシタバ…いや、美作か?あのデブ覚えてろ。

「欲しかったんだもん。藤くんと一緒の写真」
「だからってこの写真はねーだろ」

溜息混じりにもう一度写真を見る。なるべく間抜けな姿で眠ってる自分は視界から外しながら。
確かにいい笑顔で写ってる。
嬉しそうな楽しそうな、悪戯が成功した時に見せる底抜けに明るい笑顔。
呆れる事はあるけどどうしても憎めない。

「…怒った?」
「怒ってねーよ。ただこの写真を飾るのはやめろ」
「やっぱ怒ってる」
「違うって。ちゃんとした写真、一緒に撮ってやるから」

そう言った途端名前は、ほわっとした何ともいえないあったかい笑顔になった。

「デジカメ無いから携帯で、ちょっと待って、カバンの中にあるから、今とってくるから!」

んな慌てなくても俺は逃げねーよ。
その喜びっぷりは、まるではち切れんばかりに尻尾を振る子犬のようだ。
名前が携帯を探す間、写真立てを棚の上に戻し、床に落とされた2つのコーラの缶のうちのひとつを手に取りプルタブに指を引っ掛ける。

「ちょ、藤くんそれ…!!」

写真を見ようとした時よりも焦った声を聞いた瞬間、缶から勢い良くコーラが吹き上がり、俺と名前の顔と手と床を濡らした。

「…お前が振ったのか」
「2つのうち振ってないのはどっちでしょうって藤くんに差し出して、悩む顔を見ようと思ってですね…」
「お前って本当にバカだな」
「はい…」

申し訳無さそうな顔をして、名前は「ごめんね」と俺の唇の端についたコーラの雫を舐め取ってきた。
しおらしい。いつもの元気な名前も好きだがこういう面を見せられるとぐっと来る。

「これで許してやるよ」

俺は缶を床に落とすと、指に付いたコーラを名前の唇にそっと押し付け、そして噛み付くように唇を重ねた。




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美空様リクエスト、珍しく藤くんに攻められ照れたりする悪戯シリーズのヒロインでした!
藤くん優位のお話は書いていて新鮮でとっても楽しかったです。
久々に書いたので、ヒロインの性格が微妙に違っていたらごめんなさい。
美空様、素敵なリクエストどうもありがとうございました!!

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