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企画
つぼみ綻ぶ(沖田)
「名前さん、おはようごぜーやす。今日も別嬪ですねィ」

沖田にかけられた言葉にどう反応していいのかわからず、名前は表情をきゅっと堅くした。
そんな名前の態度を見ても、沖田は何も気にすることなく名前がもう数歩自分の方へ近づいてくるのを柔和な笑みを浮かべながらじっと待つ。

「おはようございます、沖田さん…」

名前はぺこりと頭を下げ小さな声で挨拶を返すと、妙にゆっくりとした動作で沖田の方へと足を進めた。
極度の人見知り。内気で感情表現が苦手な名前の精一杯の挨拶を嬉しげに受け止めた沖田は、一歩一歩縮んでくる自分達の距離に満足そうな表情を浮かべる。
たった数日の付き合いなので、まだまだ沖田に心を開いているとはいえないが、手ごたえは感じていた。

沖田がこうして名前の出勤時間に合わせて家の前で待ち伏せするのもこれで三日目になる。
道でバッタリ、というわけではなく、明らかに待ち伏せていたことを全く隠す様子も無い沖田を相手することに、名前は戸惑っていた。
常に緊張を顔に張り付かせ、出てくる声は小さく、そしてあまり目を合わせてはくれない。
しかし沖田はそんなことなど気にしていなかった。

数日前、引ったくりにあった名前を、偶然通りかかった沖田と土方が助けた。
そんなことはよくある話だ。だけども助けた被害者に惚れてしまうなどとは思っても見なかった。
恋愛事に現を抜かす隊士達を見て、みっともねェだなんて思っていた沖田にとって、それは後頭部を鈍器で殴られたように衝撃的なことだった。

「あの、もう大丈夫ですよ。犯人、捕まえていただけたことですし」
「俺が送りたいだけなんで」
「でも沖田さん、お仕事は…」
「これも仕事の内でさァ。それとも名前さん、俺が送り迎えすんの迷惑ですかい?」
「…そんなことはありませんけど」
「だったら問題ありやせんね」

申し訳無さげに、そして困った顔をして名前はゆっくりと歩き出す。
パッと見るだけだと、その表情は無表情に近かったのだが、沖田には名前の機微な変化が手に取るようにわかった。
ますます心が名前へと傾いていくのを感じながら、沖田はくすりと笑みを漏らす。

「名前さんは分かりやすいなァ」

横でポツリと呟かれた沖田の言葉に、名前は思わず地面に落としていた視線を上げた。
顔を横へと向けると、優しく微笑み名前を見つめていた沖田と目が合う。

「そんなこと初めて言われたって顔してますぜ」
「実際、初めてです。何考えてるかわからないと言われることならあるんですけど」
「俺にはわかるんでィ」

名前は目を少しだけ大きく開く。
凄い、って顔してらァ。
沖田は自分をそんな純粋な瞳で見つめてくる名前を可愛い人だと思った。

「凄い。でも、どうしてわかるの?」
「名前さんに惚れちまってるもんですから」

引ったくり犯を捕まえた直後、名前の反応は鈍かったが淡々とひったくられた時の状況をしっかりと沖田と土方に説明した。
そんな名前に、土方は“ちっとも動じてねェな”と普通の女性とは違う冷静さに感心したようだが、沖田にはとてもそんな様子には見えなかった。
長い睫の下で揺れる薄い色の瞳はどこか怯えているように見えたし、声だってハッキリ喋っているが、それは虚勢を張っているようにしか聞こえない。

“大丈夫ですかい?”
“ええ、怪我もありませんし、平気です”
“でも泣きそうな顔してますぜ、アンタ”

沖田の言葉に驚いた名前に“嘘ですがね”と言うと、飄々とした沖田とのやり取りに気が抜けたのか、名前がはじめて笑みを見せた。
それは愛する姉、ミツバが見せていた笑顔とはまた違う次元の、心の奥底まで明るく照らしてくれるような微笑みで、沖田の心はアッサリと名前に落ちた。
こういうのも一目惚れというのだろうか。
…どっちでもいい。名前に惹かれてやまない自分の心のまま、沖田は「名前さんが好きだ」と囁くように告白する。

「出会ってまだ間もないのに…」
「笑ってくれても構いやせんぜ。好きなもんは好きなんで」

平然とそう言い放つ沖田に、名前はほんの少し眉を寄せた。
その言葉の真意を掴もうとしてか、じいっと沖田の顔を見つめてくる。

「思えば、最初から沖田さんには色々なことを見抜かれていた気がします」

外見だけで簡単に好きだ好きだと言っているわけではなさそうだと、名前は沖田の深い瞳に吸い込まれそうになりながら思う。
沖田はニッと笑うと、手をぽんと名前頭に乗せ、よしよしと撫ぜた。
年上の、しかも恋人でもなんでもない女性にする行為ではないが、なんとなくしたかったのだから仕方がない。
真っ直ぐに向けられる名前の表情は、もうぎこちいものではなく、どこか照れくさそうに嬉しそうに緩んでいた。

堅いつぼみが綻びを見せた。
可愛らしい花を咲かせるまでは、あともう少し。


なつ様からいただきましたリクエスト、
“内気で自分の感情を表に表現する事が苦手な年上ヒロインに沖田が一目惚れして彼女を振り向むかせるために猛アタックするお話”
でした!
どういうところに一目惚れしたのか、どんな感じのヒロインにしようか、あれこれ無い脳味噌で色々一生懸命考えながらも、とても楽しく書かせていただきました。
きっともう少ししたら、二人は沖田さんに押し切られる形で付き合うことになると思いますフフフ。
なつ様、素敵なリクエストをどうもありがとうございました!
これからもどうぞよろしくお願いいたします♪
いがぐり


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あきゅろす。
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