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企画
身体中に充満する(派出須)
「逸人、コーヒーメーカーが動かない…」

キッチンから顔を出し、困り顔で派出須に助けを求める名前に、派出須は座っていたソファから腰を上げた。

「うーん…これは…本当に動かないねえ…」

ポチポチと電源ボタンを押し、コーヒーメーカーをこわごわと触るだけの派出須を見て、名前ははっと思い出した。
機械類が苦手な派出須に見てもらったところでコーヒーメーカーが直るはずは無いということを。
「ごめん…」としょぼくれる派出須を名前は邪魔だからとキッチンから追い出した。

「確かドリッパーとペーパーフィルター、ここにしまっておいたはず…」

普段開かない高い位置にある棚を見上げ、名前は椅子をずずずと移動させる。
その物音に気付き、派出須が再びキッチンへと顔を出した。

「あ…僕が取ろうか……?」
「んー、大丈夫、自分で取れるから」
「でも危ないよ」
「じゃあ転倒しないように椅子しっかり支えてて」
「はい…」

キビキビと指示を出す名前に逆らえず、派出須は大人しく椅子の背を両手でしっかり握った。
名前がその椅子に足を掛け立ち上がる時、才崎みのりほどではないが、女性らしいふくよかな胸が派出須の目の前を通り過ぎていった。
派出須はうっと息を飲む。
実物を目の前にし、その肌に舌を這わせたことは数え切れないほどあるくせに、こういうアクシデントに対する派出須の反応は実にわかりやすい。
しかし派出須はすぐさまその感情を冷血に食べてもらい、平静さを取り戻した。

「どうかした?」
「…なんでもないよ」

ドリッパーとペーパーフィルターを持った名前が椅子から降りようと派出須の肩に手を乗せる。
たった今、昂ぶった派出須の感情を冷血に食べてもらったことなど名前は知らない。
しかし派出須の様子のおかしさを察知したのか、不思議そうな顔で派出須を見る。
そんな名前に、派出須は静かに微笑んで誤魔化した。

普段なら冷血は派出須の名前に対する感情を食べたがらない。
甘ったるく濃厚に渦巻く感情に酷く酔ってしまうのだそうだ。
なので派出須が頼んだ時にしか口にしない。
そのおかげで派出須は名前に対してのみごく普通の男としての感情を持ち、性的衝動に駆られ、そして惜しみなく愛情を注げているのだ。
生徒の前での、どこか欠落した、どこまでも底無しに優しい派出須とは違い、冷血に影響されない本来の派出須逸人として名前と恋愛している。

「気をつけてね…」
「このくらい平気。受け止めてね」

なんと名前は椅子の上から派出須に向かって遠慮無しにぴょんと飛び込んできた。
わわわ、と慌てたものの、至近距離からだったのでなんとかちゃんと名前を受け止めることが出来てホッと胸を撫で下ろす。
ほぼ肩に担ぐような格好だったけれども。

「逸人…」
「どうしたの名前。どこか痛い?」

そんな声を掛けた時、ふに、と手に弾力のある感触がしてハッとする。
受け止めることに気をとられ、その際に手が頼りないスカートに隠れた尻を鷲掴みしていたことに気付かなかったのだ。
しかし今その手を離したら名前はバランスを崩し床に腰か尻をついて痛い思いをさせてしまうだろう。
派出須は慎重に名前の身体を下ろし、床に着地させる。

「ありがとう逸人」
「………どういたしまして」

互いの腕はそれぞれの身体に伸ばされたまま、ぎこちなく言葉を交わす。
いや、ぎこちないのは派出須だけだった。
名前は触られたことなど気にもしていないような顔をしているが、派出須は服の下にある名前の素肌の熱さへの欲求が心に湧き上がるのを必死で抑えようとしていた。
“もうこの感情は要らんぞ”という冷血の声が派出須の脳裏にこだまする。

「逸人」

優しく名前を呼ぶ名前が、派出須の髪に手を入れてくる。
触れないでほしい、と思った。我慢できなくなってしまう。

「名前…コーヒーは?」
「飲むよ」
「えと…じゃあお湯湧かそうか」
「後で」

派出須の内面をさらけ出そうとするかのように、名前の透き通った瞳が派出須を真っ直ぐ見つめてくる。
平静を装いぎこちなくならないよう気を配って笑みを浮かべるものの、意識的に押し付けてくる胸の柔らかさにそれすらできなくなった。

「逸人、かわいい」

派出須の動揺をからかうように、名前がにんまりと笑い、指先でちょん、とつついてきた。
表情とは違い鎮めることの難しい、はっきりと興奮を示すソレを。
眉間に皺を寄せつつ名前の腕をつかみ「こら」と言うと「そんな顔しても怖くないもん」と何もかもを見透かすように名前は笑った。




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貴様リクエスト“ハデス先生がムッツリ”なお話でした!
ムムムムッツリしてますでしょうか?
ひび割れた顔の下でモンモンとするハデス先生は書いててとても楽しかったです。
楽しいリクエスト、どうもありがとうございました!
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
いがぐり

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