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企画
十万円の使い道(笹塚)
深夜近く、仕事に疲れた笹塚が背中をくたっと丸めるようにして自宅へと帰ってくると、玄関先で勢いよく名前に抱きつかれた。

「お帰りなさい、衛士!」
「ん…ただいま」

一体何事かと面食らいつつも、笹塚はぎゅうぎゅうと抱きついてくる名前の身体をそっと抱きしめ返す。
もう深夜だ。食事も風呂も済ませて後は寝るだけといったパジャマ姿の名前からは柔らかなシャンプーの香りがする。

「疲れも吹っ飛ぶニュースがあるの」
「ニュース?」
「宝くじ当たった!なんと十万円!」
「へえ…すげーな」

ぱあっと顔を輝かせて報告する名前に対し、笹塚は表情を微かに動かしただけだった。
もうちょっと驚いてよ、と笹塚の反応に名前は不満げに唇を尖らせ、笹塚の頬を細い指で引っ張り軽く唇を重ねてくる。
それだけで、笹塚の疲れが少し取れたような気がした。
唇を離すと、お風呂沸いてるからねと言い残し、名前はペタペタとスリッパの音を響かせながら居間へと歩いていってしまった。
その背中を追いかけて引き寄せて腕の中に閉じ込めてしまおうかと思ったが、一日中外で捜査していた身でそんなことするのは少し躊躇われる。
なので声だけ掛けることにした。

「あー…俺が出るまで起きてて」
「大丈夫、嬉しくて眠れそうに無いから」

振り返った名前の笑顔に、笹塚も顔を綻ばせた。


▽▽▽▽▽


風呂から出ると、ソファに深く腰かけた名前が膝にメモ帳を乗せて鼻歌交じりにペンを動かしていた。
部屋に入ってきた笹塚に気付いてもいない。
名前、と穏やかな声で呼びかけると、顔を上げた名前においでおいでと手招きされる。
名前の隣に腰を下ろすと、笹塚に今書き込んでいたメモを見せてきた。

「…衛士のスーツ、衛士の靴、弥子ちゃんと3人でごはん……?」
「十万円をどう使おうかなって。衛士、他に何か欲しい物ある?」
「いいや、特にねーけど」
「そう言うと思った」

そういえば弥子ちゃん、お寿司食べに行きたいって行ってたなあ。
お寿司で五万は厳しいかな?名前はそう言いながら“予算5万!オーバー分は衛士のお財布で”と書いて丸で囲む。
百万単位なら貯金も考えただろうが、大金というには少ない数字だ。
貯金するよりも、パーッと使ってしまおうと名前は思っているらしい。

「なあ、当てたのは名前だろ。自分の欲しい物に使えばいいじゃねーか」

笹塚も名前も、弥子のことを妹のように思っていた。
そんな弥子にご飯を奢ることに笹塚は特に不満は無いのだが、名前が十万円の使い道にひとつも自分のものを入れていないことに苦笑いを零す。
笹塚に半分、弥子に半分。
名前はにこにこと嬉しそうに何がいいかなあ何処に食べに行こうかなあとメモを取っているのだ。

「私の欲しいもの、ねえ」

そう呟いて名前がペンを止めた。
笹塚を見上げ、悪戯っぽい微笑を浮かべる。
そんな名前をじっと見つめてから、笹塚は名前の肩に回した腕で、更に自分の方へと引き寄せた。
まるでもったいぶるな、とでも言うように。
名前は笹塚の胸に甘えるように、大人しく身体を預けたまま、笹塚の行動にくすくすと甘い笑い声を零す。

「衛士の無表情だけど私にだけわかる嬉しそうな顔と、ご飯を食べてる時の弥子ちゃんの幸せそうな顔が見れたら満足なんだ」

想像もしてなかった名前の返答に、笹塚は目を大きく見開き、そして破願した。
笹塚はどうしようもなく胸にこみ上げる愛しさのままに名前の唇を自らのそれで塞ぐ。

欲しいものというならば、靴でもスーツでも無く、名前だけだと笹塚は思う。
でもきっとそれを言ったら“私はとっくに衛士のものじゃない”と名前は笑うのだろう。

細い身体を抱きしめ、手に持つメモ帳を奪い取り、ぽいとテーブルへと投げてから、笹塚はそのまま名前に覆い被さった。



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リリー様リクエスト“笹塚さんと彼女(または妻)のほのぼの系の話”でした!
同棲中の彼女でも妻でも、どちらでもお好きな方でご想像できるように書かせていただきました♪
リリー様、素敵なリクエストをどうもありがとうございました!
これからもどうぞよろしくお願いいたします!
いがぐり

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あきゅろす。
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