企画 攻防(音羽) ※ときメモGS1〜3&レストランにある「表情」の続きです しがない料理人の暮らす狭い賃貸マンションのお風呂は、かろうじてユニットバスではないけれど、浴槽は小さめだ。 足を曲げてギリギリ二人入ることはできるだろうけど、どうしても、絶対に、身体を密着しなければお湯に浸かれないだろう。 「ねえ名前。お湯、もう大丈夫じゃない?」 慎之介さんののんびりした言葉にハッとした。 浴槽に湯が満たされたことを知らせる音、キッチンにある浴室のパネルとも繋がっている給湯パネルから、電子音がピピピピ、ピピピピ、と鳴っていた。 指定の水位までくると自動で給湯は止まる。とうとう、この時間がきてしまった。 私はとっくに洗い終わっていたティーカップを水切りカゴへ伏せる。 浴槽へ湯を入れてる間、洗い物をしながら、これからの時間のことに胸をドキドキとさせていたのだ。 慎之介さんと私は身体をとっくに重ねている間柄だけれど、一緒にお風呂に入るのははじめてで、とても緊張してしまう。 なんであんな冗談言ってしまったんだろう。私の馬鹿。 そんな私の心を知ってか知らずか、洗い物をして濡れた手を、口元に笑みを湛えた慎之介さんがご丁寧にタオルでそっとはさんでくれる。 「ありがとう」 「どういたしまして」 手を拭いた後の湿った手のひらに、慎之介さんが下から手を重ねてきた。 繊細な微笑を浮かべたまま、慎之介さんは私の手の甲に視線を落とし続ける。 「………慎之介さん?」 「君のここや唇に、僕は数え切れないほどキスをしてきたけど……」 慎之介さんは言葉を切り、私の手を持ち上げると、指に一度、手の甲に一度、優美な動きで唇を付けた。 「何度しても甘いんだ。どうしてかな」 「それを言うなら慎之介さんの方がよっぽど……」 「僕も甘い?」 柔らかな髪を揺らし、慎之介さんが私の顔を覗き込んでくる。 優しげな目元を悪戯っぽく細め、私の返事を待っていた。 「……うん。甘い、よ」 「甘いのは好き?」 問われるがまま、うん、と頷くなり、満足げな笑みを見せた慎之介さんに唇を奪われた。 まるで熱い料理を食べた時のように体温が上がり、胸が詰まる。 慎之介さんの唇が、耳を甘噛みし、首筋を伝っていく。頭の芯がぼうっとなり、私の唇から声とも吐息ともつかない音が出てしまう。 胸元がすうとした。唇を私の首筋に這わせたまま、慎之介さんが片手が私のブラウスのボタンを器用に外していたのだ。 あ、と思うと同時に鎖骨をきつく吸われる。 「……っ、」 「ごめんね、僕って甘いものには目がないんだ」 「うん、よく知ってる……」 「あはは、さすが名前」 腰が抜けるほど綺麗な笑顔を浮かべながら、慎之介さんはまた私のブラウスのボタンをひとつ、またひとつ外していく。 「ここは脱衣所じゃないよ?」 「うん。せっかちでごめんね」 ごめんねと言いながら、慎之介さんの手はボタンを全て外してしまったブラウスを、 どこまでも紳士的な動きで脱がせようとしてくる。 「ね、ねえ慎之介さん、先に入っててもらえるかな。私、髪の毛結んでくるから、ほら、まとめとかないと」 畳み掛けるように喋る私に、慎之介さんの動きがきょとんと一瞬止まった。 その隙に、ごく自然な動作でドレッサーに向かおうと慎之介さんへ背を向けて、これ以上脱がされる前に距離を取ろうとする。 しかし甘かった。それより早く慎之介さんに後ろから抱きしめられてしまう。 「逃がさない」 柔らかな、いつもの口調だというのに、やけに艶めいた男の色気を感じる声だった。 大きく息を吸う私の背中に慎之介さんの体温と重み。 切なげに吐息をこぼし、乱れたブラウスごと私を抱きしめたまま、ウエストの部分で手を組みしっかりと身体を支えてくれる。 「逃げるつもりなんて……」 「髪の毛なんて結ばなくていいよ。きっと僕が乱しちゃうんだから」 熱く色付いた悩ましい慎之介さんの甘い甘い声は、私の羞恥心をとろりと溶かしていく。 耳朶をなぞる慎之介さんの舌に、身体にぞくりと快感が走った。 ◇ ◇ ◇ 「ごめんね」 「そうは言っても全然反省してないよね」 「うん、またしよう」 「………当分、無理です」 指の先まで力がぬけて、湯船の中でふにゃふにゃになってしまった私の身体を後ろから抱きしめながら、 慎之介さんは「当分ってどのくらい?」と無邪気に聞いてくる。 その声はとても可愛かったけれど、私は無言で慎之介さんの腕に抱かれたまま具体的な返事は避けた。 □音羽くんのお風呂はいろうの続き さとうさんからいただいたリクエスト、とってもノリノリで書かせていただきましたー! 最初はお風呂でキャッキャウフフにしようと思ったんですが、 その前の段階の音羽君がムラムラしてるのもまたオツなものかもしれないなあと…! とても楽しく書かせていただきました。リクエストどうもありがとうございました! 2015/09/24 いがぐり [*前へ][次へ#] [戻る] |