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企画
どこまでも(高杉)

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※高杉さんが病み気味です(深刻な恋の病)
※また子さんのキャラを掴んでないままかいてます。別人だと思いますすみません。
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「晋助様、薬湯をお持ちしました」
「薬はいらねぇと言った筈だが」

高杉の言葉に表情ひとつ変えることなく、名前は奇兵隊の頭である高杉晋助の寛ぐ部屋へ遠慮なしに足を踏み入れる。
が、その堂々とした態度も、何も無いところで足をもつれさせ転びそうになったところで一気に崩れた。

「わわわ!」
「………!?」

高杉は無言で素早く立ち上がると、バランスを崩した名前の身体を、倒れる寸前のところで呆れ顔で力強く支え助けた。

「せ、セーフです晋助様! おかげでこぼさずにすみました、どうもありがとうございました」
「相も変わらず抜けてやがる 」
「すみません……」

しょんぼりとする名前の頭を優しく撫ぜると、でも無事でよかったです、と薬湯が零れなかった事に心底安心した顔でへにゃりと名前が笑う。
そんな名前につられるように、高杉も笑みを見せた。
そしてゆっくりした足取りで、名前が「どうぞ」と差し出そうとする薬湯を無視して先ほど座っていた窓辺へ戻る。

「この薬湯を飲めばお身体も少しは楽になります。旅館の方にわけていただいたんですよ」
「てめぇもしつけぇ女だな」
「でもほら……まだ、お熱が」

名前は片手に薬湯を乗せた盆を持ったまま、もう片方の手を旅館の窓辺に腰掛ける高杉の額にあてる。
ち、と高杉がたてた小さな舌打ちは、名前を疎ましく思っているからではない。
年下の名前に心配をかけている自分への不甲斐なさからのものだ。

「これ、すごく良く効くんですって。飲ませてさしあげますから」
「俺はガキじゃねえ」
「じゃあ黙って飲んでくださいよ。昨日だって、晋助様の身体すごく熱かったんですから」
「そういやおめぇ、いつもより善がってたな。どうだ、今からまた抱いてやろうか」

そう言って、薄く微笑みするりと名前の頬を撫でてくる高杉の手の温度に、
名前は恥らうより先に驚きで目を見開いた。

「すごい熱じゃないですか!」
「こうしてりゃ治る」
「治りません、早く薬湯を……あっ!」

余程動転したのか、名前の持つ盆がゆれ、薬湯の入った湯のみが倒れた。
しかも盆の上だけではなく、白湯ほどの温度の薬湯が、ばしゃんと勢い良く高杉の顔にかかり、肩にまで滴り落ちる。
真っ青になった名前の、その小柄な身体が小動物のようにびくりと跳ねた。

「………これまた盛大にかけてくれたもんだ」
「すみません! 今タオルお持ちしますので……!」
「いい。気にするな」

名前が泣きそうな顔で懐から出したハンカチで高杉を拭こうとするが、その手を高杉が掴んで止めた。
口の端に流れてきた薬湯を舌で舐め、扇情的な眼差しを名前に向ける。

「苦いにも程があんだろ」

楽しげに緩んだ高杉の熱い唇が名前の唇に押し当てられた。
その苦さにうええと名前が可愛らしく顔をしかめたのだが、高杉は愉快そうに口付けをより深くするだけだった。



高杉と名前は数年前の雨の日に路地裏で出会った。
濡れる路地に点々と、雨に滲む赤い血を片目で追った先に名前が絶望に彩られた表情で膝を抱えて震えていたのだ。
まだ若い二十歳前後の女。誰の血か、着物にはべっとりと血糊の付いていた。
着の身着のまま命からがら逃げてきたといった様子で、草履さえ履いていない。
そのまま放っておいても、血縁者、警察が動きすぐに保護されただろう。
しかし高杉は名前の絶望に塗り潰された瞳に魅入られるように、深く考える間もなく手を伸ばしていた。
名前も、震えるその手で縋る様に高杉の手を取った。
そしてあれよあれよというまに高杉と名前の関係は深まっていった。

高杉は特に表立って名前との関係を口に出したことは無いが、
ふと名を呼ぶ声の穏やかさや、表情ひとつとっても別人のように甘く、身辺のあれこれを名前に任せ、寝床もひとつなので、
二人の関係がどのようなものであるかは聞かずとも周囲に浸透していった。

奇兵隊でも高杉に近い河上や武市ですら、高杉にそういう面があるのだと驚いているのだが、触らぬ神に祟りなし、ということであえて触れないようにしている。
来島また子は名前と同性だが、自分から積極的に名前と接触することはなかった。
話しかけられても、ぶっきらぼうに一言二言返すのみだった。
嫌っているわけではない。けれど、高杉へ抱いていたほのかな恋心への決着がまだつけることができておらず、戸惑ってしまうのだ。
紅一点のまた子でさえこうなので、名前は奇兵隊で親しい者は誰一人と出来ず、高杉だけを心の支え、拠り所とし、
高杉もそれを喜び、ますます名前を溺愛するようになった。

世界を壊したがる男の、歪んではいるが偽りの無い愛情を浴びるように受け、
名前はいつまで幸せそうな微笑を浮かべていられるのかと、また子は一人そっと溜息をつくことがある。



熱を抱えた身体で、高杉は名前に心配されながら出かけた先から旅館へ戻ると、
いつも高杉の帰りを今か今かと待ちわびた様子で出迎えてくれるはずの名前が部屋に居なかった。

「おい、名前はどこだ」
「あ、ハイ、ついさっきお出かけになりました。買い物へ行きたいと」

高杉についていっていたまた子は、高杉の横でその顔を見上げぞっと背筋に鳥肌を立てる。

「……行かせたのか」

それは静かな狂気だった。その狂気がひたり、と部下の男の喉首にじわりと巻き付きでもしているのか、
部下の呼吸が途端に乱れはじめる。
万が一に備え、何かあったら名前の身を守るようにと、名前にそのことは知らせず部屋の外を見張らせていた部下の男は、
「ひっ、そ、その、近くなので、すぐ戻るということでしたので……」としどろもどろに言い訳するも、
高杉の恐ろしいまでに冷たい視線にたちどころに歯をカチカチと鳴らしだした。
しかし高杉は男からすっと視線を逸らすと、すぐに今来た旅館の廊下を歩き出す。
また子はあわててその背中に声をかけた。

「晋助さま、どうしたっスか!?」
「名前を連れ戻しに行く」
「子供じゃないんですから、すぐ帰ってくると思うっスよ」
「この辺りは名前が住んでいた土地だ」

高杉は、名前が見覚えのある景色に触れ、地球の地の着いた暮らしを懐かしみ、帰りたいと思われることを恐れているのだとまた子は気付く。

「名前は……俺の傍でしか生きられないと思っていてもらわなけりゃ困るんだよ」
(この人は…………)

名前への愛が深すぎるのか、それともどこか壊れているのか。
部下の男のことも、話しをしているまた子のことも、今の高杉の頭の中には無いのだろう。
ただ、名前のことだけ。
高杉の名前への気持ち、執着の一端を垣間見たような気持ちになり、その底知れぬ深さにまた子は身震いし足を止める。
高杉はそのことを気にも留めず、足早に旅館を後にした。



オレンジ色の夕日が徐々に薄闇に侵食されていく中、高杉は名前を見つけるために走った。
この道は見通しがいい。だが、名前は厄介ごとに巻き込まれないよう、
人目を避けられる細い路地を選んでいるのかもしれない。
途中、高杉は真選組の男に声をかけられそうになり刀に手をかけたが、今は騒がれないほうがいいと判断し、
顔を隠すように裏路地へ身を隠す。
話には聞いていたがここまで警戒しているとは、と高杉は昼間耳にしたこの辺りで起こっている人斬り大男の噂のことを思い浮かべていた。
なんでも、身体を切り刻まれ殺されてしまう事件が多発しているのだそうだ。
正体は不明。目撃情報も、そいつが大男だという以外はでてきていない。
狙う年齢層も様々で、特にこの時間帯に一番出没するのだという。

名前はそのことを知らない。
もし知らずにその人斬り大男と接触することになったら、と、高杉は心臓に冷たい鉛を注がれるような気持ちになる。
脳裏にあたたかな笑顔が蘇る。名前ではない。目の前で亡くなった、師の笑顔だ。
全く似ていないのに、名前と師の笑顔が重なりかけて、高杉は馬鹿馬鹿しいと頭を振った。
今は急いで名前を探すほうが先だ。
どこだ、と高杉が表情を険しくしたところで、ここが名前を拾った場所に近いことに気付いた。



一方そのころ、見廻り中の若い真選組の隊士が薄暗い路地に佇む人影を見つけ、親切心から声をかけようとしていた。
その人影とは、まだ暗いわけではないというのに、この辺りの人影がまばらなことに不気味さを感じつつ、
自分が子供の頃よく友達とかくれんぼうして遊んだ裏路地を歩いている内に、
凄惨な記憶が蘇り足が震えて動かなくなってしまった名前だった。
名前は普段は高杉と一緒でない限り外に出ないため、今、この周辺がどれだけ危険なのか知らなかった。

「そこの方、この辺は危ないですので早く家に帰った方がいいですよ」
「家……ですか」

帰る家はもう無い。強盗に大事な両親を目の前で奪われて、裸足のまま逃げた先で高杉と出会ってから、家に戻ろうとも思わなかった。
もう更地にされているかもしれない。
当時の幸せな面影もないほど朽ち果て、そのまま放置されているかもしれない。
一瞬、郷愁にかられはしたものの、名前にとって、もう家などどうでもよかった。
先ほど薬局で購入した、高杉のためにどうしても手に入れたかった風邪や免疫力をつけるのに効くという薬の入った袋を大切に胸に抱きしめ首を振る。

「私は、大丈夫です」

そう言った直後、どさりと真選組の隊士が倒れた。
ひ、と悲鳴を口にする名前の足元に大量の血が流れてくる。
名前の視線の先には夕日を背にした大柄の男。
その男は血に濡れた刀を手に無言で名前のほうへ一歩足を進めてきた。
この男が正常ではないことは血走った目や興奮に乱れた息遣いでわかった。次の獲物が自分だということも。

「い、いやっ……!」

身の危険を感じ、後方へ逃げようとして地面に足を取られた。
そんな名前に男が刀を振り上げる。
すると、

「そいつに手ぇ出すとあの世で後悔することになるぜ」

その言葉に男が振り返る間もなく、男の体、正確に心臓の部分を刀が貫く。
ゆっくりと前のめりに倒れた男の後ろから現れたのは、いま人を斬ったとは思えないほど穏やかに微笑みながら名前を見つめる高杉晋助だった。

「晋助様!!!」
「名前」

高杉の顔を見た途端、名前の瞳から涙が流れた。
両手を広げ、もつれる足で高杉に抱きつこうとする前に、走り寄った高杉が名前を抱きしめる。

「っとに世話の焼ける女だ……」
「すみません……晋助様に薬湯を浴びせてしまたので、代わりのお薬をと……」

それ以上は聞かなかった。高杉は名前の後頭部を引き寄せ続きの言葉ごとその唇を奪った。



「ふふ、」
「何を笑ってる」
「先ほど、また子さんに怒られてしまいました」

旅館の広い露天風呂を貸し切り、高杉は名前の腰を片腕で抱き寄せながら風呂に使っていた。
熱があるんですよ! と名前は止めたのだが、高杉がどうしても入ると聞かなかったのだ。

「心配した、って言ってくれました。もう勝手に行動してはダメだって」

また子も、高杉が名前を探しに出た後すぐ、名前を探してくれていたらしい。
戦うこともできず、高杉の手を煩わせてばかりいることから、名前は自分がまた子に嫌われていると思っていた。

「嬉しかったです」

高杉の右目が柔らかく細められる。
一人きりで外出もままならない環境の中、それでもこんな、ほんの些細なやりとりでここまで喜ぶ名前が愛おしかった。
そんな環境にしたのま紛れもない自分だ。
そして、この先自分がいる限り名前を自由にしてやることはないだろう。
たとえ鳥かごを開け放したとしても、名前はその場所から動かない。その自信があった。

「……名前、俺の腰に跨りな。のぼせるまで可愛がってやらァ」

名前の耳に舌を差し入れつつ低く優しく囁くと、スイッチが入ったように名前の瞳に情欲が湧いてくる。
昼は自分の身の回りの世話を任せ、夜は淫らに自分を求めるよう教え込んだ。
高杉の言葉一つで、名前の身体は高杉を欲しがり火照るのだ。

「っ、ん……晋助様……ぁ」

欲望のままに絡み合い快感を高めあうたび、共に暗闇の底へ堕ちていく錯覚に陥るのは何故だろうか。
何時の間にか自分達は、身体だけでなく心まで繋げあっていたのかもしれない。
高杉は片目を閉じふっと笑うと、名前と一緒なら悪かねぇ、と心の中で呟きながらずんと腰を突き上げた。





■高杉さん で事件に巻き込まれた恋人(妻でも)夢主を真選組に見つかりながらも助けに行くお話。
高杉さんの必死な感じを!!
■高杉で、ヒロインは高杉より年下の戦えない設定。敬語でドジっ子ヒロイン。
高杉は年下ヒロインの事を凄く甘やかし可愛がっていて、2人のラブラブっぷりに周りが呆れる

里沙様と、ことこ様のリクエストで書かせていただきましたがちょっと病み杉かもですすみません!
こういう高杉さんかいててとっても楽しかったです!
リクエストどうもありがとうございました!!

2015/09/28
いがぐり 

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