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silent child
18
 バンドを始めたなら、一度はやってみたいと思う曲。
 皆凄く乗り気。もちろん僕も。
 だって――、確かケイ先生も好きな曲だったはずだから……。
 マサキにはケチばっかつけていた石川君だけど、マリオには一言もケチをつけなかった。学校の先生にはいつも反抗的なのに……、マリオには素直に従うから不思議。


*****



 教室の個人レッスンが週1回に、全体レッスンが週1回。
 それだけじゃ初心者の僕らは、曲の完成が間に合わない。だから、皆で集まれる日に集まって、スタジオを借りようってことになった。
 幸い、ライブまでは教室のスタジオが無料貸し出しされるんだ。
 でも、予約を入れるのも大変。予約がぎゅうぎゅうで、多くても取れるのは、週に2時間くらい。

 今日も練習日――。
 僕は誰よりも一番にスタジオに到着した。
 皆の予定と、スタジオの予約を勝ち得た時間が必ずしも合うわけじゃないから、習い事や部活で遅れて来たりもする。時間が勿体無いから、着いたメンバーからどんどん練習を始めることになっているんだ。

 準備を済ませ、椅子に座って相棒を膝に乗せる。チューニングと基礎練を終わらせれば、譜面台と睨めっこしながら、苦手なフレーズの練習を只管繰り返す。

キュィーキュィキュィーキュイーーン
「上がんない……。」

 僕は未だにチョーキングが苦手。
 弦を押し上げて、元の音から1音高くしなくちゃいけないんだけど……、どうしても半音くらいになっちゃうことが多いんだ。それなのに曲中に登場するチョーキングは30回くらいあったりする。
 それに、チョーキングだけじゃなくて……。
ウィウィウィウィー……ーン
「あぁー、音が消えちゃう。」
 ヴィブラートも未だに下手くそ。
 それだけでもなくて、ハンマリングとプリングが入る3連符もかなり怪しいし、16分音符が続くところも、変な音が鳴っちゃたり、音がはっきりしなかったりする。

 後で気付いたけど……、この曲のギターソロって結構大変なんだ。
 マリオにも、相当頑張らないと厳しいって言われて、僕は猛練習中。

「あぁ、もうっ!」
「違う! そうじゃない!」
 上手くいかない自分にムカつくことなんてしょっちゅうだ。
 大好きだからこそ、真剣だからこそ……、上手くいかないことに苛苛する。

ジャジャジャジャキュィキュィキュィーン
ガチャッ
 ネックを見つめ、只管練習していたら、扉が開く音が聞こえた。誰が来たか確認のために頭を上げれば、そこに居たのは石川君。

「ちっ……。」
 石川君は眉間に深い皺を寄せ、僕をちらっと見た後、舌打ちしながら入ってくる。ドアの閉め方や、歩き方からして、相当機嫌が悪いってことが分かる。


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