silent child 18 バンドを始めたなら、一度はやってみたいと思う曲。 皆凄く乗り気。もちろん僕も。 だって――、確かケイ先生も好きな曲だったはずだから……。 マサキにはケチばっかつけていた石川君だけど、マリオには一言もケチをつけなかった。学校の先生にはいつも反抗的なのに……、マリオには素直に従うから不思議。 教室の個人レッスンが週1回に、全体レッスンが週1回。 それだけじゃ初心者の僕らは、曲の完成が間に合わない。だから、皆で集まれる日に集まって、スタジオを借りようってことになった。 幸い、ライブまでは教室のスタジオが無料貸し出しされるんだ。 でも、予約を入れるのも大変。予約がぎゅうぎゅうで、多くても取れるのは、週に2時間くらい。 今日も練習日――。 僕は誰よりも一番にスタジオに到着した。 皆の予定と、スタジオの予約を勝ち得た時間が必ずしも合うわけじゃないから、習い事や部活で遅れて来たりもする。時間が勿体無いから、着いたメンバーからどんどん練習を始めることになっているんだ。 準備を済ませ、椅子に座って相棒を膝に乗せる。チューニングと基礎練を終わらせれば、譜面台と睨めっこしながら、苦手なフレーズの練習を只管繰り返す。 キュィーキュィキュィーキュイーーン 「上がんない……。」 僕は未だにチョーキングが苦手。 弦を押し上げて、元の音から1音高くしなくちゃいけないんだけど……、どうしても半音くらいになっちゃうことが多いんだ。それなのに曲中に登場するチョーキングは30回くらいあったりする。 それに、チョーキングだけじゃなくて……。 ウィウィウィウィー……ーン 「あぁー、音が消えちゃう。」 ヴィブラートも未だに下手くそ。 それだけでもなくて、ハンマリングとプリングが入る3連符もかなり怪しいし、16分音符が続くところも、変な音が鳴っちゃたり、音がはっきりしなかったりする。 後で気付いたけど……、この曲のギターソロって結構大変なんだ。 マリオにも、相当頑張らないと厳しいって言われて、僕は猛練習中。 「あぁ、もうっ!」 「違う! そうじゃない!」 上手くいかない自分にムカつくことなんてしょっちゅうだ。 大好きだからこそ、真剣だからこそ……、上手くいかないことに苛苛する。 ジャジャジャジャキュィキュィキュィーン ガチャッ ネックを見つめ、只管練習していたら、扉が開く音が聞こえた。誰が来たか確認のために頭を上げれば、そこに居たのは石川君。 「ちっ……。」 石川君は眉間に深い皺を寄せ、僕をちらっと見た後、舌打ちしながら入ってくる。ドアの閉め方や、歩き方からして、相当機嫌が悪いってことが分かる。 [*前へ][次へ#] [戻る] |