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silent child
17

 気合を入れすぎた1音目……、不必要な程の大きな音が出てしまった。
 でも――、なんだか気持ちイイ。

 マリオの音が聞こえる。
 大和の音が聞こえる。
 石川君の音が聞こえる。
 そして、マサキの声が聞こえる。

 手が悴んでしまったかのように上手く動かなくて、音が変にピンピン跳ねる。
 マリオが僕の音を助けに来てくれて……、僕の音は次第に落ち着いていく。

 演奏し始めてしまえば、気持ち良くて……、あっという間に時が流れていく。

 マサキの歌が終わって――、後は楽器だけになる。
「最後だっ!! 決めろよーっ!!」
 皆の音に負けないくらいの大音量で、マリオが叫ぶ。

 最後は皆で同じリズム。

ジャッ ジャッ ジャーーーーーー
ジャジャ!!!.

 ピタッと音が止む。この曲は最後に休符。ピタッと休符をキメればカッコ良いんだ。
 いつもと違って、急激に無が返って来た。
 暫くは誰も音を出さなくて……、思う存分余韻を味わった。


パチパチパチ
 初めに無を崩したのは、マリオの手を叩く音。
「最後まで出来たなっ!」
「あぁ、憲太頑張ったなっ!」
「ふんっ。」
 次いで、皆の声。

「皆、初めて合わせたにしては、なかなか良かったぞい!」
 僕達を褒めるマリオ。ちらっとマリオを見れば、マリオは髭を揺らして笑っていた。
 マリオの肩からいつの間にか、マリオの相棒が消えていた。アンプも切られ、シールドも抜かれ、スタンドにどしっと立てかけられている。

 一体いつから、マリオの相棒はそこに居たんだろう?
 演奏に夢中で……、ちっとも気付かなかった。

「ケンタッ! おじさんが助けなくたって出来たじゃないかっ!」

 一体いつから、マリオの音は消えていたんだろう?
 自分の音を出して……、皆の音を聞くことに夢中で……、ちっとも気付かなかった。

 まるで、あの感覚に似ている。
 初めて自転車に乗れるようになった時の。
 自転車の後ろを掴んでもらっていて、絶対に離さないでよって言ったのに……、いつの間にか手を離されていた時の……、あの感覚。
 気付けば、一人で自転車を漕げるようになっていたように……。
 気付けば僕は――、一人で音を出せるようになっていた。

 僕の顔は真っ赤になった。
 皆の前で音が出せるようになって嬉しかったから……。それに――、自分がちょっと成長したみたいで、嬉しかったから……。


 その後――。
 バンド名を決めようってなったんだけど……、マサキが提案するのに対して、石川君が「ダサい」「却下」とか毎回ケチつけて、結局決まらなかった。
 でも、曲は驚く程あっさり決まった。
 マリオに薦められた曲。誰もが知っている、あの洋楽の定番。


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あきゅろす。
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