silent child 12 「さっきから何なんだよっ!!」 「ダイキ、落ち着けって。な?」 「大輝、ケンタに悪気はねぇんじゃないの?」 石川君を、宥めるマリオとマサキの声が聞こえる。僕の頭は下がったきり、持ち上がらなくて、様子を見ることは出来ない。 「俺はこういうヤツが大嫌いなんだよっ!!」 その言葉を境に、マリオとマサキの声が消えた。 僕は石川君に受け入れてもらえないどころか、嫌われているってことを知った。 ダランと両腕を下げて、掌をギリギリと握った。右手には硬い感触。握れば握るほど、ケイ先生の白いピックを感じる。 (悔しい……、悔しい……っ) 石川君の怒りは収まりつかないようで、次々と僕に向かって怒声が飛んでくる。 「音が出せねぇんじゃ、コイツ、意味ねぇしっ!!」 (僕にだって、音くらい出せたはずだった!) 「やる気がねぇんなら、初めから参加すんじゃねぇよっ!!」 (やる気だって、ちゃんとあるっ!) 「お前は、親に言われて、無理やり教室通ってんのかよっ?!」 (違うっ! 僕がやりたかったから通ってるんだっ!) 「お前は、親に言われて、無理やりライブに参加すんのかよっ?!」 (違う! 違うっ! 僕がやりたかったから参加するんだっ!) 何も言い返せない。心の中でしか言い返せない。「そうじゃない! 違う!」って、言い返してやりたいのに……。全部音にならない。 ――悔しい。言い返せないことが、悔しい。 大嫌いな矢口先生を思い出した。 僕を責め続けた矢口先生。 石川君に怯まず言い返した矢口先生。 「ダイキッ、もう止しなっ。」 「大輝、もういいだろ?」 「よくねぇよっ!!ちっともよくねぇっ!!」 「コイツが声出さねぇのは、恥ずかしいと思ってるからじゃねぇの?!」 (違う……、分からないけど違う) 「コイツが音出せぇねぇのも、恥ずかしいと思ってるからだろっ?!」 (違うよ……、分からないけど違うよ) 「お前は、ギターを弾くことを恥ずかしいと思ってんだろっ?!」 (違うっ! そんなこと思ってないっ!) 「何とか言えよっ! このっ、だんまり野郎っ!!」 (悔しいっ! 悔しいっ!!) 「ダイキッ! 止めなっ!」 「悪ぃけど、先生。俺コイツと組むなんて勘弁っすよ。もう一度組みなおしてくれません?」 「おいっ! 大輝っ!」 (ムカつく! ムカつくっ!!) 何も言い返せない自分が、ムカつく。 あまりにムカつきすぎて、あまりに悔しすぎて……、目頭が熱くなってくる。 僕は、僕の相棒をゆっくりと床に下ろした。 大和に近づいて、ぼそっと一言呟いてから……、僕は重たい扉を開けた。 そして――、目に溢れる程の熱を感じながら、僕は音の溢れる世界へと飛び出て行った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |