[携帯モード] [URL送信]

silent child
13

――どうして僕は、こんなムカつく僕なんだろう?
 考えれば考える程、熱くなる。
 顔が熱い。目が熱い。喉が……、焼けてしまいそうな程熱い。胸が……、焦げてなくなってしまう程熱い。
 熱いものが、体から飛び出してきてしまいそうなんだ。だけど……、ここではその熱を出すことが出来ない。

 僕は、真っ赤な顔で……、けれど無表情のままで、早足と、小さな小さな世界へと向かった。
 そこに到着するまでに聞こえてくる音は、全て雑音に思えた。

 さっきよりも軽い扉を開く。トイレへの扉。
 中には誰も居なかった。

 二つある内の、奥の扉へと飛び込んで、鍵をかける。小さな小さな僕だけの世界。

 そこまで来て……、僕は漸く泣いた。
 そこまで来て……、僕は漸く喋った。

「悔しい……っ、悔しいよっ。」
「ムカつくっ、ムカつくっ!」
 ここではこんなに簡単に音が出せるのに……。
 ダサい僕は、一人で悔しがって、一人でムカついて、一人で泣いた。

 ピーちゃんを思い出した。
 あっ君を思い出した。
 ケイ先生を思い出した。

 僕はいつまでも同じことを繰り返している。僕は、やっぱり泣いちゃいけないんだって思うのに……。

 だって――、僕はちっとも可哀相じゃない。

 可哀相なのは石川君。
 折角、楽しみにしていたイベントをぶち壊された石川君。
 可哀相なのは、マサキにマリオに大和。
 僕のせいで困らせてしまった3人。

 一人で泣きながら、色々考えた。

 なんであの場にマリオが居たのかが、漸く分かった気がする。
 マリオは、こうなることを予想していたのかもしれない。マリオは僕のためにあの場に居てくれたのかもしれない。
 今になって漸く気付いた。
 いつも僕を助けてくれたはずの大和は、途中から何も口を出さなかったことに……。そのことに対して、何で?だなんて疑問に思ったりはしない。

 僕は――、知っているから。

 助けてくれなかった大和が悪いわけじゃない。もちろん、僕に怒鳴った石川君が悪いわけでもない。音を出してくれなかった、僕の相棒が悪いわけでもない。
 音の出すことが出来ない僕が、悪いんだ。

 声だけでなく、音までも出せない僕。人前で固まってしまう情けない僕の、自業自得だって……、僕はちゃんと知っている。

 僕だけの音しか無かった世界に、キィーっていう、微かな音が飛び込んできた。
 その瞬間――、僕の口から漏れる嗚咽が消えた。僕の目から流れる涙が止まった。

コツコツコツ
(誰かが……入ってきた)
 静かな空間に、誰かの足音が響く。コツコツと音を立てるソレは、僕が居る個室の、丁度正面で止まった。下を見れば、扉の隙間から、誰かの足が見える。

コンコン


[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!