silent child
11
「皆、ダイキの音をよく聞いて、リズムを取るんだ。ダイキ、まずはゆっくりやってみてな。」
(どうしよう……)
体が、氷漬けにされたかのように、ピクリとも動かせない。左手は、最初の音の位置に、右手はストロークの準備をしているのに……、カチンコチンに固まっている。
「ダイキ、自分のタイミングで始めて。」
(どうしよう……、始まっちゃう)
カンカンカンカン
(始まった……)
タンタタタンタタ
ベンベンベンベン
聞こえてくるのは、石川君の音と、大和の音。1つ足りない音がある。
マサキの音は聞こえてこなくて当然。まだ歌に入ってないんだから。
足りないのは――、僕の音。
1音目から、入るはずなのに……、僕の手は……、動かなかった。
なんでかなんて、分からない。本当に、ちっとも動かないんだ。
「ケンタ、緊張しちゃったのかな?」
マリオが声を発したと同時に、二人の音も止む。
静まり返って……、全ての音が消えた。
「ちっ。」
石川君の舌打ちした音が響いて、再び無が崩れ去った。
「もう一回な。今度はおじさんも一緒にやってみよっかな。」
「憲太、頑張ろう。」
「ケンタ、そんな緊張すんなって!」
僕を気遣う声が、沢山降ってくる。自分でも訳が分からなくて、顔が真っ赤になる。
なんで急に、音が出せなくなったのかが分からない。いつだって、僕の相棒は、僕の代わりに音を出してくれたはずだった。
大和の前で音は出せた。
マリオの前でも音は出せた。
マサキと石川君、たった二人が増えただけで……、僕の音は出なかった。
――悔しい。凄く、悔しい。
そんなことも出来ない自分が、情けなくて、ムカついて……、凄く悔しい。
「じゃぁ、もう一回な。ダイキ。」
マリオが相棒を担いで、僕の直ぐ傍に立つ。
(どうしよう……、どうしよう……)
カンカンカンカン
(始まっちゃった……)
タンタタタンタタタンタタタンタタ
ベンベンベンベンベンベンベンベン
ジャジャジャンジャジャジャン
飛んでいるのは、石川君の音と、大和の音と、マリオの音。
足りない……。僕の音が足りない。
「ケンタ、頑張れ!」
マリオが向かい合わせになって、ネックを見せるように、近づけてくる。
僕は、出すべき音が分からないんじゃない。なんでか分からないけど、音を出すことが出来ないんだ。
今度は、石川君の音が消えた。
それに続いて、大和の音、マリオの音が消える。また……、無に返ってしまう。
僕はますます赤くなって下を向いた。
次に飛んできたのは……、
ダンッ!!
「いい加減にしろよっ!!」
壁を殴る音と、石川君の怒声だった。
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