予測不能な未来
２７
太ももから這い上がった大きな手が、服の中へと滑り込み、無防備なわき腹を撫で回す。
「相変わらず、手触りの良い肌をしているな。しっとりと滑らかで、まるで掌に吸い付いてくるようだ」
「くすぐったい……そこ、あんまり触るな」
少し触られただけで、身体の奥で何かがざわめき立ち、思わず身を捩りそうになる。
それを快感だとは認めたくなくて、強がりが口を衝いて出た。
「それは悪かった、他も触ってやろう」
意地悪く言葉を逆手に取った彼は、わき腹を弄っていた手をスラックスの下へと潜り込ませようとした――瞬間、天華はぞっとした。
（嫌だッ！）
反射的に、空いていた天華の片手が彼の腕を掴む。
そして、行為を阻むように全力で押し返してしまってから、はっと気付く。
――不味い。今のは明らかなる拒絶だ。
慌てて手を離したものの、払われたまま微動だにしない彼の手が、「もう遅い」と言っているようだった。
彼の不興を買ってしまっただろうか？
苦々しい表情を見られぬよう、天華は咄嗟に顔を背けた。
「フッ」
頭上から振ってきた、小馬鹿にするような笑い。
そして、彼は何を思ったのか――横を向いたことで晒された天華の白い細首に、食い千切らんばかりの勢いで鋭い歯を突き立てたのだ。
「く、ぅ――ッ」
ギリギリと歯を食い込ませていく彼の眼に、残虐な色が一瞬浮かんだ気がして、天華の背中がぞわりと粟立つ。
「あ、ぁッ、何、をっ？」
痛みに耐えながら、戦慄きそうになる唇を叱咤して天華は問う。
「お前の、気が乗らないように見えたが？」
「……っ！」
答えあぐねていれば、血が薄っすらと滲む傷口を、舌で抉られるようにして舐められた。
つい潤みそうになった瞳に、キッと力を入れ何とか耐える。
「気のせいか？」
口を離した代わりに、今度は彼の指先がそこの周辺をなぞっている。
じわりじわりと熱を訴え始めたそこに、爪をつき立てられるのではないか、という恐怖が頭を掠める。
いっそのこと、服従してしまおうか。
一見、その方が楽になれるように思われるが――それでは駄目なのだ。
従順に命令を聞くだけの下位者を、この男を求めてはいない。
隣に肩を並べ互いに意見し合えるような存在、若しくは、それ以上を望んでいるのだ。
――彼を拒むな。無様に怯え、逃げ惑うな。
今すべきは、強気に勝気に跳ね返してみせること。
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