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ある夜の秘恋の噺


「いや…そうだけど違うんだ。そういえばトウヤはなんか用事…?」

彼の家がここらだと聞いた事はない。彼の手には布製の筒のようなモノが握られているが。
まさか、
「…釘バット?」

「せめて金属バットにしてくれよ、不良的にも」


そこらへんの事情はよく知らない。


***

「まぁいいんだよ、オレの事はさ…とにかくデカいヒヨコだな?ちょっとスーパー言って、米買ってくる」


鈴鹿トウヤは、見た目に反して動物好きだ。どれぐらい好きかと言うと、スズメに対して「今日暑くねぇ?」とか聞いちゃうくらいだ。痛い。


「ばっか、お前には聞こえないのかよ…オレには聞こえるぜ、デカいヒヨちゃんが泣いてる声がな…!待ってろよヒヨちゃん…!!」


訂正。すっげー痛い。


***

トウヤは「任せろ」と言い残して閉まってるであろうスーパーへと駆け出した。

目に浮かぶ。
店員さんが、不良少年的な彼に怯える姿が。閉まったシャッターを前にして「ヒヨコが腹空かして待ってんだよぉお!開けろやぁあ!」と泣きながらシャッターを叩くトウヤの足元に、猫とか来たらきっと幸せな顔で猫じゃらし探しに行くんだ…。
なのに、学年トップだとか言うから世の中って不思議。
本当に不思議。


さて、イタい人の話はそれくらいにして。辰壬さんを探しに……。

「…まさかなぁ…」


土手の方で、なんかバシャバシャ聞こえる気がする。必死にクロールしてるみたいな、あぁでもとにかく。



「行くしかないなー」


からになってしまった、中華まん達のゴミをポケットにねじ込んで。俺は水音のする方へ走った。




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