ある夜の秘恋の噺
3
寒い夜は危険だ。
…どうして?
コンビニの魔力に逆らえなくなってしまうからに決まってるじゃないか。
右手には肉まん。
左手にはピザまん。
右腕のビニール袋には、サンダル。
左腕のビニール袋には、カレーまんとあんまん。
口には、角煮まん。
通りすがりの学生が、何故だか俺を避けるように二手に分かれた。大丈夫なのに。決して珍獣とかではないのに。
美味しいのに。
***
流石に、遠慮し過ぎたかと思っていたのに店員さんは何故か引いていた。何故、いつもなら全種類二個づつは食べるのに。
気が付くと、口がフリーになったので肉まんとピザまんを交互に食べる。中華とイタリアの共同作業。うーん、微妙。
「どうせなら、甘辛い方がいいなぁ…」
「忙しそうだな、郭哉?」
ふと、聞き覚えある声に振り返ってみると。スウェットで出歩く不良少年「誰が不良少年だこら、生まれつき髪が赤いだけだ」…うーん。視線で人を殺める事が「出来てたまるか」
「トウヤ、俺の解説に茶々入れるのは止めてくれ。せっかく今日のピザまんのモッツァレラが良いくらいに伸びていたのに」
「せめて声に出して解説しろよな?」
おんなじ中学の鈴鹿トウヤは、見た目は不良少年なのに中身はオカンだと俺は思う。ギャップ萌えとか言えば聞こえはいいが、彼のオカンっぷりは家の竜友をも凌駕する。
「またそんな栄養が偏った食生活送ってる割にはひょろひょろしやがって。ちゃんと30回以上咀嚼してから飲み込め、」
「そんな事してたら冷める!」
「消化に悪いんだよ!あと満腹中枢刺激するからだな、お前のその馬鹿食いをgdgdgd」
大変だ。ぐだぐだとしか聞こえなくなった。
「あ、いや…トウヤ…それどころじゃなくて、」
「ぐだぐだ…ん?なんか探しモノか?」
探しモノと言えばまぁそうだ。えぇと、特徴…特徴…
「…デカい、ヒヨコ…?」
「…そりゃ、また…矛盾した探し物だなぁ」
トウヤの吐いた溜め息は、ふわりと白く寒空に散った。
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