ある夜の秘恋の噺 4 「いや…そうだけど違うんだ。そういえばトウヤはなんか用事…?」 彼の家がここらだと聞いた事はない。彼の手には布製の筒のようなモノが握られているが。 まさか、 「…釘バット?」 「せめて金属バットにしてくれよ、不良的にも」 そこらへんの事情はよく知らない。 *** 「まぁいいんだよ、オレの事はさ…とにかくデカいヒヨコだな?ちょっとスーパー言って、米買ってくる」 鈴鹿トウヤは、見た目に反して動物好きだ。どれぐらい好きかと言うと、スズメに対して「今日暑くねぇ?」とか聞いちゃうくらいだ。痛い。 「ばっか、お前には聞こえないのかよ…オレには聞こえるぜ、デカいヒヨちゃんが泣いてる声がな…!待ってろよヒヨちゃん…!!」 訂正。すっげー痛い。 *** トウヤは「任せろ」と言い残して閉まってるであろうスーパーへと駆け出した。 目に浮かぶ。 店員さんが、不良少年的な彼に怯える姿が。閉まったシャッターを前にして「ヒヨコが腹空かして待ってんだよぉお!開けろやぁあ!」と泣きながらシャッターを叩くトウヤの足元に、猫とか来たらきっと幸せな顔で猫じゃらし探しに行くんだ…。 なのに、学年トップだとか言うから世の中って不思議。 本当に不思議。 さて、イタい人の話はそれくらいにして。辰壬さんを探しに……。 「…まさかなぁ…」 土手の方で、なんかバシャバシャ聞こえる気がする。必死にクロールしてるみたいな、あぁでもとにかく。 「行くしかないなー」 からになってしまった、中華まん達のゴミをポケットにねじ込んで。俺は水音のする方へ走った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |