ある夜の秘恋の噺 2 「ところで竜友」 「どうした郭哉?」 「怪我しちゃったけど銭湯は…「控えたほうが良いに決まってるだろう?」デスヨネー」 *** 右手に、消毒とガーゼと包帯と慣れた手付きで竜友は俺に処置してから。 「……聞かないのか」 と、唐突に聞いてきた。 何をかなと思っていたが、おそらく『社家』についてだろう。なんでも、竜友もその家の人で人外で前世はカグヤ姫に求婚した人な訳だが。 「別に、いいんだ。それでこの15年間が変わる訳でもない」 そう、15年だ。俺は来年の夏に16歳になる。つまりずーっと竜友と暮らして来た。保護者として。でも、人外という点に関しては納得した。彼はこの15年間姿を変えないのだから。 俺の返事に、竜友はただ「そうか」と返して。 「……ありがとう」 照れたように、笑んだ。 「じゃあちょっと出てくる」 俺はコートを羽織り、靴を履きにかかる。竜友は頷きながらも「あまり遅くなるなよ」と言って俺にマフラーをかける。 まだ秋だが、夜は寒い。 「靴も」 裸足で出て行ったのは、決して陽気な訳ではないだろうから。取り敢えずサンダルをビニール袋に入れて、俺は夜の町に繰り出した。 町と言っても、都会のベットタウンだし静かなもんだ。 近くに銭湯あるくらいだし、閑静な住宅街って言っても過言じゃない。 遠くから、工場の働く音がしている。ふと、空を仰げば冴えた白い月が冷ややかに輝いている。 「…カグヤ姫、かぁ」 月に帰ったら、団子オンリーなのだろうか。だとしたら困る。団子は好きだが流石に飽きる。 なんて事を考えて、 俺はまた、辰壬さんの散策に戻ったのだった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |