novel
彼女の変化と彼の変化[キッド→?マカ]
何だ…。
一体どうしたというのだ…。
今日のマカは何か違う気がする…。
どこが違うのだろうか?
気になって鬱になりそうだ…。
「あ、あの…キッド君?」
「何だ、マカ。」
「ち…近いんだけど。」
オレとマカは、図書室で本を読んでいた。
いや、正確に言えば、本を読んでいるマカの隣にオレが座ったんだが。
マカの椅子とオレの椅子との隙間を、8cm8mmにしただけなのだが、
そんなに近いだろうか。
「読みづらいから、もうちょっと離れてっ。」
「う〜む…。しかし、離れるとなると8m88cm8mmに…」
「適当でいいから。」
呆れた顔をしているな。しかし!
「適当など出来るか!それが出来ればオレはここには居ない!」
「何それ、キッド君も本読みに来たんじゃないの?」
「あ…。」
一応、誤魔化す為に広げていた本が無駄になってしまった…。
このまま誤魔化そうとしても、相手はマカだ。無意味だろう。
自分の力で発見したかったんだが、仕方がない。
手っ取り早い事だと判っていたんだがな。
「マカ。」
「な、何?」
「今日は何処かいつもと違う気がするんだが、オレにはどうしても判らんのだ。
何か変えたのか?」
「変えた、って…あぁ〜。」
「やはり何か変えたのか!」
「変えたっていうか…って、別にそんな大袈裟にする事でも――」
「大袈裟でも何でもいい!何処を変えたか教えてくれ!」
それは、突然だった。
マカの顔が『ふわっ』という擬音がピッタリな柔らかい笑顔になった。
この瞳に焼き付いてしまいそうな感覚と、体中の血液が沸騰したような感覚とが、
オレの一瞬を奪っていった。
次の瞬間には、いつもの無邪気な笑顔で、オレを笑っていた。
きっと、柔らかい笑顔の意味は、オレを子ども扱いしたんだろう。
それはまぁ、どうでもいい。
「マカ、笑ってないで教えてくれ。」
「あははっ、ごめん。これが違うの。」
「え?」
マカが指を指したのは、自身のネクタイだった。
何と、ネクタイにいつもある白い縞模様が無いではないか!
「今日は無地のネクタイにしてみたの。
誰も気付かなかったんだけど、キッド君は違和感くらいは感じてたんだね。」
そう言ったマカは、またさっきの柔らかい笑顔になった。
オレが違和感を感じていた事に笑っていたのか。
それは…オレが違和感に気付いて嬉しいという事なのか?
何だ…これは…。
頬が、熱くなる。
口角が勝手に横に広がっていく。
まるで究極のシンメトリーを見つけたような、痺れる感覚。
「そうか…!」
今のマカは、完璧なシンメトリーなのだ!!
オレとしたことが…何故気付かなかった…一日中見ていたというのに!!
しかし…何かが違う?
「そうだよ。」
「え?」
「?だから、ネクタイが違うの。」
「あ、あぁ…。」
「何?」
「いや…その…。」
何か引っ掛かっているのに、それが何か判らんので説明のしようがない。
シンメトリーを見て、何故オレは感情を剥き出しに出来ない?
何故?興奮している筈なのに。
「どうしたの?」
「…マカが、シンメトリーだなと思っただけだ。」
間違ってはいない。
シンメトリーのマカを見て、疑問が生まれているんだからな。
「ふふっそうだね、今、私シンメトリーだ。
キッド君、本当にシンメトリー好きだよね。」
「あぁ、好きだ。」
ドキンッ…
「うっ!!」
「えっ?どうしたの?!」
「い…いや…急に動悸が…。」
何だ?!オレは一体どうしたというのだ?!
好きだと口にしただけだというのに…!
「大丈夫っ?ねえ、保健室に行こ?ほら、肩貸してっ。」
「あ、あぁ…すまない。」
マカがオレの腕を掴んで自身の肩にかけ、オレの腰と掛けた腕をしっかり掴んだ。
髪が鼻を掠めると、ふわりと甘い香りがした。
歩く度、マカの耳がオレの頬に微かに触れては離れるを繰り返す。
その度にオレの動悸が酷くなっていくような気がする。
マカの耳はヒンヤリ冷たいのに、オレの頬の温度は上昇していく。
オレは…得体の知れない病気になったのかもしれない…!
死神の息子であるオレでさえも侵される病気だと…!
「キッド君、もうすぐ着くからっ。」
上目遣いで心配そうに見つめてくるグリーンの瞳が、宝石のように煌めいている。
吸い込まれそうだ…。
不安に感じたので目線を下に外すと、今度は艶やかな唇が視界に飛び込んできた。
綺麗な桃色、柔らかそうで、甘そうで…。
「キッド君?」
触れたい…。
と思うと同時に、空いている方の手をその唇に伸ばしていた。
人差し指と中指で軽く抑えるように触れてみた。
柔らかくて、温かくて、そして…
目の前がグルンッと天井になった。
「ドシイィィィィィィインッ!!!!」
「ウガッ!!」
「いっ、いいいいきなり何するのっ!!」
どうやら、マカに背中から倒されたらしい。
け…結構な威力だ…。
上半身は起こせたが、すぐには立ち上がれそうもない。
とりあえず、触れたことに怒っているようだな。
確かに、いきなり触ったのは悪かったな。
「すまない、急にマカの唇に触れてみたく――」
「マカチョッッッップ!!!」
「グァハッ!!!」
ついにオレも餌食に…何という威力…父上の技を模しているのか…?
それに、その本はいつも何処から出してくるんだ?
いやそれより、素直に謝ったのに何故殴られなければならんのだ…。
「素直に謝罪する者に対してそれは無いだ――」
マカがオレの高さに合わせるように膝をついた、と同時に繰り出される―
「マカチョップ!マカチョップ!マカチョップ!!」
「ガッ!!ギッ!!グッ!!お、おい!!いい加減にせんか!!」
あまりに酷い仕打ちに、オレはチョップを繰り出す腕を掴んで止めた。
もう片方の腕でも抵抗しようとしたから、それも掴んだ。
と、マカの顔に目をやると…
顔を真っ赤にして、今にも雫が零れそうな程に瞳が潤んでいた。
一体どうしたというのだ…?
「ど、どうした?そんなに唇に触れてほしくなかったのか?」
…あんなに暴れていたのに、すっかり大人しくなってしまった。
静かなのは助かるのだが、下を向いてしまって話し掛けても答えてくれない。
弱ったな…相当怒っているらしい。
とりあえず、掴んでいた手を離した。
「本当にすまない。別にマカを怒らそうと思ってした訳ではないんだ。それは判ってくれ。」
何とか小さく頷いてくれたが、顔を上げてはくれない。
こうして見ると、マカは小柄で、線が細くて、儚いくらい華奢だ。
スカートから伸びる足も細くて、女の子だということが一目で判る。
彼女は、女の子だ。
「マカ…。」
ぎゅっ…と、この腕は彼女を包み込んで胸に収めた。
また、甘い香りがする。
胸いっぱいに吸い込んで、言葉を紡いだ。
「ごめん…。」
大切にしたい。
守りたい。
女性を守れないで、死神が務まるか!
「わ…判ったから…離して。」
やっと口を開いた彼女の言葉は拒否だった…。
何はともあれ。
「判ってくれたか。」
ゆっくり彼女を腕から解放した。
潤んでいた瞳も、ほぼいつも通りになっている。
よかった…と、肩をなで下ろした途端、背中から腰にかけて鈍い痛みを感じ始めた。
「どうやら、完全に保健室行きのようだ。」
「え?」
「マカは手加減を知っているものだと思っていたが。」
「ごっごめんなさいっ!!」
「また、肩を貸してくれるか?」
「うんっ…ごめんね…。」
また肩を借りて、立ち上がる。
彼女自身は何も変わりはしないのに、今はとても申し訳ない気持ちになる。
こんな細く小さな肩に、オレの体を預けているのか…。
さっきよりも寄り掛かる重さで、明らかに進む速さが遅くなっている。
オレを傷付けることも出来るのに、彼女をか弱く感じる…。
こう感じるのは、失礼だろうか…。
「あのね…キッド君。」
「何だ?」
「もう、あんな事しないでね。」
「あんな事とは?」
「だから!…いきなり唇触ったでしょっ。」
「あぁ。…判った。もうしない。」
「絶対だよっ。」
「勿論だ。もう許可無しに触ったりしない。」
「へ?」
「今度は前もって許可を得ることにしよう。」
「ちっ…がぁぁぁああっう!!!」
何故だ?許可を得たらいいだろう?
「仲間なのだから別に――」
「仲間でもダメ!!!」
「むう…判った。」
そんなにイヤなものなのだろうか?
歩きながら、自分の唇も触ってみた。
が、嫌がる程の事でも…
「キッド君?!何してんの?!!」
突然、マカが声を上げた。
み…耳元なんだが…。
「変態!!」
「な、なぬっ?!!オレが何をしたというのだ!!」
「だからっ!……もういい。」
「いい訳がなかろう!!オレは変態扱いされたんだぞ?!」
「はいはい、すみませんでした。」
何だこの態度は…さっきまではあんなに可愛かったというのに!
可愛い?
ガラガラと保健室のドアを開く。
「誰も居ないね。とりあえず、ベッドに横になってて。私、博士探してくるから。」
彼女は、オレをベッドに座らせるとそう言葉にしてからドアの方に向かった。
なんだかんだと言っても、マカは優しいな。
今日のシンメトリーは特別でも、マカそのものは何も変わっていない。
彼女のあの柔らかな笑顔は、シンメトリーが成し得た奇跡では無い筈。
それでも…。
「マカ。」
「え?何?」
「そのネクタイ、よく似合っているぞ。」
「っ…ありがとう。」
「だから、また付けてきてくれ。今度は必ず気付く。」
そして、またあの笑顔を見せてくれ。
「うんっ!」
後書き↓
好き勝手やっちゃいました…
世の中のキドマカ好き様、ごめんなさいorz
キッドが徐々に気持ちに気付いていってる感じで、マカは女の子としては目覚めてる…な。
…上手く表現出来てなくてもそうなんです!(開き直り)
にしても…このマカ強えぇぇ……
こんな作品を読んで下さり
ありがとうございました。
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