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novel
春雷[シュタ→?マカ]

「博士っ。」

廊下に響く可愛らしい声に、俺はゆっくり振り返った。

「何ですか?マカさん。」

その声の主の幼い顔を見ると、困った表情をしている。

「傘のストックってありますか?」

「ん〜?ありますが…。」

「あの…今日、雨が降ったら貸してもらえませんか?」

「あぁ…いいですけど、傘を忘れたんですか?」

「う…はい。」

傘を忘れたくらいで沈んだ顔になるので、妙に気になった。

「どうかしたんですか?」

「…今日、ソウルとブレアが起こそうとしても起きないくらい爆睡しちゃってたらしくて、遅刻しそうになったんです。そうしたら…」

「天気予報を見忘れた?」

「はい…。まさか午後から降水確率80%なんて思わなかったんですっ。そうしたら、皆が傘持ってきてて…。」

からかわれたんだな。
そんな事で落ち込むなんて、マカらしくないな。
…いや、よっぽどからかわれたんだな。
傘の事と、爆睡した事も含めて、かな。

「それにしても、ソウル君やブレアに起こされても起きないなんて、夜更かしでもしたんですか?」

「うぅ…。」

また沈んでしまった。
余計な事を言ったかな。
きっと、本を読んでいたんだろう。
…夢中になっていたんだろうな…
一生懸命、本にかじりついている彼女を想像すると、笑いが込み上げてくる。

「フっ…。」

「あっ!今笑ったな!」

「あはは、ごめんごめん。」

表面に出すつもりは無かったのにな。
吹き出したからには隠さず笑う事にしたけれど、また彼女を怒らせている。
俺は、面白いからいいんだけれど。

「博士って意地悪ですよねっ。判ってましたけど。」

「…そ。」

そうだね、優しくしてるつもりだけど、
君にとっては小さな優しさなんだろうね。

こんな俺は、生徒に好かれないだろう。

…。

何なんだ…。

この…
痛みは…。


「でも…」

「ん…?」

「傘、貸してくれるんですよね?」

ほのかに悪戯っ子のような色を混ぜた微笑みをこちらに向ける彼女は、
魅惑的という言葉がとても似合っていて、
女である事を俺に再認識させる。

「…貸しますよ、雨が降ればね。」

「ありがとうございますっ。」

また…無邪気に笑って。
無防備なのか、計算なのか。
興味がそそられる。

俺の中で何かが生まれるような、予感がする。
不安定な、不確定なモノ。
興味とは違う、感情。

いや、もう存在している…?

…考えるな。

この予感は俺の不安にしかならない。
そう思えて仕方がない。

「博士?」

マカの声が脳内に響くように聞こえるのは、きっと廊下だからだ。
何か話をして意識を切り替えよう。

「…でも、まだ雨は降っていませんよ。もしかしたら、このまま降らずに済むかもしれません。」

「え?でも、80%ですよ?」

「あ…と20%もあるじゃないですか〜。まだ諦めるのは早いですよ。」

「諦めるって…。別に何も期待してませんよ?」

「そうっ…ですよね。ははは。」

あー…。
どうしたんだ…。
いや、このままでいい。
何もかもこのままで流れていけばいい。
教師らしさも、男らしさも、何も必要ない。
必要なのは、純粋な興味―――


「ドオオォォォォオオオン!!!!」


「きゃっっ!!!!」

物凄い音と少しの揺れが起こった。
その余韻にゴロゴロという響きが聞こえた。

「なっ、何っ?!」

「恐らく…雷でしょう。」

ふう…と、今の現状を確かめた時、俺は絶句した。

彼女を全てから隠すように、俺の腕はマカを胸に埋め、マカの腕は俺の胴体を抱きしめている。

何をしているんだ?

トクン…

無意識に?

ドクン…

そんな馬鹿な。

ドクドクドク…

無意識に俺はマカを?

バクバクバクバク…

マカも…無意識に腕を回して…

「博士。」

「っはい?」

声が裏返りそうになったけれど、何とかごまかせた。

「もう大丈夫です。」

「あ…ああ。」

既にマカの腕は俺から離されていた。

そろりと、何も悟られないように両腕を彼女から引きはがす。
抱きしめた感触が徐々に遠くなる。

「ふふっ。あははっ。」

急にマカが笑った。
どうしたんだ?何が面白いんだ?
思い出し笑いか?
凄く純粋な笑顔に見えたが。

「どうかしましたか?」

「あ、いえ、何でも無いんです。」

「…そうですか。」

気になっているのに、何かが俺を止める。
何に笑ったんだ?
何が君を笑顔にしたんだ?

何を…誰を…



KILL コーン カーン コーン…

「あっ、昼休み終わっちゃったっ。教室戻りますねっ。」

「ああ…、はい。」

マカが背中を向けた。
パタパタと足を踏み出す音が鳴る。
もう、かける言葉が見つからない。
あったとして、今の俺には…


「博士。」

突然、彼女が勢いよく振り返り俺を呼んだ。
その顔はキラキラ光るような笑顔で――

「博士も怖がったりするんですねっ。」

「え?」


ザアアァァァーーー………


「あ〜あ…、この音、雨ですよね。
傘はツギハギじゃないのを貸して下さいねっ。」

タタタタタ……


たった一度の雷鳴の後、
激しい雨音が、全てを包みこんでゆく。

「聞かれてたのか…鼓動。」

彼女は違う意味に取ったようだけど、それで良かった。
彼女が笑った理由が、俺だったから。


「ああ…怖いよ。」


君に好かれたいと思う、俺自身がね。








後書き↓


日曜日に凄い雷が鳴った後、暫く経ってから雨が降ったんで、使ってみました。
上手く書けたかといえば…撃沈ですが;
降水確率と恋愛を重ねて書いたらどうかな、と…おぉっ!!(投)
このマカは博士に期待してないのか…(書いた奴が何を言う)




こんな作品を読んで下さり
ありがとうございました。

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あきゅろす。
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