NOVEL 天使の顎 season1 宇宙戦争編
session 13 *Fairy Tale*C
食堂でそんな和やかな会話がされている頃だった。
ポートに一隻の戦艦が入港していた。
マグダリアと比べれば小さいが、それでも数十人は乗り込むことができるカーキ色の船体から、リサが降り立った。
その背後には第二デブリベースの顔見知りが並ぶ。
広いポートにカルヴィン一人だと知ると、彼らは戸惑った。
だが、リサには周りの状況が見えて無いらしい。
「パパ!!」
いきなりカルヴィンの胸に飛び込んで抱きつく。
青いリボンで結ったツインテールが曲がっていてカルヴィンは自分がやったほうがうまく出来ることを思い出した。
よく、面倒を見ていたつもりだったがここまで来てしまったあたり、逆に心配されていたのだろう。
「迎えに来たよ!」
「…………」
「パパ?」
だが、今はマグダリアを離れるわけにいかない。
「リサ、俺はマグダリアを降りられないんだ」
「え……?」
リサの表情が固まって、次の瞬間には鬼の形相になっていた。
「可愛そうなパパ! なんて酷い連中なの!! パパ、脅されているのね!? 大丈夫よ、私が助けてあげるんだから!」
「は?」
「みんな、武器を持って! これからマグダリアの艦長を探し出して直談判よ!」
「リサ?」
「行くわよ!!」
そういって一団がダバダバと艦内に流れていった。
「あ……」
その姿が消えてからカルヴィンは爆弾の導火線に火がついていたことに気がついたのだった。
「…………」
背筋が凍りつく。
だが、そうしてもいられない。
カルヴィンは全力疾走で食堂に向かった。
食堂にはまだ傭兵たちはたどり着いていないらしく、怒涛の勢いで転がり込んできたカルヴィンに誰もが目を向けた。
「みんな!!」
事を説明しようとしたそのときだ。
カルヴィンが入ったものとは違う、もう一つの入り口から銃器を構えた傭兵が顔を出す。
「!!」
どよめきが走った。
そして、最悪なことに皆が声をそろえる。
「どういう事だよ、艦長!!」
まるでミュージカルのように見事にそろった罵倒にカルヴィンは謝ることを忘れて感心してしまう。
「艦長!?」
傭兵の一人が銃器を食堂の群集に向けた。
さらにどよめきと悲鳴が上がる。
「この中に艦長がいるらしい!!」
その台詞に混乱するのはマグダリアの面々だった。
しかし、傭兵たちはずんずんと中に突き進み、銃を向けた。
「マグダリアは占領した! おとなしく艦長を差し出せば攻撃はしない!!」
そう宣言され、全員の非難の視線がカルヴィンに注がれた。
だが、そんなことを言われてはいそうですかとカルヴィンを渡してしまう人間はここにはいない。
強いて言うなら、自室で爆睡しているあの女と、色々な意味で冗談のような存在のあの眉なしだけだ。
食堂にやってきた傭兵は三人。
トリコは、モブの後ろから彼の耳元で物騒なことをささやいた。
「殺れ」
「…………」
さらに物騒なことに頷くモブ。
モブは手元にあったコショウのビンを手に取るとキャップを外す。
次の瞬間、彼は黒豹のごとく無音でテーブルに乗っていた。
そして、コショウを携え、襲い掛かる。
「な!」
傭兵たちが気づいたときにはもう防御不可能な距離まで詰めていた。
キャップの取れたコショウを傭兵たちにぶちまけて戦闘開始。
一人目、不意をつかれた事に動揺しむせながら銃を再度構えなおそうというところだった。
モブの上段蹴りの一撃で沈む。
二人目、ナイフを抜いた傭兵の一撃をテーブルに乗ってかわす。
傭兵もそれを追ってテーブルに上がった。
ナイフを振りかぶった傭兵よりワンテンポ早くモブは態勢を低くし、食堂の簡易椅子の背もたれと座席の隙間に足首まで突っ込む。
そのまま勢いをつけて椅子を叩きつけると、傭兵は怯んだ。
さらに、その動きの流れで、両手をついて両足でキックを食らわす。
三人目、背後に殺気を感じたモブは前方に飛びのいた。
改めて向かい合い、モブは身体をひねった構えになる。出来るだけ、相手からの攻撃をうける表面積を減らす、そのための構えだ。
そして、両手は第二間接だけを強く曲げる。
通常の拳よりこちらのほうが力が分散されず、強力だ。
無言の気合で銃を鈍器代わりに振り上げた傭兵の懐に入り込み、その脇をくぐりざま、左の拳が鎖骨の間を打つ。
「ゲフォッ!!」
いくら屈強で筋肉隆々な傭兵だろうと鎖骨の間は絶対に鍛えられない急所の一つだ。
床に沈んだ傭兵の武器を取り上げ、ひょいっと回す。
「…………。付いてて良かった、陸戦技能」
語呂だけいい呟きをもらし、モブは振り返る。
感心の眼差しが注がれ、彼はテレながらも肩越しにピースサインを出して見せた。
「…………。ブイ」
* * *
「…………」
「それで、追撃を逃れつつ、逃げたってわけだ」
「…………。へーっくしょいッ!!」
風呂上りに相応しくない長い話だった。
アンジェラはバスローブの上に毛布までかぶって震えている。
さきほど暖めたピラフなんかもすでに消えていた。
「でも艦長、どう考えても解決策は艦長ですって名乗りを上げるしかないよ?」
やはり、アンジェラはカルヴィンを引き渡す派である。
「それで簡単に返してくれる相手じゃないみたいなのよ」
と、トリコ。
リサという娘は傭兵の一同を率いる統率の能力は父親譲りか、彼女の思い込みオンリーの言葉一つで傭兵たちは動いてしまう。
「知らん。直談判してあげりゃいいじゃない。あー、もう一回あったまろー」
「ちょっと待ちなさい」
トリコに両肩を抑えられるアンジェラ。
「何よー」
「まだ話に続きがあるの」
「え〜!?」
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