07 「あのおっさん、さっきから超ウザイんだよねー。ぶっ殺していい?」 「そうですね…。あなたがそうしたいのならば構いませんよ」 「きゃははっ、やった!おーい、おっさん!ぶっ殺してやるから覚悟しろよー!」 「俺まだ死ぬ予定無ぇんだけど」 「そんなん知らないっつの!きゃはははっ!」 横で深い笑みを浮かべているイザヤに気付く事なく、ルカはエドガーに躍りかかった。──速い! 「…おいおい、マジかよ」 接近戦に持ち込まれたら不利である。エドガーは銃身を支え直したが、ルカの素早さはそれを遙かに凌いでいた。エドガー目掛けて闇色の刃が光る。だが、それは彼を捉える寸でで槍の柄によって阻止された。 「──エドガー!下がって下さい!」 アナスタシアである。ルカの瞳が不快気に眇められた。 「ちょっとちょっと、団長さん。邪魔しないでくんなーい?」 「そうはいきませんわ!」 アナスタシアの周囲で急激に魔力の濃度が高まる。 「目が潰れない事を、祈りなさい!」 爆発的な光が網膜を焼き尽くす。 アナスタシアの周囲で七色の光が弾け、ルカは悲鳴と共に目を押さえて仰け反った。 「…っいったぁ!ちょっと何してくれんのー!」 涙目のままルカは宙に跳び上がる。その一際上に小さな影が躍り出、ハッとして振り返るよりも早くに、合わさったメイファの拳が力一杯ルカの背中に振り落とされた。 「きゃんっ!」 為す術もなく、ルカは地面に叩き付けられる。 「おいおい。あんまやるとお嬢ちゃん泣き出すんじゃねぇの?」 「…、…はっ!随分と余裕ぶっこいてくれんじゃん、おっさん!」 上体を立て直した菫色の瞳がエドガーを捉える。その強い光をたたえた目に、エドガーは煙草を吸おうと持ち上げた手をぴたりと止めた。 「………」 「?どうしましたの、エドガー」 ルカを凝視して固まったエドガーに、アナスタシアが声をかける。 「…──あー…いや、何でもねぇわ」 ややあってそう言い、エドガーは煙草を銜え、拳銃を構え直した。 「さてっとー、お嬢ちゃん。あんま大人をからかうなよー」 「きゃははっ!おっさん!調子ぶっこいてると、死んじゃうよ!?」 高い哄笑と共に、ルカは大地を大きく蹴った。 「………」 そんな戦闘が行われている傍ら、優とシンは一歩もそこから動こうとしなかった。ただ、己の神器の柄を強く握り、決して気圧されないよう、前方で依然として微笑みを浮かべているイザヤを見据えたままだ。 「どうしたのです、女神。シン」 「…イザヤ、お前───」 ぎりっと奥歯を噛み締めて睨み上げてきたシンの瞳に「おや」とイザヤは肩を竦める。 「随分と恐ろしい顔をしますね、シン」 「黙れよ!あんた、自分が一体何を仕出かしたのか分かってるのか!?」 火が付いたように叫んだシンにもイザヤは一切動じない。彼の碧眼は涼しい色のままだ。 「何故、そんなに声を荒げるのです?」 「無くなったんだ…何もかも!全部、あんたが手を下したんだ!あんたは教団にいながら何とも思わなかったのかよ!」 「ええ」 さらりと答えたイザヤに、シンは更に瞳に怒りを宿らせる。 「薔薇十字団も、西欧諸国も、科学技術推進国も私にとってどうでもいい。この世界で起きている出来事など、一切私は興味ありません」 イザヤの瞳は揺るがない。 「まぁ、崩壊時に薔薇十字団の敷地にいた人は不運だったとしか言いようがありませんね。ですが、彼らは立ち会えたのですよ、女神覚醒の瞬間に。そして女神の力によって死滅した。──なんと名誉な事でしょうか。彼らは終幕へ向かう序章の輝きによって、永遠の眠りにつく事が出来たのだから」 「イザヤ……」 怒気の孕んだ声色の優にイザヤは微笑みかけた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |