08
「女神。どうしてそのような顔をするのです?どうしてそのように睨むのです?これはまだほんの序章に過ぎない。まだまだ、我らは目的を遂行する。遂行の為なら手段は選んでいられないのですよ?」
「…世界を壊すため?」
「ええ。そして、不浄な人類をこの世から殲滅するために」
イザヤの答えに迷いはない。
「人類を殲滅してどうする気なの」
「我らの世界を取り戻すのです」
イザヤは微笑みを深めた。それは心底嬉しそうな笑みだ。
「不浄な人類が消え去った大地の上で我らはまた我らの楽園を創造する。誰にも邪魔させない、誰にも汚させないエデン。不必要な彼らを全て排除した瞬間、我らのもとに再び安寧の大地が戻ってくる…」
どこか陶酔した表情でイザヤは淀みない口調で語った。
「この世界は我々のもの…我が物顔で大地を踏み締める人類などいらない。不必要な存在だ」
「…そんな事ない」
神器を握る優の手に力がこもる。
「この世界はそんな枷から外れてとうに自立している。これはあんた達が選定すべき問題じゃない。もうあんた達が手出しする必要はない」
「ならば、何故我々は転生を繰り返しているのです?」
イザヤは優を見据えた。
「我々が創世記より転生を繰り返す理由──それは、世界を我々の手に取り戻すに他ならないのではありませんか?」
「…世界は、あんた達のものじゃない」
「いいえ女神。世界は我々のもの──あなたのものです」
間髪入れずイザヤは即答する。
「我々がいたからこそ、世界がある」
イザヤの両拳が合わされ、光が溢れたかと思うと一瞬にして細い刀身が露になった。
ひゅっと、剣を振るう。剣先から散った雷を彷彿とさせる光は朝日に照らされ、輝きを強めながらコンクリートに吸い込まれていった。
「───女神」
イザヤは微笑みを深めた。
「すぐに片付けますから、ご心配なく」
えっ、と思った瞬間、イザヤの姿は掻き消えてシンの眼前に躍り出ていた。一瞬の動作でイザヤは剣を振り上げる。
「シン!!」
「っ…野郎ぉ!」
ぎりぎりのところで体を反らす事でそれを回避し、シンは体勢を立て直すと爆発的に魔力を高めた。シンの周囲で激しく雷が踊る。
「…走れ、稲妻!」
細長い雷光がイザヤ目掛けて走るも彼は一切動揺する事なく、己の神器を横に構えた。細い刀身に真っ白な輝きが走り、爆発的な光が網膜を焼き尽くす。すぐに鮮明になった視界では、イザヤが防御の姿勢を取ったままだった。
「やりますね、シン。さすが預言者クレールが重宝されるだけの事はある」
「……預言者クレールは、あんたと一緒にいるのか!?」
「やむを得ず、ですけどね」
得物を構え直したイザヤの碧眼が鋭く眇められる。彼を取り巻く雰囲気が一変し、空気を通して凄まじい殺気が肌に突き刺さった。
「あなたは邪魔だ、シン。女神を惑わす始祖のなり崩れ。──ここで消えるがいい」
大気が打ち震え、イザヤの周囲で眩い閃光が走る。
「イザヤ!」
咎めを込めて声を張り上げた優にも、イザヤは聞く耳を持たない。
「女神に近付いた自身を呪いなさい」
爆発的な、この世の終わりを彷彿とさせる光が網膜を焼き尽くす。
優は戦慄した。それは、あの時──薔薇十字団を崩壊させた時の輝きと酷似していた。
「───イザヤ!!」
再度優は吼えた。その鞭打つような声に、イザヤの魔力が動揺に揺れたがそれはほんの一瞬に過ぎなかった。
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