05 ──世界を、創ろう── それが女神に芽生えた一番最初の思考だった。 最初は“無”だった。 何も見えず、何も聞こえず、何も感じず、何も存在しない。 それが嫌だったのだ。 恐ろしかった。 孤独がたまらなく恐ろしかった。 だから女神は世界を創る事に決めた。 あまりに安易に、あまりに容易く、あまりに突飛に。 最初に創ったのは空間だった。それに伴う形で時間の概念も誕生した。 空間に広がる原始の海に混沌とした暗闇がある中、女神は光を作り、そこで昼と夜が出来た。 次に、女神は空間をちょうど真ん中で二つに裂いた。そうする事で、空と大地を創り出した。 あとはもう、とんとん拍子だった。 海を、植物を創り、天空を彩る太陽と月と星を創造し、魚と鳥を、獣と家畜を創り出し、鮮やかに彩られた大地の上を駆け巡らせた。 そして最後に、女神は自分に姿を似せた人間を創造する事に決めた。 女神は、最初に5人の人間を創り出した。彼らに女神は、最初の人という意味の“始祖”という名前と個々の名前を与え、そして世界の自然事象を司る役目を与えた。 ある者は雷光を、ある者は闇を、ある者は水を、ある者は風を、ある者は大地を。そして、女神自身が炎を──。 世界の中で女神は始祖といつも共に在った。 真っ青な空の下、輝かしいばかりの太陽を受けた大地の上で女神はずっと彼らと一緒だった。 瑞々しい緑と色とりどりの花に囲まれた“エデン”と名付けられたこの星の中で、彼らは長い時の間共に在った。 その間も女神は世界の創造を続けた。 生命を増やし、物質を増やした。 そして始祖と共に世界の行く末を見守った。 平和だった。 穏やかだった。 倖せだった。 (だけど……) 世界が狂い始めた。 増えすぎた人間は個々に国と呼ばれる集合体を創り出しやがて争いを始めた。 それを女神は悲しんだ。 だが、人同士の争いも世界の営みの一つであり、女神はそれを無理矢理見過ごす事にした。 だが、それはまだほんの小さな狂いにすぎなかった。 人の争いは激しくなる一方で、悲嘆にくれる女神の姿を見兼ねて、始祖は度々嵐や雷雨を引き起こしては、人の争いを天災という形で無理矢理終わらせていった。 だがそれで争いが無くなる事はなかった。 増していく狂気。 何がいけなかったのか、何がおかしくなったのか、何が間違ったのか。 どういう経緯でそうなったのか分からない。 ただ、気付いたら、人は何故か女神達を憎み、忌み嫌うようになっていたのだ。 ──嗚呼、どうして。 何故だ。 何故だ。何故だ何故だ何故だ何故だ。 大地は赤にまみれ、粉塵は空を覆い尽くし、日光を遮断した。 淀んだ世界の真ん中でただ意味も無く戦った。かつての楽園はもうどこにもなかった。 (そして、殺されたんだ) 悲しかった。 悔しかった。 切なかった。 泣きたかった。 だけど── [*前へ][次へ#] [戻る] |