小連載
マギ成り代わり
アリババ成り代わり。
女⇒男。
原作知識有り。
なぜかやることなすこと原作とずれていくことに若干怯えながら暢気に生きていく話。
けど起こることは原作と同じ。
−−−−
生れ落ちたのは貧しくとも子供の笑顔の耐えない場所だった。
それが所詮前世の記憶と呼ぶものを持ちながら産声を上げた俺の生まれ故郷。
前世が女だとか今世の世界が魔法や魔法使いの存在する漫画の世界だとか、自分の名前や親の名前がその漫画の登場人物のものだとか、いろいろ頭痛の種になるものを脇に押しやりつつ過ごしたその場所。
其処とのお別れは予期していたよりも早かった。
なんと母親と共に王宮に召し上げられたのだ、ほんとうにビックリ。
予期、つまりは原作で読んだ話の中でのものだが展開が違うことに焦った。
そういえばたまに母親に会いに来る客に多分王宮の人なんだろうなぁと思われる人物を見た事があった。
もしかして父親もとい王様が母親の様子を探りに来ているのかと思い挨拶したら可愛がられてしまったのが原因か。
そんなこんなで皆が皆原作どおりとは行かないのだろうかと戸惑いつつも母親は王の側室に俺は国の三番目の王子様となったのだ。
この時俺が思ったのは、これなら母親が死ぬことは無いという安堵だ。
原作では病気で亡くなった母親だが、王宮に住まうことなったならば王宮の医師達が母親を病魔から守ってくれる。
ぶっちゃけ俺は前世の記憶を引きずり泣いていた赤ん坊の頃の俺を抱きしめて優しくあやしてくれた母親が大好きだった。
マザコンと言うなかれ、俺はただ母親が大好きなだけだ。
そんな訳でスラム時代は母親を捨てたと思っていたので良い感情はなかった父親だが、二人を王宮に迎えてもらってからは厳禁にも感謝するようになった。
王宮では妾の子だと馬鹿にされはしたが母親が慰めてくれるから問題なし。
とはいえ心配かけたくないので勉強やら剣術やら頑張ったらちょっとばかし王宮内の空気が微妙になったのでコリャやばいと方向転換。
本妻の子よりも出来の良い妾の子、反乱分子と認識されてはまずい。
父親はおおっぴらにどちらかの味方をしちゃ駄目だって分かってるから手を貸してくれることはないし。
「てなわけで旅に出てきます母さん」
「・・・・・・、」
そんな風になんでもない昼下がりに手に持ったティーセットを机に置き言ったアリババの一言。
ぽかんと間抜けな顔を晒す母親や傍に控えていた従者やメイドたち。
一拍置いて。
「――何言ってるんですかアリババ様ッ!?」
「ああ父上に行って来たらどうだって言われたのでそれなら行こうかなーと。ちゃんと戻ってくるよ心配しないでね母さん」
「あらそうなの身体に気をつけてねアリババ」
「アニス様ぁッ!こういうときには息子さんを引き止めてくださいッ!」
日常会話のように返事を返すアリババの母アニス。
反対に叫ぶ彼らは、側室とはいえ仲睦まじい母子の人柄に引かれてこんな時にも二人の傍に控えていた従者達である。
実はこっそり日陰で暮らしていたのに第一王子以上に人望があった彼は色んな期待を背負っていたりしたのだ。
「まずは交友のあるシンドリアに行けと父上に示された。あそこは色んな民族が集まるから社会勉強になる。向こうに伝わる剣術なんかも習えたら万々歳だ」
「そりゃ素敵な話ですけれどね!?」
「当然私達も連れて行ってくださるんですよねッ!?」
「一人で行くよ?」
「どうしてですか!」
「決まってるじゃないか、お金の節約だよ。なるべく父上に頼らず動きたいし。大丈夫ちゃんと手紙書くから」
−−−−
15歳ぐらい。
一足早くシンドリアで王様とか八人将とかと出会って修行つけてもらったり。
−−−−
ああ面倒くさい。
アリババは小さく呟いた。
父親が病気で倒れたと聞いて帰る途中、シンドリア国王の厚意から借りた船が途中の港に到着したとき海賊に襲撃されてしまったのだ。
出向するには時間がかかるであろうことは明白だったので別ルートでバルバットへ帰ろうとしていたらなんかどこかで見たことのある顔が見えた。
「ねえねえ僕もあれを食べてはだめかい?」
「駄目。あの林檎はお金持っている人じゃないと食べちゃ駄目なんだ」
「えー」
青くて身長より長い三つ編み。
赤い宝石の止め具のついたターバン。
金色のリコーダーのような笛。
それらを身につけた10歳ぐらいの幼い少年に背中に張り付かれ、アリババは言う。
「もうすぐ休憩地点だからそこで冷たい水とちょっとした果物なら手に入る。それまで我慢しろ」
「そんなぁ・・・・・・」
「・・・・・・、はー。じゃあここにでも座ってあそんでろ」
同じ馬車に乗る雇い主に無礼を働かないようにその少年の服を引っ張り、膝に乗せる。
そうすれば少し驚きつつも少年はアリババの膝の上ではしゃぐ。
「わあっ、こんなことしてもらったの初めてだよ!」
「そーかそーか。頼むからあそこの旦那に迷惑かけないでくれよ、坊や」
かっぽかっぽとラクダの足音を聞きながらアリババはこっそり溜め息を付いた。
オアシス土地チーシャンに向かう馬車、そこに短期のアルバイトとして乗り込ませてもらったらこれだ。
「そうだ、お兄さんの名前は?僕はアラジンっていうんだ」
「・・・俺はアリババだ。」
お分かりだろう。
なにせ突然の主人公と遭遇だ。
どう扱って良いのか分かりかねているが表情には出さずに接するアリババである。
休憩地点でラクダに水を飲ませながら適当に話し相手だ。
「そういやお前、チーシャンに何しに行くんだ?」
「僕は友達の友達を探しに行くんだ!お兄さんは?」
「俺は親父が病気で倒れたって聞いたから実家に帰る途中だ。母さんも心配だし」
「へえ・・・・・・それはしんぱいだね」
そうである、心配なのである。
だからこんな所で借金地獄になるようなことは避けたいのだ。
「ねえ、おかあさんってどんなものなの?」
「へ?お母さん?」
「おい運転手!いつまで休憩させる気だー!」
「はーい、今すぐ!ほらもう車に乗り込め、話は出発してからだ」
−−−−
「あー、お母さんってのはだなー・・・まあ意味は知ってるな?直接言えば授乳者、子供の生みの親であり育ての親、つまりは女親のことだ。」
「親ってどんなもの?」
「そっからか!?」
ラクダの足音を聞きながらアリババはアラジンと話す中で分かったことがあった。
――こいつ凄まじい世間知らずだ。
「あー、親ってのは子を生み出し養い育て同時に導く象徴的な・・・・・・説明面倒・・・・・・ホラ後ろ見てみろ、あんな感じだ」
同じ馬車に乗る母子連れを指差して言えばなるほどとアラジンは頷く。
「親は子供を愛して守ってくれる、そして子供はその恩を成長した後も忘れてはいけない。親孝行って奴さ」
「へえ・・・・・・」
「偉いのねえ君。親孝行なんて君の年で考えもしなかったわ」
「いや、俺の持論で・・・・・・」
「お母さんかあ。僕も僕のお母さんに会ってみたいなあ」
親子連れが声をかけてきたので返せばアラジンが言う。
アリババはそれを見ながら微笑んだ。
(なんか嫌な予感がするなぁ)
「うちの娘はね、迷宮の不思議なお話を聞くのが大好きなんですよ」
「迷宮?迷宮ってなんだい?」
「お前は迷宮も知らんのか・・・・・・迷宮ってのは――」
そこで、ハッとアリババは馬車の前方を見た。
先ほどの嫌な予感を裏付ける、それ。
細長いうねうねとした植物。
「どうしたんだい?お兄さん」
「―――ッまずい、最悪だ!」
パシリと手に持った鞭を叩いて、馬車から飛び降りる。
驚く馬車の乗客を無視して走った。
「止まれ!それ以上進むな!砂の下に肉食植物がいるぞ!!」
「ッッ!?」
自分の乗っていた馬車のラクダを止め、慌てて前方を行く場所へと駆け寄る。
瞬間。
砂漠ヒヤシンスの触手が、前方の馬車の車輪を掴んだ。
「――――ッぎゃあああ!?」
「何あれーッツ!?」
「砂漠ヒヤシンス!!急いで逃げろ!穴に落ちるなー!!」
砂漠に入る前に進むルートを変更したつもりだったが意味はなく、肉食植物に出会ってしまったことに頭を抱えつつアリババは叫んだ。
そうすれば後ろから声が聞こえる。
「おい早く車を出せ!酒を逃がすんだ!!早くしないと金は払わんぞ!!」
「はーい今すぐ!皆岩場へ走れー!」
こんな時に!とは思ったが穴に落ちた人間もいなかったようなのでさっさと撤収した。
ちなみにその後、良い働きをしたからと色を付けた運賃を貰えたのでありがたく受け取っておいた。
なんにせよお金はどこでだって入り用なのである。
−−−−
「そりゃジンの金属器のことだな」
「ジンの金属器?」
「そう。迷宮の中にあるっていう魔法の道具。」
「迷宮?それはなんだい?」
リンゴを片手に町をぶらつきつつ進んでいた途中だった。
アラジンは模様の描かれた笛を持っているので迷宮についてくらいは知っているのかと思いきや違うらしい。
それでもちゃんと説明をするアリババは子供の相手が上手い。
「ダンジョンの事だ。14年前だったかな、突如世界の町々で見たことも無い遺跡群が現れたんだ。入ってビックリ中は誰も知らない古代文明の歴史とお宝がざくざく。空飛ぶ布に酒の湧く壺、その中でも皆が夢見る宝がジンの金属器=B」
「ジンとはなんだい?」
「不思議な力を持った魔人。一説によれば神様かもしれないって話だ」
「じゃあウーゴくんもそのジン≠ネのかなぁ」
「ウーゴ君?」
「うん。ここに住んでるんだ」
おもむろにアラジンが笛を吹く。
吹いたら、
「――――ッッッ!!?」
「さあウーゴ君、アリババお兄さんにあいさつしておくれよ!」
でかくて青くて褌一丁の、首無しお化けが現れた。
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