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リコリス
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この近くで散歩するなら、と案内されたのは川沿いだった。

葉の落ちかけた梅や桜の木が連なっている所からすると、なるほどきっと春には最高の散歩道なのだろう。

さらさら、笹の葉が静かな音を立てていた。



「松陽さんは小太郎君の先生なのですね」

「はい。僕たちは松陽先生って呼んでいます」

「そうなんでしょうね。道中、一番年上の子は算術が、最近入った子は朗読が得意なんだとか、ずっと楽しそうに話していました」

「ほんとうですか?あの、僕の事はなにか仰っておられましたか」

「ええ。本が好きで、道場でも特に真面目で優秀な子がいると言っていました。多分それが小太郎君の事だと思います」

「そうですか!嬉しいなあ」



少年の目が輝く。

多分だと言われたものの本当に嬉しそうにしている姿に、白波はほんわかとした気持ちになった。



「この村の暮らしは、楽しいですか」

「楽しいと思います。田舎だと思われるかもしれませんが、この村では友人と遊ぶのも先生の教えを受けるのも、やりたいだけできるように、大人が助けてくれるんです」

「そうですか。良い村なんですね、よかった」



変装をしてなら、また来たいものだな。

心の中でそんな事を考えて白波はふっと笑った。

江戸近くの村からここまではかなりの距離がある上、一度村へ帰れば白波はまたしばらく日本中を飛び回ることになる。

予定では春になるまでに東北方面へ遠い親戚を頼りに疎開していった何人かの様子を見に行くつもりだし、結局のところそんな暇はないのだ。

だけど。



「私は江戸の近くの村に住んでいます。」

「えっ、ではここに来るのは大変だったのでは?」

「そうでもありません。江戸と京を結ぶ、天人の技術の力を借りて作られた空の道があるので、それに便乗させてもらいましたから」

「天人って、あの?」

「はい。」

「戦争中だし、怖いものではないのですか?」

「そうでもありません。対等な関係を築こうと歩み寄れば、親切にしてくれる天人もいますよ」



とはいえ、京都は村人も町人も役人も天人嫌いが大半。

ひょこひょこ天人がそんなところに足を踏み入れれば、脇道でばっさりと叩っ切られる危険があるので、その空路はまず天人には使われない。

作ったはいいものの、というやつだ。

何某と名付けられたその船は、江戸と京との特産物などの物流を活発にしているだけだった。

操縦しているのは天人だが、白波はそれに乗船させてもらったのだ。



「では、峠さんは天人のご友人がいるってことですか」

「ええ。大体が猫耳生やしたおっさんです」

「・・・・・・なんだか夢が萎みました」

「私も経験があります。でも彼ら、耳のほかに肉球もついているんですよ。仲良くなったら触らせてくれました」

「猫耳・・・・・・肉球・・・・・・」

「ちゃんと若い女の子もいますよ。写真を見せてくれた人もいます。地球へ出稼ぎに出てきているのが野郎なだけらしいですよ」

「ですよね!」

「地球との交流が活発になれば、観光に来るかもと言っていました」

「けれどそれは、戦争が終わらないとだめですよね」

「そうですね。となると十数年は先の話ですし、多分写真の娘さんも所帯を持って旅行なんかに来ませんね」

「夢が潰れたアアァ!!!」


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あきゅろす。
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