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リコリス
13


どうしてこうなった。

白波は肩に担いだ荷物に顔を押しつけ、必死で表情を悟られないようにしながら心の中で唸った。



「先生、こちらの方は?」

「京でお土産を買いすぎましてね。増えすぎた荷物に困っていたところを手伝ってくださったんですよ」

「・・・・・・そうそうそうです。松陽さん、じゃあ私はこれでさようならごきげんようまたいつか縁があれば」

「まあまあ。お茶でも飲んでいってくださいよ」

「ほんと・・・もう勘弁してくださいもう帰らせて荷物運ぶまでって言ったじゃないですか」

「もうちょっとおしゃべりしていきましょうよ」

「来る道で散々したじゃないですかもう話すネタありません」

「私にはあるんです。ご近所さんに挨拶してくるんでその間近くを散歩でもしていて待っていてください。あ、この荷物は預かっておきますね」

「ちょ、それ私の剣・・・・・・」



・・・・・・うわあん。

ちょっと待ってください松陽さん、そんな白波を振り返ることも無く会話は終わってしまう。

目立つ髪を布に押し込んだ上に編み笠を深く被り、どうにか普通の旅人に見えなくもない体勢を繕った白波は、遠い目をしてマイペースな男を見送った。



「ええと、上がられますか?先生のご自宅ですけど」

「いえ・・・お構いなく。言われた通り散歩してきます。ありがとう」

「じゃあ、近くを案内しましょうか」

「お願いできますか」

「はい」



そう言って白波の手を引いてくれるのは、頭のてっぺんから足先まで手入れの行き届いた風貌をした12歳ぐらいの少年だった。

真面目そうな顔立ちと丁寧な言葉遣いは、先生に言われた訳でもないのに客人を退屈させないためにはどうすれば良いのかといろいろ考えている様子が見て取れた。



「申し遅れました、僕は桂小太郎と申します。松陽先生の塾に通っています」

「・・・・・・そうですか。私は竹河白波です、よろしくお願いしますね」



持っていた荷物が無くなったので軽い身体を揺らし、白波は軽く少年に会釈する。

ここへはもうよっぽどの事が無くては来ないと決めていたはずの彼がなんだってここに来ることになったと言えば、他の何でもなくあの松陽さんに引っ張って来られたのだ。

(・・・・・・はは、あの先生の勢いには勝てそうにない)

宥めすかされ大人しく連れてこられたが、白波が本気で抵抗しなかったのもまた事実だ。

だってそりゃ元気にしているのかな背は伸びたのかなとは言った。

そこには見て見たいなあ会いたいなあという気持ちも含まれていたことぐらい自覚はある。

それを逐一声に出して指摘され、抵抗心を削がれて腕を引っ張られればなあなあでここまで足を踏み入れてしまったのだから。

どこかで見たことのある顔をちらりと横目に見て、名前を反芻しながら白波は言う。



「ところで、桂君」

「小太郎でいいです。」

「じゃあ、小太郎君。君は本は好きですか」

「はい」



背負っていた荷物を足元に置き、数冊の本と巻物を取り出す。



「それならこれを貰ってくださいませんか?京で買ったものですが、持って帰るには多いので松陽さんに貰ってもらうつもりだったんです」

「これって絶版になった珍しいものでは・・・・・・こんなものを良いのですか?」

「いいんですよ。もともとマニアックな人しか読まないから絶版になった本ばかりです。読みたい人に貰ってもらったほうが良いでしょうからね」

「ありがとうございます。これ、読んでみたかったんです」


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あきゅろす。
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